医学界新聞

 

人工股・膝関節置換術の看護を日米から報告

「整形外科看護国際フォーラム」開催


 さる4月9日に,第73回日本整形外科学会(水野耕作会長,4月8-11日)と日本整形外科看護研究会(武田宜子会長,参照)の共催による「整形外科看護国際フォーラム」が開催。当初の予想を大幅に上回る約1300名の参加者が,全国各地から会場となった神戸市のワールド記念ホールに参集した。
 本フォーラムは,1昨年に開催された第71回日本整形外科学会(1998年4月17-20日,会長=徳島大 井形高明氏,徳島市)の特別企画としてはじめて開催されたが,今回はそれに次ぐ開催となった。なお,前日に発足した日本整形外科看護研究会の初の事業となった同フォーラムは,「わが国は超高齢社会を迎え,運動機能系とりわけ骨・関節系の疾患の方々が増大し,重要な医療問題となっている」(武田氏)として,その治療法としての大きな分野である「人工関節置換術」を受ける患者の看護をテーマとした。

日米からの報告

 今フォーラムでは,DRGのもとで人工関節置換術の患者の在院期間が1週間に満たないアメリカでは,どのような看護プログラムが展開されているのかをアメリカの整形外科専門看護婦であるDottie Powers氏(Cleveland Clinic Foundation)とKathy Hogan氏(The Valley Hospital)が解説。Powers氏は午前と午後の2部構成で「人工股関節置換術後の看護プログラム」「人工膝関節置換術後の看護プログラム」を講演。Hogan氏は,本フォーラムの最終演題として「クリニカルパスウェイプログラムの作成と導入方法」を講演した。
 一方日本側からは,整形外科看護領域の将来を担う若い世代の看護婦・士である4名が登壇。(1)人工股関節置換術患者の看護-安全かつ安楽な臥床生活への援助(東大病院 藤原敏志氏),(2)術前の皮膚消毒と術後感染(横市大看護短大 廣町佐智子氏),(3)人工膝関節置換術後の疼痛と後療法(千葉大病院 柳本優子氏),(4)変形性膝・股関節症患者のダイエットプログラムとその効果(横浜市大病院 横井純子氏)の4演題が報告された。

アメリカに学ぶもの

 日本では,術前後の入院期間が約1か月かかる人工関節置換術だが,Cleveland Clinic Foundationでの平均在院期間は4日間という脅威の速さである。Powers氏は,「精密に計画されたクリニカルパスを用いているため,患者のケアの質を維持しつつ在院期間を短縮できる」と分析しており,術前からの筋肉運動などのケアが手術に与える影響は大きく,重要であると指摘する。「患者教育が在院日数の短・長期を決める」と語るPowers氏は,患者の術前準備,術後ケアに対する看護の役割は大きく,「自分だったら……」という姿勢が必要なことも強調した。
 また,術後の痛みのコントロールをしつつ,術後1日目から立位,歩行などの訓練を実施。2日目からはリハビリテーション室でのアクティブな自動運動を開始する。両膝に疾病のある場合は両膝同時に手術を行ない,訓練も同じように開始する,という日本では考えにくい実態が紹介された。Powers氏は,「両足同時で痛みは2倍になるわけではなく,2度の手術に分けるよりは,痛みは1回,麻酔も1回のほうが患者にとってはリスクが少なく,リハビリテーション効果もよい」と語る。その上で,「術後の筋力トレーニングは患者自らが実行するものであり,どのように行なうかは患者が決めるもの」と述べ,その際のサポートは看護の重要な役割であることも指摘した。
 さらに,日本でも本格的な検討が余儀なくされつつある在院期間の短縮については,「患者の文化的なニーズや家庭・地域社会内でのサポートシステム,年齢,健康状態を考慮する必要がある」と述べた。その一方で,看護職の責務に関しては「患者や手術についての知識をできるだけ持つこと。知識はカンファレンスへの参加,書籍・雑誌や論文を読むこと,質問をすることによって養われる」と述べ,それが患者への効果的なケアにつながることを示唆した。

日本における試み

 一方,日本側の藤原氏からは,東大病院整形外科病棟では,通常術後5日目に離床許可となること,合併症予防のための体位交換法や,深部静脈血栓症の予防として術直後から4週間の弾性ストッキング装着などの工夫が紹介された。
 また廣町氏は,術前皮膚消毒の実態アンケート調査結果を報告。全体の63%にあたる137施設が術前皮膚消毒をしていると回答し,その時期は術直前から3時間以内が主であるものの,18時間以前という施設もあった。また,術後感染は19施設(8.8%)にみられ,皮膚消毒の有効性については「効果は小さい」ことをデータから明らかにした。
 柳本氏は,千葉大病院の実態について,術当日より底背屈運動を促し,術後2日目の創部ドレーン抜去後からCPM(持続的他運動器械)による他運動関節運動を開始。各週ごとの目標を設定し,4週で一本杖歩行までをゴールとするプログラムを紹介。その上で,術後鎮痛薬の使用について,「患者にガマンをさせないことを前提に,鎮痛薬による疼痛緩和を図っている」と,鎮痛薬量と治療効果の関係も検討した。
 さらに横井氏は,横市大病院整形外科が実施している食行動教育(ダイエット)プログラムを紹介。その効果について,(1)自己認識の歪みが修正された,(2)食行動上の問題が改善された,(3)総摂取カロリーが適正化された,(4)BMI値が標準値に近づいた,(5)痛みが改善された,と報告した。