医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


整形外科臨床のエンサイクロペディア 待望の第4版

今日の整形外科治療指針 第4版
二ノ宮節男,冨士川恭輔,越智隆弘,国分正一 編集

《書 評》中村利孝(産業医大・整形外科学)

疾患概念から治療方法まで

 整形外科学の教科書は数多く出版されています。その内容やレベルも,学生向け,研修医の日常業務用,認定医試験対策などを含め,多岐にわたっています。しかし,認定医を取得した,いわゆる整形外科の専門医に対する教科書となると,案外,限られているように思われます。一挙に分厚く大部になり,数巻にわたるものもあります。
 確かに,入院患者などについて精密に治療方針を検討するには,対象とする疾患を系統的に調べることが必要です。原著論文も参照しながら,手順を決めていくことも稀ではありません。このような場合には,引用文献もきっちりと記載されている大きな教科書に頼らざるを得ません。しかし,整形外科は守備範囲の広い科です。疾患の種類も多く,治療手段も手術,薬物,物理療法などきわめて多様です。認定医を取得し,実際に,整形外科専門医として診療に従事するようになっても,不断に知識の吸収が必要です。進歩の早い領域では,1-2年遠ざかっていると常識が変わってしまうこともあります。

日常診療に役立つハンドブック

 本書は,第1版の序にあるように,臨床の現場ですぐに役立つことを目的に企画されたものです。疾患の概念と臨床症状から診断,治療方法のアウトラインまで,一目でわかる形にまとめられています。まさに,クイックリファレンス(はやわかり)用にできています。病態については,とくに見出しを設けず,疾患概念の中でごく簡単に解説するだけに留めています。「治療指針」を編集するにあたっての編者の姿勢をよく表しており,「目の前にいる患者さんを,どうするか?」ということが主眼となっていることがよくわかります。本書が10年以上にわたり,多くの読者の好評を得ているのも,まさにこの点にあるのでしょう。
 各版ごとにすべての項目で執筆者が交代するという原則は,第4版でも貫かれており,本書の記載に活力を与えているように見えます。患者説明のポイント,ナース・PT・OTへの指示なども,簡潔に記載されました。補装具の公的支給の手続きなど,社会的な医療行為の項目も充実しました。インフォームドコンセントが医療行為の常識となり,チーム医療が一般化しつつある現在,これらの追加は,まさに時宜を得たものです。Evidence-Based Medicine(EBM)の立場からは,各治療法の成績に関する情報が望まれますが,これは「整形外科の小百科全書」としての範囲を超えている事柄かも知れません。とはいえ,本書は最新の知識を手軽に知るにはきわめて便利にできています。このサイズの本で,「整形外科の治療」について,これだけ大量の新しい情報が収載されているのは,驚くべきことです。日頃の診療で忙しい整形外科医にとって,利用頻度の高いハンドブックであることは確実でしょう。
B5・頁864 定価(本体17,000円+税) 医学書院


実地消化器診療の場で必要な知識とコツを1冊に

開業医のための消化器クリニック
多賀須幸男 著

《書 評》上野文昭(大船中央病院内科)

診療に役立つ医学書の選び方

 20世紀最後の年を迎えた今,医学情報が氾濫している。論文は星の数ほどあり,主だった論文に目を通すことさえ不可能となってきた。多忙な臨床医はコンパクトにまとめられた成書を手にすることにより,整理された知識を得るのが効率的と考えられるが,毎年出版される成書の数がこれまた膨大である。一体全体どのようにして,自分の診療に役立つ医学書を選べばよいのだろうか?
 数多い医学書の中から自分の診療に見合った1冊を選ぶ時,筆者はまず本のタイトルと編者や著者を重視する。自分の興味に合致したタイトルで,信頼できる医師により書かれたものならば第一関門クリアであり,次にその内容を検討することにしている。さて本書は,わが国の消化器病学の重鎮,多賀須博士の執筆による『開業医のための消化器クリニック』である。その中身を拝見する前から,筆者は強い衝撃を受けてしまった。何という多芸多才な方であろうか!
 言うまでもなく多賀須博士は消化器病学のリーダーであり,日本の内視鏡学を発展させた最大の功労者の1人である。先人の努力による財産のお裾分けをいただいているわれわれ中堅消化器医は,常々畏敬の念を抱いている。一般論で言えば,最先端の研究者は優秀な学者として尊敬に値しても,臨床能力に疑問符がつくことが少なくない。しかし多賀須博士は,研究施設,市中の中核病院,そして個人クリニックと,あらゆる場面で第一人者となられた。とくに開業されて数年の間に,このようなモノグラフをまとめられたエネルギーと才能は驚嘆に値する。

