医学界新聞

 

第86回日本消化器病学会開催


 臨床医学の細分化が進む中で,会員数2万6千余名を擁し,昨年創立100周年を迎えてわが国屈指の学会となった日本消化器病学会の第86回総会が,朝倉均会長(新潟大教授)のもと,さる4月20-22日,新潟市の新潟県民会館・他において開催された。
 今回の学術講演では,会長講演「潰瘍性大腸炎の病態と治療」,中澤三郎氏による理事長講演「消化器病の新たな目標-生活習慣病をわれらの手に」の他,特別講演4題,招待講演6題,From Bench to Bedside6題,教育講演7題,シンポジウム9題,パネルディスカッション9題,ワークショップ10題を企画。
 さらに,International Symposiumとして,「H. pylori and Gastric Cancer」,「Recent Progress in Type C Hepatitis」,「Liver Transplantation for Fulminant Hepatic Failure」,「Virtual Reality in Gastroenterology」など,国際色豊かなシンポジウムが企画された。


炎症性腸疾患の病態解明 第86回日本消化器病学会の話題から

 最近の厚生省特定疾患登録によれば,炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel diseases)のうち,潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は過去10年間で約3倍増となっている。そして近年,その病態の新たな知見が蓄積されつつあるものの,再燃,増悪,寛解を繰り返しながら慢性の経過をたどる難治性疾患であるため,いまだに根治的治療は確立されていないのが現状である。
 第86回日本消化器病学会総会では,会長講演,シンポジウム「炎症性腸疾患の治療の進歩と治療法の選択」を受けて,パネルディスカッション「炎症性腸疾患の病態解明」(司会=慶大・日比紀文氏,長崎大・牧山和也氏)が企画され,14名のパネリストによってIBDの病態解明研究の成果が披露された。

CDにおけるIL-6とIL-18

 IBDの病態に強く関与する因子として各種のサイトカインがあげられているが,伊藤裕章氏(阪大)は,CDにおける炎症性サイトカインIL-6とTNFαの切除腸管全層の発現を比較した。
 伊藤氏は後者が主に粘膜側の炎症性細胞に発現し,その強さは疾患活動性に比例する傾向があるのに対して,前者は粘膜側にも漿膜側にも発現し,時に漿膜下の血管内皮に強く,寛解期の非病変部にも認められることに注目。CDの発症に前者がどれほど重要な役割をはたしているかを検討した。
 そしてその結果を,「ヒトやマウスの検討から,IL-6は接着分子を介した白血球のリクルート,Th1やマクロファージ系サイトカインの産生,腸粘膜でのiNOSの誘導によって起こると思われる粘膜バリアーの破壊,Tリンパ球のアポトーシス異常などに深く関わっており,CDの発症には不可欠である」と報告した。
 一方,金井隆典氏(慶大)は局所マクロファージ由来サイトカインであるIL-18のCD病態への関与を検討し,「IL-18はヒトCD由来LPLに対して,Th1分化誘導するだけでなく,IL-2/IL-2R機構を介した増殖活性を示す。さらに,CDマウスモデルであるTNBS免疫腸炎マウスの大腸炎症惹起にIL-18が観することが示され,ヒトCD腸管粘膜における炎症に局所粘膜マクロファージ由来IL-18の関与が示唆された」と述べた。

TNFα遺伝子5'側領域とCD

 また,最近はTNFα遺伝子5'側領域(TNFαの転写に影響を与えている可能性が高い)やIL-4受容体遺伝子内に新たな多型が報告され,それらの機能に影響を及ぼすことが示唆されている。
 根来健一氏(東北大)はこの問題を検討し,「TNFα遺伝子5'側領域多型(-1031,-863,-857)とCDとの相関が,単に連鎖によるものなのか,独立の疾患の危険因子となっているかは,さらに検討する必要がある」と指摘し,さらに,「TNFα遺伝子がCDの感受性遺伝子である可能性が示され,これらの多型とCDとの関係は,より多くの症例で,また異なる人種でも検討する必要がある」と示唆した。
 続いて木内喜孝氏(Oxford大)は,根来氏の示唆を踏まえて,HLAハプロタイプが日本人とは異なる英国において,TNF遺伝子多型とCDとの相関の比較・検討を次のように要約した。
 (1)英国のCD患者においても,-1031における変異型対立遺伝子と有意な相関を示し,-863においても相関する傾向を認められる。
 (2)このことは,この多型がCD感受性に影響を与えている可能性が高いことを示している。
 (3)また,日本人における-857との相関は,日本人に特殊な相関か,あるいは近傍に位置する別の感受性遺伝子との連鎖不平衡による影響と考えられる。

多面的なアプローチ

 次いで,実験モデルマウスによる研究の発表(新潟大・鈴木健司氏,阪大・岸大輔氏,久留米大・光山慶一氏,防衛医大・加藤真吾氏)の後に,「IBDにおけるASCA(anti-Saccharomyces cerevisiae antibody)およびASCA対応抗原の検討」(阪市大・押谷伸英氏),「UC患者におけるHLA-DPのgenotypeと抗トロポミオシン抗体の陽性率」(札幌医大・由崎直人氏),「IBDにおける活性化血小板の関与と意義」(新潟大・杉村一仁氏),「UCの病態における活性酸素とアポトーシス」(国立大蔵病院・林 篤氏)が発表された。