医学界新聞

 

第1回日本ロービジョン学会開催

花田妙子(熊本大学教育学部看護教員養成課程・助教授)


日本ロービジョン学会が設立される

 さる4月9日,第1回日本ロービジョン学会学術総会が,田淵昭雄会長(川崎医大眼科・教授)のもと,京都市の京都会館で開催された。
 本学会は,「視覚に障害を有する児・者のリハビリテーション,リハビリテーションに関する学際的な研究および臨床の向上と,会員および諸外国との交流」を目的としており,同日開かれた設立総会には,全国から約500名の参加者が集まり,正式に発足となった。
 また本学会には,「視覚障害児・者のハビリテーションを効果的に行なう」ために,眼科医,看護職,視能訓練士などの医療関係者,および養護教諭,盲学校教師など教育,福祉等さまざまな職種の専門家が参集。クライアントのQOLを保持・増進することを目的に,よりよい治療・ケアを提供できるように各関係者が緊密な連携を取り合い,その方策などを探求することをめざしている。
 看護の領域においては,視覚障害児・者の心理的ケアとともに保有視機能を最大限に活用し,日常生活における支障の内容や程度をアセスメントでき,社会での活動範囲を広げる歩行・日常生活指導などQOLを向上するロービジョンケアにかかわるすべての看護関係者が含まれる学会である。
 なお今学会では,丸尾敏夫氏(帝京大)による基調講演「ロービジョンへの眼科医の対応」や,Jerome A. Catalino氏(ハーバード大)の招待講演「Rehabilitation of the Visually Impaired Patient」が行なわれた他,ワークショップ「21世紀へのロービジョンケア」を企画。また,学術展示が13題あり,活発に討論が行なわれた。

21世紀のロービジョンケア

 丸尾氏は基調講演で,「眼科リハビリテーションは地域差が大きく,ロービジョンクリニックが既設されている地域においてもまだ十分にはその機能が働いていない」と指摘。視覚障害者の治療,ケアの現実的問題をあげるとともに,今後の学会活動および役割の方向を示した。
 一方ワークショップでは,唐木剛氏(愛知県心身障害者コロニー中央病院)が乳幼児に対するロービジョンケアについて,心身が発達過程にある特性から早期の視覚訓練の必要性,地域社会での療育方法の向上の大切さを述べた。また川瀬芳克氏(愛知県総合保健センター)は,学童のロービジョンケアについて学校との連携の必要性に関し,事例を通して解説した。
 久保明夫氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター)は,青・壮年者のロービジョンケアに関して,「生活訓練や職業訓練的な援助にとどまらず,最新の科学技術を駆使しながら個々の患者のニーズにそったQOLの向上を図る必要がある」と指摘した。さらに,高橋広氏(柳川リハビリテーション病院)は,高齢者に対する眼底カメラの書読訓練への応用について口演。糖尿病や中枢神経疾患などを合併して生じる視覚障害の特徴を示すとともに,「日常生活訓練は辛い場合が多く,あきらめてしまう例が多い」と述べ,高齢者に対する治療的訓練・対応の試みなどを紹介した。

期待される看護分野の活動

 失明やそれに近い状態,視覚障害が進んでいくことが免れない場合をはじめ,視覚リハビリテーションが必要な場合,看護職はクライアントがその状態を受け止められるようメンタルヘルスと合わせてQOLを保ち,日常生活を過ごしていけるように,医師や視能訓練士らとともにケアしていく専門的な技術が要求される。
 しかし,ロービジョンケアの実践的研究はまだまだこれからである。また本学会は,治療の最終評価を患者のQOLに置いた,より全人的な医療の幕開けを明確にした学術団体と言える。看護の主体は,患者を生活体ととらえて患者のQOLを中心にケアしていくことであり,この領域で看護が担う役割は大きいと考えられる。そのため,多くの看護職が学会の趣旨に賛同し,参加されるとともにその活躍が期待されている。
 なお,同学会の第2回学術総会は,明年4月22日に,高橋広会長のもと,横浜市で開催される。ついては,看護関係者のさらなる参加が今後の学会発展の原動力になると思われるので,ぜひの参加をお願いしたい。また設立総会では,欧米においてはすでに活動が進んでいるロービジョン国際学会を,日本で2005年に開催できるよう努力していく方針が確認された。
・連絡先:〒701-0192 倉敷市松島577 川崎医科大学眼科内 「日本ロービジョン学会」事務局
 TEL(086)462-1111/FAX(086)463-0923
 E-mail:tabuchia@mw.kawasaki-m.ac.jp