医学界新聞

 

ヒトゲノム計画 第21染色体解読完了


 さる5月8日,第21染色体のDNA塩基配列の解読が完了し,日本とドイツそれぞれの国で記者会見が行なわれた。日本では研究の中心となった榊佳之氏(理化研ヒトゲノム科学総合研究センター=プロジェクトディレクター)のグループと,第22染色体解読にも貢献した清水信義氏(慶大)のグループらが会見に参加した。この成果は5月18日発行の科学誌「nature」に発表されている。
 日本,ドイツ,フランス,スイス,米国,英国の62人の科学者からなる第21染色体地図作成・配列解読コンソーシアムは,この染色体長腕の99.7%をカバーするクローン整列地図を作成し,これをもとにDNA塩基配列を決定。約3400万の塩基が解読され,3個のクローンギャップ,7個所のシークエンスギャップを持つことが明らかになった。その中で225個の遺伝子が発見され,今日までに同定されている127の遺伝子に加えて,98の新規遺伝子,59の偽遺伝子が発見された。
 この染色体は,昨年末にヒトの染色体で初めて解読された第22染色体(Nature 402, 489; 1999)と比較すると,大きさはほぼ同一であるが,約半数の遺伝子しかないことが判明。特に,7Mb(大腸菌の全ゲノムよりも長い領域)にわたって既知遺伝子がわずか2個,新規遺伝子も数個しか存在しない領域があり,今までに例のない遺伝子低密度領域が発見されている。これは他の染色体にも同様の可能性が予測され,榊氏は「この構造の持つ生物学的な意味を解明するのは今後の課題」とした。またこの知見から,「現在10万個と推定されている人の遺伝子の数は,実際にはかなり少ない可能性が強まってきた」と述べた。
 さらにこの成果から,染色体の分配に必須であるセントロメアの両側に,1万塩基にわたる重複する配列が発見された。この構造は他の染色体にも存在することが推定され,セントロメアの共通構造である可能性が示唆された。また細胞寿命に関わるテロメアについても,他の染色体と共通する93塩基の繰り返し配列の存在が認められた。
 第21染色体上には,急性骨髄性白血病や早期発症型アルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症などの原因遺伝子がすでに発見されている。今回の解読により,すでにこの染色体にマップされているダウン症候群やがん,躁うつ病,難聴などの原因遺伝子が早期に発見されることが予想され,今後の研究の発展が期待される。