医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


足の外科領域の最近の知見をまとめたレベルの高いハンドブック

足部診療ハンドブック
高倉義典,山本晴康,木下光雄 編集

《書 評》吉川靖三(筑波大名誉教授)

 足は手と相同の器官であり,その発生における分子遺伝学的機構も手と大きな差はないと考えられている。しかし,ヒトの足は進化の過程で手とは著しく異なる形態と機能を獲得するようになった。足が全体重を支えながら走行,移動するという機能を担うため,足には手とは異なった多様な臨床的な問題が発生する。またその解決には,常に荷重という過酷な条件への対応が難しく,結局未解決に永く残され,そのため注目されることも少なかったように思われる。
 しかし足の外科の領域においても,脊椎や股関節,膝関節などの領域に劣らず,着実に進歩が続いており,特にこの最近10年の発展は著しい。古典的な先天性の変形の領域に並んで,後脛骨筋不全症,足根洞症候群,強剛母趾など新しい病態が注目され,種々の新しい手術法が開発されてきている。
 このたび医学書院より出版された『足部診療ハンドブック』はこうした足の外科領域の最近の知見を,簡潔に読みやすい形にまとめたテキストとして大変時宜を得た企画である。
 編者の高倉義典,山本晴康,木下光雄の3氏は,日本足の外科学会で強力な牽引力となって働いてこられたリーダーの方々である。執筆者の方々は,編者代表として山本晴康氏が序文で述べておられるように,第一線でご活躍中のベテランから若手の先生方である。

エキスパートの経験が随所に

 内容を見てみると,A「総論」,B「小児・思春期編」,C「成人編」に分かれている。総論では足の発生,解剖に次いで,足の生体力学があるのが注目され,診断法は簡潔な疼痛性疾患へのオリエンテーションとなっている。Bでは先天性足部変形,骨端症,外傷が,Cでは変形,外傷・障害,炎症,腫瘍,麻痺,スポーツ障害・外傷の順に記載されている。疾患の多くの項目で初めに概念と病態が詳しく述べられており,疾患の本質が理解できるようになっている。一例をあげれば,アキレス腱滑液包炎,足底筋膜炎などで,骨の形態の変異と,バイオメカニカルな理解が大切なことがよく理解される。果部骨折,踵骨骨折,アキレス腱損傷などの外傷についても,新しい治療法の発展が漏らさず記載され,エキスパートの経験を随所に読み取ることができる。先天性内反足や外反母趾のような大きなテーマについては,ここですべてを扱うというわけにはいかないが,これは本書の目的ではなく,文献,既存の成書,手術書をさらに参照すべきであろう。しかし,全体としてはよくバランスのとれた頁の配分となっている。

臨床の第一線で働く医師に

 臨床の第一線において足の問題に出会った際,まず参照する頼りになる資料として,本書は大変引きやすく,読みやすく,レベルの高い内容である。これから勉学を深めてゆかれる若い整形外科医,研修医の諸君には特にお薦めできる書物である。
B5・頁440 定価(本体14,000円+税) 医学書院


次世代の癌の治療概念を提示するテキスト

Tumor Dormancy Therapy
癌治療の新たな戦略
 高橋 豊 著

《書 評》武藤徹一郎(癌研病院副院長)

 3人に1人が癌で死ぬ時代になった今,癌の克服は国民的課題である。多くの癌は早期に発見されれば手術によって治癒可能であるが,進行癌の約半数はいわゆる根治的手術を行なっても再発は不可避であるという現実がある。再発に対する対策の1つは抗癌剤投与であるが,その効果は常に腫瘍縮小を基準にして判定されてきた。「縮小なくして延命なし」が従来の抗癌剤治療の基本的テーゼであったのである。しかし,延命に結びつくほどの縮小がみられる抗癌剤は,とくに消化器癌においてはむしろ少ないのが現実である。それならば,抗癌剤の将来に希望はないのだろうか?

