医学界新聞

 

21世紀の治療装置 オープンMRI

本邦初の垂直アクセスによるMRガイド下
肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法

来見良誠(滋賀医科大学・第1外科)


オープンMRIとは

 MRIが画像診断の分野に導入されて以来,侵襲的手技への応用が検討されていたが,従来の閉鎖式MRI装置では,画像撮影中に患者へアクセスすることができず,侵襲的手技は不可能であった。しかしながら,患者への自由なアクセスを可能にするオープンMRI装置の概念自体は1980年代後半には既にでき上がっており,ハーバード大学Brigham and Women's HospitalとGE Medical systemの研究者の間では,その開発が進められていた。オープンMRI装置としての条件を満たしうる第1号機が1994年にハーバード大学Brigham and Women's Hospitalに導入されてからは,特に脳外科分野で飛躍的な発展を遂げ,全身諸臓器に対する温熱治療,前立腺癌への体内線源留置術など多数の成果を上げ,この分野で世界の先導的な役割を果たしてきた。本邦では,すでに水平式のオープンMRI装置が導入されている医療機関も散見されるが,患者に対するアクセスに制限があり,侵襲的手技が十分普及するには至っていないのが現状である。

IVMRIについて

 インターベンショナルMRI(Interventional MRI : IVMRI)はオープンMRI装置の利用法の1つである。装置に要求される機能は,(1)任意の撮影平面においてリアルタイムでの高解像度画像が得られること,(2)患者に対してすべての方向からのアクセスが可能であること,(3)他の画像診断機器より優れた,特徴的な画像が得られること,などがあげられる。また,装置の周辺の環境では,(1)麻酔器の使用が可能であること,(2)手術室とほぼ同程度の清潔さを保ちうること,などが要求されている。これらの条件を満たす機器が開発されることによりIVMRIが可能となる。

本邦への導入

 あらゆる方向からの患者へのアクセスが可能である垂直方式のオープンMRシステムとして,本邦の第1号機が2000年1月に滋賀医科大学附属病院に導入された。本邦初の垂直アクセスによるリアルタイム画像を用いたMRガイド下肝腫瘍穿刺術,および世界初のリアルタイム画像を用いたMRガイド下肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法を施行し,IVMRIが円滑に導入されたので紹介する。

■装置の紹介および撮像法

装置の紹介

 0.5Tオープン型MRI装置(SIGNA SP/i ; General Electric社製,図1)は,中央に60cmの開口部を有するドーナツ型の2個の超伝導コイルを各々垂直に立てた形態で,58cm幅のアクセス空間をはさんで平行に設置されている。患者へのアクセスはほとんど制限がなく,関心領域の直上で患者の皮膚表面に装着された表面コイルが送受信コイルとなって作動する仕組みになっている。手術台の挿入方向は,前方から入るfront dockと側方から入るside dockがあり,術式ごとに自由に選択できるのが大きな特徴の1つである。

撮像方法

 リアルタイム画像を利用しているMR透視は,高速撮像法により,撮像・再構成・画像表示を連続して行ない透視画像を得る方法で,ファーストSPGR法を用いている。臓器により条件は異なるが,肝臓では,TR/TE/FA:14.5/4.8/45,位相エンコード数128,スライス厚7mm,マトリックス256×256,加算1回,再構成時間1.5秒,撮像時間は3-5秒である。透視画像表示の時間間隔は,その撮像時間に依存するため,実際は約2-4秒ごとに新しい透視画像が表示される。術中の画像は,術者および助手が無理なく観察できるようにオープンMRI内の2台の液晶モニタに表示されている。

ノイズ対策

 室内の照明によるノイズも無視できないため,ノイズ対策として光源を室外に設置しファイバーで光を室内に誘導する工夫がなされている。

MR対応手術機器

 MR対応の手術機器が必要である。チタンあるいは一部のステンレスはMR対応手術機器の材質となりうる。磁石の傍らに持ち込めないレーザーやマイクロウェーブなどの手術装置は,隣接する部屋に設置し,病変部位の温度をモニターしながら,低侵襲の温熱治療を正確に行なうことが可能である。

MRガイド下肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法(MR-MCT)