豊富な臨床経験に基づいた「頭脳の技」

 さて内容に目を通すと,実地消化器診療の場で必要な知識とコツが,明快な構成のもとに簡潔に述べられている。診断的検査に関しては,内視鏡が充実しているのはもちろんであるが,今は実際にされていないという消化管造影や,日常診療で必須の腹部エコーに関する懇切丁寧な記載は,決して他の成書には見られないものであり,著者の真摯な診療から得られた広い意味での技術を読み取ることができる。治療面では,一見すると専門家による経験的ノウハウの伝授のように思えるが,実はなかなか科学的な部分も少なくない。例えば潰瘍治療の項では,個々の薬剤の有用性に関するエビデンスを踏まえて,実地診療で適用するための考え方などがさりげなく記載されている。多くの消化器専門医の誤った薬の使い方とは一線を画するものである。総じて言えば,本書の骨子は豊富な臨床経験に基づいた「頭脳の技」である。実はこのような基本診療技術こそが,これからのEBM時代に重視されるべきである。適切な臨床技能と健全な判断力は,EBMの重要な要素であることを強調したい。
 よい本には,読み始めると部屋の温度がスーッと下がるような戦慄を覚えるものと,ほのかな温もりと喜びを全身で感じとれるものの2種類があるような気がする。本書は後者に属し,Maestroの奏でる芸術にも似ている。開業医のみならず,日常消化器診療に携わる若手・中堅勤務医にも広く推薦したい。
A5・頁160 定価(本体3,400円+税) 医学書院


整形外科の歴史と今を結びつけ,未来へとつなげる書

整形外科を育てた人達
天児民和 著/九州大学整形外科学教室同窓会 編集・発行

《書 評》大村敏郎(慶大客員教授・医史学)

 天児民和先生(1905-1995)が1983年から94年まで12年掛けて雑誌「臨床整形外科」に,131回にわたり連載されたものの復刻である。
 現役を退かれて,78歳からの執筆であるから,そのエネルギーには頭が下がる思いがする。そして休載の知らせを出されて数か月後に生涯を終えられているから,先生が生涯をかけての後輩へのメッセージであった。
 このたび,九州大学の整形外科学教室の90周年の記念事業として誠に意義のある復刻である。

135人の整形外科医が登場

 フランスの近代外科の父アンブロアズ・パレから始まって,年代順には捉われずに,筆のおもむくままに書いておられる。しかし毎回読み切りでありながら,次につながっている構成は相当の準備をして順番にも意識を置いて書かれた物であろう。今回の編者(小林晶氏)もその意向を生かす意味で先生の発表順にまとめてある。追補を加えて135人の整形外科医がタイトルに並ぶのは壮観である。
 19世紀までは整形外科は外科の中核をなしていた。したがってこれは広い意味の外科史でもある。この領域は病名や症状・検査法・治療法に人名がついているものが多いが,その人物が何処の人で何時の時代の人か知ることもなく,時には名前を正確に発音しないで使っていることさえある。それを正し,整形外科の位置づけをしっかり固めている。
 本書は豊富な文献に裏付けられた歯切れのよい名文で,読み始めたら止められない魅力に富み,歴史と今を結びつけ,未来に役立つに違いない内容を盛り込んである。
 日本人の教授も13人取り上げている。有名な整形外科医の中で欠けているのは,天児先生ご本人だけと言いたいほどの充実ぶりである。

魅力ある医学史の入門書

 整形外科の歴史という骨格に,偉大な整形外科医たちの生涯という筋肉を付け,天児先生の行き渡った神経が届いているのであるから,ここに見られる古今の整形外科は生き生きと活動しているのが手にとるようにわかるのである。
 連載中,雑誌で次号を楽しみに愛読しておられた方々にとっては懐かしい論文であろうし,当時雑誌を手にできなかった人々にはぜひ読んでほしい名著である。
 また,整形外科医にとってだけでなく,医学史への入門書としての魅力も忘れることはできない大切な要素である。
B5・頁570 定価(本体20,000円+税) 医学書院


