医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 介護保険狂騒曲

 馬庭恭子


 5月は本当にめまぐるしく,多忙を極めた。今振り返ってみてもどんなに忙しかったかを思い出したくないくらいである。新しい制度の導入時にはこんなものかもしれないが,居宅介護支援事業所を開設し,そのケアプラン,給付管理業務の事務作業に行政の制度の補足説明などの情報を得ながら,利用者を訪問。そして,各指定業者に電話・ファックスをしながら,はたまた電卓で計算しながら……訪問看護とケアマネジャーの兼任である身の上としては,猫の手どころか,熊の手でも借りたい心境である。
 聞くところによると,ケアマネジャーが過労で倒れた,うつ状態になった,退職した……という。前途が暗いことばかりである。さらに追い討ちをかけて,パソコン入力のためのソフトがうまく作動しない,間に合わないという状況もあり,レセプト請求は,手書きの事業所が多かった,ということは周知である。また,つくづく感じるのは,サービスにおけるマンパワー不足である。じっくりと利用者本人,家族の意見を聞き,要望に沿ったプランニングをしようと,実際にあちらこちらの事業者に電話をし,調整を図るのだが,人が整わず,希望の時間,曜日は満たされず,さらに事業者リストをチェックしながら,また電話をかけ直すという作業を行なうのである。
 はたまた,電話がすぐ通話できるとは限らず「ツー・ツー」……焦る気持ちで,ついビンボーゆすりをしてしまう。
 「ヤッター!希望どおりのプランでいけそう!」と小躍りする。とたん,電話が鳴り,「スイマセン。やっぱり曜日変更できませんか……」
 こんな日々を重ねながら,訪問看護もするという離れ業をこれからしていかなくてはならない。いずれ,専任のケアマネジャーを雇用し,役割分担をしていく必要性はわかっているのだが,常勤待遇していくためには,あまりにもケアプラン代は安く,「居宅支援事業所」として独立することは困難であることは,もう誰にでも明らかだ。
 先日,利用者のご家族の仕事が終わり,帰宅時間に合わせて調整にうかがい,話を聞いているうちに思わず絶句してしまうことにぶつかった。
 医師に,「こんなに医療依存度が高いのに,何で家に連れて帰ったのか」と怒鳴られてしまった。ケアマネジャーには,「全部あなたの言われるようにはなりません。いったいどうしてほしいんですか」と投げやりに言われ,途方に暮れて泣いてしまった。等々,1時間が過ぎ,2時間過ぎ……でもじっと聴いた。
 その家の玄関を出た時にはとっぷりと日が暮れ,私は気が重くなってしまった。しかし,ここでへこたれていては,専門家として失格である。この利用者にとって,「ああ,いいケアマネジャーに出会えてよかった。これで安心して療養できる。介護をまた,がんばろう」と思ってもらうには,ここで一発,私ががんばらなくてはならない。
 翌日から,気持ちを取り直して,エンジン全開で仕事。両手を熊の手にして,この介護保険に立ち向かわなくては!