医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


患者が自己実現へ向かうための支援

看護過程における患者-看護婦関係
サンドラ J. サンディーン,他 著/川野雅資,森千鶴 訳

《書 評》金城祥教(静岡県立大教授・精神看護学)

看護者自身が「自己」について学ぶ必要性

 本書は人間関係論に基づいた看護過程の展開に必要な知識と,技術に関するテキスト「Nurse-Client Interaction-Implementing The Nursing Process」の訳本である。本書では看護者は,患者の問題解決にいたるプロセスでのパートナーとして,また患者自身が自己実現へ向かうための支援者として位置づけらている。そのために看護者自身も「自己」に関する知識と理論を学ぶ必要性を説いている。
 この書は精神科看護のみならず,ひろく慢性疾患患者に対して治療的看護援助を行なう者に役に立つ理論書である。
 内容としては第1章が看護過程に関する定義,第2章,第3章が自己と自己成長に関する理論,第4章,第5章がコミュニケーション理論で特に治療的なコミュニケーションについてその技法が詳述されている。また第6章,第7章がクライエント-ナース関係の理論的概念と支援関係のプロセスについて書かれており,第8章ではグループアプローチに関する理論がまとめられている。

治療的対人関係の理論

 本書の特色は,看護過程とは治療的な看護援助のプロセスであるというコンセプトの中で,ペプローやオーランドなどの看護理論はもとより,サリバンの人間関係論やエリクソンの発達理論などが大変学習しやすいようにまとめられている。治療的対人関係の理論を精神看護学の基礎理論として体系づけられたテキストである。したがって新カリキュラムにおける精神看護学を担当される教員にとって,本書は大変役に立つ書となろう。また単元ごとに「あなたならどう考える?」というコラムがあり,クリティカルシンキングの能力開発にも役立つように工夫されているため,学生の主体的な学習や看護婦のグループディスカッションにも効果的な内容となっている。
 さらに本書はプライマリケアがシステム化され,患者との1対1の関係を生きる臨床の看護婦にとって人間関係論の理論的な知識を得ることができる。

臨床教育に活用を

 一方,人間関係論を軸においた精神看護実習においては「学生にとっては大いに学びが得られるものの,その反面患者さんを疲労させ,場合によっては患者さんの症状を悪化させる」と耳にすることがあるが,本書は患者とのコミュニケーションプロセスや関係性のプロセス,特に関係の終結(ターミネーション)の仕方についての技法を理論的に学ぶことができる。そのため看護教員や臨床指導者が,学生指導のために本書を十分に理解されその理論を活用することをお薦めしたい。
 最後に本書では発達理論やコミュニケーション理論をはじめ,心理社会的な理論など人間関係理論を網羅して学ぶことができるが,残念なことに原著の第9章,ストレスと適応理論が翻訳から除外されている。次回の第2版では掲載を期待したい。
B5・頁216 定価(本体2,900円+税) 医学書院


給付管理担当者に「福音」となるこの1冊

これならわかる「給付管理」
現場で使える帳票記入マニュアル
 介護保険給付管理研究会 編集

《書 評》高野龍昭(益田市立在宅介護支援センターくにさき苑)

ケアマネジャーの憂鬱

 とうとう2000年4月1日。新ミレニアムでの社会保障構造改革の先鞭として,介護保険制度の幕が切って落とされた。
 そんな中,大きな期待を担いつつ,そして資格取得がある種のブームと思えるほどに過熱して話題となった介護支援専門員(ケアマネジャー)の仕事が同時に本番を迎えた。
 ところが,いざ活躍の機会を得たはずの全国16万人の介護支援専門員は,十中八九,元気がない。それどころか,資格取得したこと自体を後悔する声もあちこちから聞こえる。
 実は,評者も現場の介護支援専門員。その気持ち,とてもよくわかる。まったく同感。
 なにしろ,毎日が想像を超える書類の山との格闘。利用者やサービス事業者からひっきりなしにかかる電話の応対。パソコンとのにらめっこと電卓叩き……。利用者の自宅を訪問している暇なんてありゃしない。相談技術もアセスメント・ケアプラン作成もどこかに飛んでいってしまって,サービス利用についての金額の勘定ばかり。ましてや,スタートしたばかりの制度でわからないことだらけ。制度も複雑。行政資料を読んでもわかりにくい。