癌患者と向きあう医療従事者すべてに

〈総合診療ブックス〉
誰でもできる緩和医療

武田文和,石垣靖子 監修/林 章敏 編集

《書 評》阿部 薫(横浜労災病院長・国立がんセンター名誉総長)

緩和医療は医療の本質

 本書は癌患者の緩和医療について,21名の専門家が20の項目について具体的に述べた,読みやすい本である。
 緩和医療とは,いろいろな種類の病気の終末期において病気自体に対するよい治療法がなくなった場合に,患者さんを悩ませている症状を除くための治療と理解されがちであるが,これはむしろ誤りである。緩和医療とは,患者さんが病気になり,何かの訴えを持って医師のもとを訪れた時からすでに必要な医療である。頭痛,腹痛の訴えがあれば,その要因を探る検査をするとともに,投薬など何らかの方法を講じ,症状が治まるように努めることが要求されよう。ただ,終末期になると,医療の主体が緩和医療になるため,終末期医療と同意義に取られやすいのではないだろうか。
 癌の場合も同じである。有効な治療方法がないからといって,患者さんのいろいろな症状をそのままでよいという医療者はいないであろう。こう考えてみると緩和医療は医療の本質であり,ことに最近専門に偏りがちな内科医に求められる基本的な医療という気がしてくる。

共感を誘う「Clinical Pearls」

 本書は,対象を癌患者に絞っているとはいえ,疼痛からはじまり呼吸困難,胸水,消化器症状,腹水,便秘・下痢,食欲不振,全身倦怠感,高カルシウム血症,抑うつなどいろいろな症状への対処,治療の仕方が具体的に述べられている。加えて水と栄養,褥創,口腔ケア,家族と癌,持続皮下注入法,抗癌剤,予後予測,看護の力など,ベッドサイドにおいて重要なポイントについても詳細に述べられている。Q&A,癌告知の手順などについても本書の中に取り入れられており,また,文中にはめ込まれている1頁ずつの「Clinical Pearls」は,読む人の共感を誘う。
 医師のみならず,癌患者を相手にすることの多い看護職,医療関係者の方々にもぜひ参考にしていただきたい1冊である。
A5・頁200 定価(本体3,700円+税) 医学書院


脊髄損傷の理学療法を学ぶのに最適

四肢麻痺と対麻痺 第2版
lda Bromley 著/荻原新八郎 訳

《書 評》徳弘昭博(吉備高原医療リハビリテーションセンター副院長)

脊髄損傷治療における理学療法

 脊髄損傷,特に頸髄損傷のリハビリテーション(リハ)は長期間を必要とし,きわめて多面的で専門的なアプローチが必要である。わが国の現在の医療制度では,どこの医療施設でも対応が可能という普遍的なリハの対象では決してない。本書では,そうした脊髄損傷治療の枠組みのうちの理学療法の受け持ち分野を理解することができる。
 「あとがき」で訳者は損傷された脊髄組織の再生に触れ,機能的な再生が可能になった暁にはリハの哲学,理学療法士の役割も変わるだろうと述べている。しかしこの脊髄損傷者,医療者双方にとっての夢が現実になるまでは,移動の自立の程度を地道なアプローチによって向上させてゆく理学療法が,脊髄損傷のリハの核の1つであり続けることは間違いがない。本書はその概要を基本的な項目に沿って初期治療から慢性期理学療法プログラムまで追いながら述べている。
 「序」にも述べられているように本書の目的は脊髄損傷に経験のない学生や理学療法士の理解に向けられているが,本来の対象のほかに,これから脊髄損傷を学ぶ医師,また病棟で実際のケアにあたる看護婦が,脊髄損傷理学療法のアウトラインをつかむのにも十分役立つと思われる。
 実際の内容では特に頸髄損傷四肢麻痺について多くの記述がされている。また本書の図は頸髄損傷のリハ治療にあたったことのあるものには原書第3版訳(本書初版,1987)で見慣れたものだろうが,これらは四肢麻痺対麻痺を問わず,見て理解がしやすいものである。
 原書第3版訳(初版)と比較すると,多くの点で改訂がされている。例をあげると,「歩行練習」の章では「いかなる患者にも立位を奨励し,可能であれば歩行させる」とされていたものは,歩行の意味,実用性について客観的な記述に取ってかわっている。ともすれば安易に医療者の興味で処方されることがある歩行用装具(パラウォーカーやRGOなど)やFES(機能的電気刺激)についても記述が追加され,きわめて客観的な立場からこれらの位置づけがなされている。

