医学界新聞

 

あなたの患者になりたい  

SP実習をしてくれない

佐伯晴子(東京SP研究会)


 ある医学生の集まりに招かれた時です。医療面接やSP実習をやってくれないので自分の大学のカリキュラムは「遅れている」とおっしゃる方がいました。SP実習がTVや新聞に登場することがめずらしくない今日,身近にその機会が得られないのを残念に思う気持ちはわかります。確かにSP実習は「新しい教育技法」としてOSCEと一緒に紹介されてきています。教育方法として新しいのは事実でしょう。しかし,学習の目標とされていることは,本質的なごく当たり前のことだと私は思っています。
 東京SP研究会がお手伝いするSP実習は患者さんとのコミュニケーションを基本的なところから始めます。複雑な場面ではなく日常的なやりとりの中で互いに感じたことを中心に,医療者と患者さんの出会いを考えていきます。医療面接が要領よくできる以前に,同じ人間として出会うこと,自分の言動が相手にさまざまな感情を引き起こすことなど,素朴ともいえる気づきを大事にします。
 よどみなく終了した面接をSPが「先生のペースで進んでしまったので,自分から言い出すきっかけがなく残念でした」と述べることもあれば,「他にありませんか?」を連発され「もっと症状を詳しく聞いてもらいたかった」と話すこともあります。これらの感想はそのSPがその場で感じたことですが,患者さんの感じ方は百人百様。同じ人でも状況で感じ方が変わります。
 ですから正解はありません。ただSPがなぜそう感じたのかを考えることで,自分のコミュニケーションを見直すことができます。相手の言葉や表情に注目し疾患以前にその人へ関心を持つことができれば,患者さんからも注目と関心が返ってきます。それが信頼関係の第一歩です。信頼は,相手を理解しようとする相互努力の過程があって可能になるということを忘れないでほしいと思います。
 またSP実習を「してくれない」場合,日常生活の中で自分1人でもその気になればコミュニケーション学習を行なうことができます。大学や病院の中に限って見ても,毎日挨拶せずに通りすぎている相手はいませんか?自分の必要だけで話をするのは一方的な命令や依頼にすぎません。コミュニケーションは双方向なものです。挨拶する相手を選ぶことは,いわばコミュニケーションの間口を狭くすることです。忙しさを理由に人を人と見なくなるのは現代人に共通の欠点だと思います。挨拶すれば軽く見られるなど子どもっぽい発想は捨てませんか?大人としてプロとしての自分を意識するなら挨拶が怖くなくなるはずです。そこから話が始まります。誰から何を教わるか,思いがけない発見があるかもしれません。
 医療の文化に入ってしまうと他の文化と接点を持つ機会が少なくなりがちです。医療以外の文化からやってくる患者さんとのコミュニケーション学習の基礎は,日常の習慣にあると言えます。
 さて,それでもSP実習を経験してみたい方に下記の東京SP研究会自主セミナーをご案内します。

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●東京SP研究会自主セミナー
 参加者募集中 6月3日/東京

 東京SP研究会は第1回自主セミナーを,きたる6月3日に豊島区池袋保健所(1階)で開催する。本セミナーでは,SP実習および,参加したSP,医学生・研修医,指導医による自由討論を行ない,医療面接のあり方を考える。
・定員:10名程度
・連絡先:東京SP研究会事務局
 E-mail:harutksp@dl.dion.ne.jp