dormancy therapy

 本書の主題である「dormancy therapy」はこの疑問に対する答えを見事に用意してくれている。Prolonged NC,time to progression(TTP)など耳新しい言葉が出てくるが,これらはすべて「縮小なくして延命なし」に対するアンチテーゼであり,その概念がわかりやすい図表と実験結果によって解説されている。腫瘍が縮小しなくても(NC),延命効果が得られれば治療としての効果を評価すべきであるし,増殖までの時間(TTP)を延長することができれば,腫瘍縮小の有無にかかわらず治療効果を評価すべきであるという著者の主張は,誠に的を射たものであり,長年にわたり腫瘍学に携わってきた,優れた臨床家にしてはじめて言えることである。強力な抗癌剤を服用しても,しょせん完治が望めない以上,dormancy therapyで癌と共存し,QOLを保ちつつできるだけ長く生きるという,患者中心のこの新しい治療法はもっと広く検証されるべきであろう。抗癌剤だけではなく,血管新生阻害剤,アポトーシス誘導剤など,dormancy therapyに利用できる新しい手法が続々と登場してきたおかげで,この新治療法はさらに現実的なものになってきた。
 本書は長年dormancy therapyの研究を続けてきた著者が,その思いの丈を述べた名著である。本書には癌の生物学としての癌の転移・浸潤,癌の発育速度,癌化学療法の現況について簡潔に述べられており,この部分だけ読んでも初学者には大変役に立つ。しかし,何と言っても本書の特色であり圧巻は,第4章「なぜ今,tumor dormancyか?」,第5章「Tumor dormancyを得るための治療」の部分である。この2章の中に著者自らの研究成果と知識と信念のすべてが投入されており,簡潔にして要を得た記述は大変わかりやすい。優れたsurgical scientistにして初めて可能な著書であると言えよう。

すべてのoncologistに

 癌の完全消滅ではなく,癌との共存という治療法があってもよいと常々考えていた筆者にとっては,著者の主張するdormancy therapyは正に我が意を得たりの感があり,心より拍手を送りたい。しかし,「縮小なくして延命なし」を信奉する人にとっては,この考え方はなかなか受け入れにくいようで,この概念はまだ世の中に広く受け入れられているわけではなく,学会ではマイノリティであるが,これも新しい考え方が受けなければならない洗礼の1つであろう。しかし,本書が世に出たことによってdormancy therapyの概念がより広く理解され,臨床の場で利用されるであろうし,それを期待もしている。この意味で本書をすべてのoncologistにお勧めしたい。著者の問い“Must we kill cancer?”に“No, we must live with cancer.”と言える人が少しでも増えることを願っている。
A5・頁192 定価(本体3,800円+税) 医学書院


Interventional radiologyを理解するための指針

Interventional Radiology
Man Chung Han,Jae Hyung Park 編集

《書 評》片山 仁(順大名誉教授)

 Han MC教授はソウル大学放射線科主任教授,ソウル大学学長を歴任された私の畏友である。Park JH教授は第一のお弟子さんである。本書を手にして世界のHan MC教授が“Interventional Radiology”の極めつけを立派な成書として勝ち取られたという感じを強く持つ。心よりお祝い申しあげたい。Han教授は韓国ナンバーワンの放射線医学の指導者であるばかりでなく,米国通であり,アジア通であり,日本通である。世界の放射線医学の指導者としての活躍には畏敬の念をもって脱帽している。

新しいinterventional radiologyの創造

 Han教授はinterventional radiologyの将来性をいち早く見据え,自ら手がけ,指導されてきたわけであるが,その先見性は賞賛して余りあるものがある。本書は欧米(主として米国)とアジア(韓国と日本)のinterventional radiologistsがそれぞれの特徴を出し合って世界のinterventional radiologyをまとめたものである。少し古い表現であるが,東洋と西洋のinterventional radiologyが融合して,新しいinterventional radiologyを創造したとも言える。
 本書では血管性interventionと非血管性interventionに大別して記載してあるが,それぞれの地域に特徴ある疾患と執筆者の特徴を生かしてまとめられている。当然のことながらわが国は得意とする肝腫瘍のintervention,韓国からは胆道系,消化管,呼吸器系,脳神経系,欧米からは脈管系のinterventionについて解説されている。いずれも国際的な学会で活躍するエキスパートの執筆によるものである。
 新しいミレニアムに突入した今,20世紀後半に発達したinterventional radiologyをこのような形にまとめておくことは大変有意義であり,新しい発展のブースター的役割を演じるものと信じる。ニューミレニアムにおいてinterventional radiologyが放射線科医,内科医,外科医の間のバトルフィールドとなることは否定できないが,本書をもって放射線科医がinterventional radiologyのリーダーシップを確実なものにした。しかし,人類に貢献する医療はセクショナリズムに陥ることなしに,cost-benefitを考え,病める人を中心に行なわれるべきであることは当然である。
 本書の内容はinterventional radiologyをミクロ的に,あるいはマクロ的に理解する上でよい指針になるであろう。
頁776 \30,620 Lippincott Williams &Wilkins社刊


医学を学びたい人にお勧めの1冊

ガイトン臨床生理学
早川弘一 監訳

《書 評》永井良三(東大教授・循環器内科学)