「脊髄不全損傷」の章を充実

 もう1つの大きな点は「脊髄不全損傷」の章が充実したものとなったことである。わが国の脊髄損傷でも不全損傷が多くを占め,米国でも増加の傾向にあると言われていて,不全損傷に対する治療は重要性を増している。不全損傷は決して完全損傷の軽度のものではなく,むしろ完全損傷とは異なった,脊髄損傷治療の専門性が必要な神経疾患として管理するほうがよいという捉え方もできるという。特に不全損傷の障害を痙性と筋力低下の両面から捉える著者の立場は,われわれには印象的である。この考えに立って急性期から歩行に至る理学療法が理論的に述べられている。残念ながらこの章の最後の「要旨」は抽象的でわかりにくいが,脊髄損傷のリハ発祥の地である英国ストーク・マンデヴィル病院の最新の理学療法のスタンダードをうかがい知るという価値は損なわれるものではない。
B5・頁246 定価(本体4,800円+税) 医学書院


精神医学を学ぶ人のための定本 第7版

Kaplan & Sadock's
Comprehensive Textbook of Psychiatry 第7版

B.J.Sadock, V.A.Sadock 編集

《書 評》井上令一(順大越谷病院長)

米国を代表する精神医学の教科書

 本書の初版は1967年,1666頁の大著ではあったが1冊にまとめられていた。版を重ねるにつれ,精神医学の関連領域を網羅しつつ時代の流れとともに内容は膨大なものとなり,2冊に分冊されるようになった。この7版でも1巻は1662頁,2巻は1682頁となっている。初版当時より米国を代表する精神医学の教科書であったが,医学生などにも手軽に求められるようにと,“Kaplan & Sadock's Synopsis of Psychiatry:Behavioral Sciences,Cinical Psychiatry”を1972年に編み,これは1998年に8版が出版されている。これですら1冊にまとまってはいるが,1401頁の大著である(7版は1996年井上,四宮の監訳で『カプラン臨床精神医学テキスト-DSM-IV診断基準の臨床への展開』として本邦にて出版)。
 そこで両氏は,さらにsynopsisのポケット版として1990年に“Pocket Handbook of Clinical Psychiatry”を作り1996年に2版が出された(融,岩脇の監訳で『カプラン臨床精神医学ハンドブック-DSM-IV診断基準による診断の手引』として1997年本邦にて出版)。これらの流れからもわかるように,両氏の編集する教科書は,常に斬新的な内容ゆえに30余年にわたり,米国のみならず広く世界に親しまれ貢献してきた。

87の新しいトピックを収載

 今回出版された7版も新ミレニアムに向けて,内容の75%が改訂され,新しい章も書き加えられている。また,慢性疼痛や解離性障害,心の知能指数(Emotional Intelligence),プライマリ・ケアと精神医学,社会精神医学,神経生物学などなどの87の新しいトピックを収載している。執筆は,斯界の440名で,うち60%は新しい筆者である。内容はDSM-IV,ICD-10に準拠しており,頁を繰ると適宜,見出しに明るい紅色を用い,症例,表などには見やすい網掛けがなされており,膨大な内容に圧倒されることなく,きわめて親しみやすく読みやすい。精神医学を学ぼうとするものにとっては座右の書として計り知れない知識を提供するものと思われる。本書の冒頭に掲げてある「Kaplan博士への献辞」によって博士の訃報に接した。1998年享年70歳とのことであった。しかし博士の業績は本書とともに永く語り継がれることであろう。心からのご冥福を祈念したい。よって本書はKaplan博士亡き後,博士の遺志を継ぎSadock夫妻によって編集されたものである。
2vols, 3344頁 \43,570 Lippincott Williams & Wilkins社刊
日本総代理店 LWW医学書院