医学界新聞

 

肝炎ウイルスの臨床を議論

第97回日本内科学会シンポジウムより


 第97回日本内科学会(関連記事)では,シンポジウムの1つとして「肝炎ウイルスの臨床」(司会=埼玉医大 藤原研二氏,愛知医大 各務伸一氏)が取り上げられ,多くの聴衆を集めた。

肝炎ウイルスの現況

 わが国における肝疾患の多くは肝炎ウイルスの感染に起因しており,現在,A,B,C,D,E型の5種類の肝炎ウイルスが存在するが,近年,GBウイルス-C,TTウイルス,SEN-Vといった肝炎ウイルスの候補も新たに発見され注目を集めている。
 そこで,本シンポジウムでは,まず小池和彦氏(東大)が「肝炎ウイルスの現況」を概説した。小池氏はHAV(A型肝炎ウイルス)について,抗体陽性率の低下,高齢者のA型肝炎の増加等を指摘。HBV(B型肝炎ウイルス)については,発癌関連遺伝子を持つことから,「肝炎ウイルスの中では最も癌ウイルスとしての特質をもっていると言える。従来使用されてきた抗原・抗体系による診断学に改定が必要」との見解を示した。また,HCV(C型肝炎ウイルス)については,「新規感染の発生は減少しているものの,関連した肝細胞癌の発生は年々増加してきている。最近,HCVのコア蛋白が肝発癌性を持つことが示され,HCVの肝発癌への直接的関与が示唆されている」と研究の動向を示した。

急性肝炎,慢性肝炎における今後の治療戦略

 次いで登壇した持田智氏(埼玉医大)は「急性肝炎,劇症肝炎の話題」を口演。急性肝疾患は大部分が肝炎ウイルス感染に起因するが,持田氏はそれらの劇症化を阻止するための治療法,あるいは劇症化後の対処法などについて,最近の研究成果を併せて報告した。
 さらに,B型慢性肝疾患については石川哲也氏(愛知医大)が病態解明に向けての最近の研究の動向や,決め手となる治療法が確立されていない中で研究の進展が期待される新たな治療法を紹介。C型慢性肝疾患については林紀夫氏(阪大)が口演し,特に1992年より行なわれてきたC型慢性肝炎に対するインターフェロン(INF)治療後における肝細胞癌発生率に着目。「IFN治療により一時的にでもトランスアミナーゼの正常をきたした例(再燃群)では,無効群に比べて有意に肝細胞癌併発率が低率であった」ことを足がかりに,今後の治療戦略などを検討した。

肝炎ウイルスによる肝外病変

 ところで,近年,肝炎ウイルスは肝以外の臓器にも障害を起こすことが明らかになってきている。これらについても治療法の確立が待たれているが,本シンポジウムでは,松森昭氏(京大)が「肝炎ウイルスによる心,腎,血管病変」を,佐田通夫氏(久留米大)が「肝炎ウイルスによる皮膚,粘膜,筋,造血器病変」をそれぞれ口演した。
 松森氏は,拡張型心筋症,肥大型心筋症で高頻度にC型肝炎ウイルス抗体が検出されること,心筋症の生検・剖検心筋からC型肝炎ウイルスRNAが高頻度に検出されることなどから,C型肝炎ウイルスが心筋内で増殖する可能性を指摘。C型肝炎ウイルス肝炎と同時に心筋障害のみられた症例に対し,INF治療を試みた結果,その有効性が示唆されたとの報告も行なった。一方,佐田氏はHAV,HBV,HCVの肝外病変の中から特に皮膚,粘膜,筋,造血器障害を中心に最近の研究成果を報告し,「肝炎ウイルスによる肝外病変の研究は,原因が解明されていない疾患の概念や治療法を確立するばかりでなく,まだ不明な点の多い肝障害機序を解明する糸口を提供する可能性を持っている」との考えを示した。