元凶は「給付管理業務」

 そう,その元凶は「給付管理業務」だ。
 介護支援専門員の仕事はケアプランを立てることだけではない。それに併せて,ケアプランに位置づけたサービスの費用計算をしながら,各利用者の要介護状態区分ごとに決められた支給限度額との照合をして,常時その金額管理をしなければならない。それにまつわるさまざまな帳票も作る。これが,給付管理業務。予想もしなかったほど多忙な仕事……。
 この事務的な業務を何とか上手にこなさなければ訪問・相談の時間もとれない。
 現実,ここにミスがあると,サービス事業者への介護報酬支払いが滞ったり,利用者の払う利用料負担に誤りが出たりと大きな支障をきたす。ある意味では一番重要な業務だ。でも,介護支援専門員のベースは保健・医療・福祉の現場の職種。事務的な仕事なんて初めて。これが,冒頭に述べた介護支援専門員の元気のなさと後悔の原因である。
 こんな現状の中で,評者自身も,この給付管理業務をわかりやすく教えてくれるマニュアル本はないものか,と悩んでいた。その矢先,この書籍が発刊された。タイムリーとは,まさにこのことである。
 本書は,序章を含め4つの章で構成される。
 まず,序章と第1章で介護支援専門員の役割の再確認をし,その上で,ケアマネジメント・給付管理業務を実施する上でのポイントや留意点を実務の流れに則して平易に解説している。
 また,第2章では給付管理業務で必要な帳票の概要について要点を押さえて示している。
 そして,本書で一番特徴的なのは第3章で,帳票記入の実際について具体的な事例を用いてきわめて実践的に教えてくれる。その事例数は20ケース。シンプルなケースだけでなく,給付管理で骨を折りそうな難解なケースをさまざまに示しており,実際にこうした事例に遭遇したときの現場の疑問に即座に応えてくれそうだ。例えば,月途中に要介護状態区分が変更になる場合や,予定通りのサービスが提供されずに計画変更が必要な場合など,介護支援専門員の胃が痛くなるような事例の給付管理業務を見事に解説している。
 これまで,給付管理業務の流れについては行政資料だけが頼りで,評者自身,そのわかりにくい役所言葉の読み下しに辟易していた。だが,本書はこれを噛み砕いてやさしく説明してくれる。
 介護支援専門員にとっては,給付管理業務でわからないことがあると,まずは本書でそれと類似の事例を探して調べると疑問が解けるという「辞書代わり」の1冊になるであろう。実際,評者も,早速このように本書を毎日のように活用しているところである。
 ただし,給付管理業務は介護支援専門員だけが熟知していても機能しない。各サービス事業者も同様に理解をしてもらわねば,サービス変更の連絡時や請求事務などの際,トラブルを生じ兼ねないものでもある。この意味で,願わくば本書の続編として,今度はサービス事業者向けの介護給付費請求マニュアルを期待したい。なにしろ,介護支援専門員のみならず,関係者みんながビギナーなのだ。

介護保険は「利用者本位」

 いずれにしても,なにより大事なのは介護保険が「利用者本位」の具現化を指向している制度であることの意識である。そこで,介護支援専門員には,本書を活用して利用者に対する介護給付費の「インフォームド・コンセント」をぜひとも実践してほしい。
 そしてその意味では,もしできることなら,自らの介護に関するコスト意識と介護支援専門員の評価を行なうために,サービス利用者・家族にも自宅に備えてほしい1冊だ,と思うのは欲張りであろうか。次は,利用者向けのこのようなマニュアル本が求められるのかもしれない。
A4・頁300 定価(本体3,200円+税) 医学書院