手技の紹介

 肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法(以下,MCT)は既に確立された治療法である。経皮的に行なう本治療法は,通常は超音波ガイド下に施行されるが,超音波ではその治療効果の判定が困難である。私たちは,本邦における垂直アクセスによるMRガイド下穿刺術の第1例目として,MCTを施行した(図2)。

手技の実際

 MR手術室では,ガントリ内に関心領域となる上腹部をアクセス可能部位におき,仰臥位で患者を固定する。術者は2個のドーナツ型マグネットの間に立ち,マグネット内の術中ディスプレイ用液晶モニタに表示されているリアルタイム画像により肝臓の精査を行なう。バタフライタイプのサーフェスコイルは前腹壁から右側を通り背部に回るように装着し,穿刺目的の腫瘍を検索し,3つの赤外線点滅ダイオードを有するプローブ(flash pointer)を用いて,穿刺部位を決定する。モニタ上のガイドラインと腫瘍を同一平面上に誘導し,皮膚の穿刺部位にマーキングを行ない,次に局所麻酔を行なう。呼吸練習を数回行なった後,14G生検針を用いて腫瘍を穿刺する。MRガイド下肝腫瘍穿刺術では,液晶モニタに表示されるリアルタイム画像は実時間より約2秒程度遅れているため,ゆっくりと針先を確認しながら穿刺するのがコツである。生検を行なった後,生検針の外筒を利用しマイクロターゼのプローブを挿入する。マイクロターゼは先端より18mmの位置に熱中心があるため生検針の外筒を約20mm程度抜去する。マイクロターゼによる凝固壊死療法を施行したのちプローブを抜去し,必要に応じて止血剤を外筒より注入する。
 手技全体は超音波下肝腫瘍マイクロ波凝固壊死療法とほぼ同様であるが,凝固直後から観察が可能であり,また空気による画像の欠損がない等の利点がある。欧米ではラジオ波(RF波)による治療は行なわれているが,RF波ではエネルギー照射中には撮影することができず,リアルタイムでの効果判定ができない。この点,マイクロ波は治療中の評価が可能であり,今後期待される治療法と考えられる。
 リアルタイム画像による治療効果の判定支援として活用が可能であり,また病変部への体外からのアクセス支援として活用できる。さらに上記2項目を組み合わせることにより,さらなる低侵襲治療法の開発が可能となるばかりでなく,通常の外科手術におけるナビゲータとしての役割を果たすことが可能である。

術中モニタの比較

 CT,閉鎖式MRIは,処置中の変化をリアルタイムで観察することはできない。また,X線透視,超音波はリアルタイムでの撮像は可能であるが,治療効果の判定をするための情報を得ることはできない。従来の画像診断機器とこのオープンMRIの特徴を,(1)軟部組織描出能,(2)X線被曝,(3)アクセス性,(4)リアルタイム性,(5)任意断面性,(6)温度感受性において比較する(下表)と,特に軟部組織描出能と温度感受性において特に優れている。また,オープンMRIのうち水平型と垂直型の比較では,水平式MRIは,数年前より本邦において導入されており,治療に使用されているが,アクセス上の制限があり,臓器あるいは疾患に対しての多様性に乏しく,広く普及するには至っていない。垂直式のオープンMRIは,アクセスに制限がない点が大きな特徴で,今後急速に普及するものと考えられる。

表 術中モニタの比較
 X線透視USCT水平式オープンMRI垂直式オープンMRI
軟部組織描出能
X線被曝ありなしありなしなし
空気による
画像欠損
なしありなしなしなし
アクセス性
リアルタイム性
任意断面性
温度感受性×××

将来展望

 今後,IVMRIは環境(透視下,内視鏡下,開腹下,超音波下,CT下など)の工夫と治療手技(切除,温熱療法,など)の開発が進むに従い,爆発的に普及する可能性を秘めている,まさに21世紀の医療にふさわしい治療装置と言えるだろう。
 垂直方式のオープンMRシステムによるMRガイド下肝腫瘍穿刺術は本邦初であり,また,リアルタイム画像下でのマイクロ波凝固壊死療法は国際的にも未だ報告例はない。垂直方式のオープンMRシステムは,汎用性が高く今後あらゆる分野に応用可能であると考えられる。

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