分子の時代に必要となる知識

 現在の生命科学では,分子機能に基づいて細胞・器官・個体の機能を探るアプローチが大きな潮流となった。しかしながら,器官や個体のシステムは分子機能のみでは理解できず,フィードバック機構をマクロの視点から捉えなければならない。多くの臨床医の関心である病態生理学も,正常システムの解析に基づいて構築されることは明らかである。むしろ,微細な分子機能解析が近年隆盛となった結果,システムの全体像が見えにくくなったとも言える。また確かに発生工学の進歩により,個体レベルでの分子機能が解明されるようになったが,発生工学を応用できる種は限られており,ヒトをはじめとする大型動物の生理機能解析に対する適応にはまだ道は遠い。
 このような状況の中で,『ガイトン生理学』の邦訳書が,早川弘一日本医科大学学長の門下生のご努力で完成したことは,まさに時代の要請にかなったことと言える。全体の構成をあげると,「細胞生物学,生化学,分子生物学の基礎」に48頁,「興奮性膜,神経,筋肉」が64頁,「心臓」57頁,「循環」131頁,「腎臓,体液」120頁,「血液,凝固,免疫」56頁,「呼吸」69頁,「航空,宇宙,深海潜水」16頁,「神経(一般原理)」63頁,「感覚器」60頁,「神経 脳,自律神経」102頁,「消化器」58頁,「代謝」78頁,「内分泌,生殖」139頁,「スポーツ生理学」16頁,となっている。今回の改訂によりスポーツ生理学が追加されたことも本書の視点をより明確にしている。
 ガイトン博士は腎臓の圧ナトリウム利尿関係を詳細に解析し,高血圧発症機構に関する基礎理論を構築された研究者である。したがって本書でも,循環制御,腎臓,体液制御は特に重点的に記載されており,循環器学の専門家にとってはガイトン理論を理解する上でありがたい企画である。

個体機能をわかりやすく

 本書の視点はあくまでも個体機能の理解にあり,生理学の教科書というより,医学入門書といったわかりやすさが特徴である。また気楽にどの項目からも目を通せる読み物としても適している。さらに,項目によっては活字の大きさを変え,専門家向けの記述であることを明確にしているのも著者の意図が明らかで読みやすい。
 臨床医学を志す学生,大学院生だけでなく,医学部以外で生化学・分子生物学を学ぶ学生,さらに臨床循環器医や循環器研究者にも最適の好著と言える。医学に少しでも関心のある幅広い方々に推薦したい。
B5変・頁1156 定価(本体20,000円+税) 医学書院


新しい時代の理学療法士・作業療法士の教科書

標準理学療法学・作業療法学〈専門基礎分野〉 小児科学
奈良 勲,鎌倉矩子 監修 冨田 豊 著

《書 評》千代丸信一(北九州市立総合療育センター)

 冨田豊先生による『標準理学療法学・作業療法学 小児科学』が刊行された。本書は,われわれ理学療法士・作業療法士(以下,PT・OT)が必要とする知識領域を的確にとらえ,その整然とした解説は興味をひきつけ,またその内容は著者の理学療法・作業療法への造詣の深さをうかがわせる。

療育の場面で求められるもの

 リハビリテーション(以下,リハ)の領域では成人に比し,小児の占める割合は小さい。しかし小児リハ,特に療育の場面において,PT・OTがかかわる機能・形態や活動能力および行為能力への各障害をもたらす原因疾患は,神経・筋・骨格系疾患のみならず遺伝性疾患,代謝性疾患,または成長・発達障害等々,非常に多岐にわたる。しかも主な対象疾患の1つである脳性麻痺に示されるように,主症状としての脳性運動障害ばかりか,成長障害や痙攣,肥満などの全身健康状態の問題,視力や聴力の問題,口腔内の問題,言語や知能,行動,認知の問題,および変形や拘縮などといった筋・骨格系の問題等々,1次的,2次的に種々の問題を合併し,さらに成長・発達過程の中でそれらは変化していく。つまり,小児リハにおいては,障害とそれをもたらす原因疾患や状態像は多種多様であり,しかもそれらは成長・発達過程において大なり小なり変容していくという特徴を持っている。

小児の理学療法・作業療法の考え方

 そしておそらくPT・OTは患児やその保護者と接する中で,運動機能や活動・行為上のことばかりでなく,疾患に関することや将来の見通しや心理的な不安等々,その他諸々の質問や相談を受ける機会も当然多いであろう。その際に適切なアドバイスやサポートができるように幅広い知識と技術,人格的受容力を備えておくことが必要である。したがって療育に携わるPT・OTは,神経・筋・骨格系のいわゆる運動系疾患についての知識のみではいかにも不十分であり,心身の成長・発達過程に精通し,小児疾患に関する知識などをも幅広く身につけておくことが必要である。このことは療育に携わる一理学療法士として,私が日頃実感していることであるが,著者の冨田先生も本書の序説でいみじくも述べておられる。すなわち「小児の理学療法や作業療法の分野は,ある特定の領域の技術供与を重要な特徴とするが,ただその領域の中にはまり込んでしまうだけではいけない。常にその一方で,小児にかかわる医療や文化のありとあらゆる分野に目配りをして,特定領域だけに窒息してしまわないようにする必要がある」と記し,また「積極的に患者やその家族の相談相手として医療に携わっていく時代が到来したのではないだろうか」とも期待を込めて述べておられる。
 上述のような考えに基づいて本書『小児科学』はまとめられている。PT・OTが理解しておくべき疾患について,胎児期からの小児期に至る発生・成長・発達過程を踏まえ,その発生機序,症状,診断,治療へと展開する説明は非常にリーズナブルであり,読みやすくかつ理解が得やすい。また図表や写真,Advanced Studiesは適宜挿入されており,読者の理解を助け深めるために非常に効果的である。
 本書が,理学療法学・作業療法学を修めようとしている学生や,すでに臨床に携わっているPT・OTのみならず,療育に携わっている看護職,保育士などの他職種にとっても大変有用であると私は確信し,広く普及することを願いたい。
B5・頁224 定価(本体4,000円+税) 医学書院


最新の知識とノウハウをまとめた信頼できる解説書

スポーツ医科学ハンドブック
(財)神奈川県体育協会 編集

《書 評》中原凱文(東工大大学院社会理工学研究科教授・人間行動システム専攻)

 この『スポーツ医科学ハンドブック』を拝見した時に,タイトルからして「難しそう」という印象を持った。しかし,読み始めると,一気に読み終えてしまった。それほど読みやすかったのと,肩の凝らない文章であったこと,さらにこの本の構成がよかったためと思われる。

スポーツに携わるすべての人に

 今日多くのマスコミ等で,「健康」「体力づくり」の話題が何かにつけ報道され,また,多くの出版物が出されており,「健康づくり」,「体力づくり」に関する情報が氾濫している状況である。中には読者の注意を引くために,スポーツを行なうことが“万能特効薬”であるが如くの書物,「これがベストである」風の主張の書物などを見かける。このような状況の中で,本書は(財)神奈川県体育協会が編集し,臨床医学,スポーツ医科学ならびにスポーツ指導などの専門家の先生方により執筆され,今日の最新知識とノウハウを総合的にまとめた信頼できる本である。一般の人(家庭の主婦やサラリーマン)から栄養士・臨床の現場に携わる人,さらに教育現場の先生方まで幅広く読んでいただける存在のものであると思われる。特に,いろいろな状況の中でスポーツ指導を行なっている人たちにとっては,必携となる本と言えよう。

スポーツを目的別に分類

 本書の特徴は,その構成と内容にあると思われる。すなわち,序章,こどものスポーツ,競技スポーツそして生涯スポーツの4章から構成されており,幅広い内容である。各章の項目の説明・資料等は,基本的には見開きの2頁に,簡易で,読みやすい文章でまとめられており,理解しやすい図・表が紹介されている。序章の中で「スポーツ医科学とは何か」が説明され,スポーツを行なう年齢によって目的,方法,問題点が異なるために,こども(発育期)のスポーツ,勝つことを目的とした競技スポーツ,楽しみや健康のための生涯スポーツとに区分し,それぞれに最もよくみられる事柄をまとめた理由が述べられている。
 もう1つの特徴は,このように,こどものスポーツ,競技スポーツ,生涯スポーツと区分した各章に,以下のAからDの4つの内容が要領よく含まれていることである。すなわち,Aでは各項目にちなんだ整形外科的な背景(疾患,原因と問題点など),Bでは内科的な背景(同様),Cでは各項目にかかわる運動生理・トレーニングに関係した基本的要因の解説,そしてDでは「スポーツを守る,支える」要因である心理学的・栄養学的内容の解説または施設面,運営面などの解説となっているため,この本を読むことにより,数冊の本をばらばらに読む手間が省けることになる。従来はこのような諸点について調べるのには,各々の専門の教科書を探らなければならなかったことを考えると大変便利である。
 ぜひ,手元に置いておきたい本の1つである。
A4・頁136 定価(本体3,400円+税) 医学書院