医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


「もっと気軽に研究しようよ」

看護研究なんかこわくない
計画立案から文章作成まで
 田久浩志,岩本晋 著

《書 評》岡谷恵子(日本看護協会看護教育・研究センター長)

 日本ほど,臨床で働く看護職が看護研究に熱心に取り組む国もめずらしいが,そのほとんどが,研究についてちゃんと勉強しないままに研究を始めてしまうというのもまためずらしい。
 もちろん彼女たちも,看護研究という自分たちが攻略すべきものの正体をまず知ることが成功の鍵であると思い,研究のやり方について書かれている本を読んではみる。しかし,それが難しくてわからないため,ますます自信がなくなって,挙句には研究が苦痛になる,あるいは嫌いになってしまうというのがよくあるパターンではないだろうか。確かに,研究について書かれた本は,なじみのない言葉が並んでいて,無味乾燥な感じで,読んでもおもしろくないものが多い。

「研究を料理と思え」

 その点,本書は,研究をわかりやすく,平易に解説しようという試みにあふれている。著者は,「研究を料理と思え」と提案している。本書の意図は,「初めて看護研究に取り組む人が,料理を作るような気軽な気持ちで,仮説を検証する形式の研究を行ない,少しでも楽に研究を進めるヒントについて述べる」というものである。著者は看護の専門家ではないが,その分余計に,私たちに「もっと気軽に研究しようよ」と呼びかけているように思える。著者は看護研究を「今までわからなかった疑問や経験的な勘やコツを明確にし,誰でも学べ説明できるようにするプロセス」と定義している。だから,自分たちのやっているケアを「もう少しだけよくしよう,楽にしようと考えて研究に取り組むと,研究なんかちっともこわくない」というのである。

研究を苦手とする看護職の必読書

 研究テーマを明確にするところから論文の作成まで,一連の研究プロセスを,多くの具体例を盛り込みながら,わかりやすく解説してあるので,研究を苦手とする看護職には敵をよく知るための必読書である。多くの看護職が本書を手にし,上司の指示や義務または順番だからという動機で研究を始めなくてもよいようになればと,心から願う次第である。
B5・頁132 定価(本体2,200円+税) 医学書院


クライアント本位の新しい活動のヒントを示す

健康福祉の活動モデル
考え方,つくり方,活かし方
 新井宏朋 編集

《書 評》鈴木宗徳(南山大・社会学)

 現代では,疾病の予防を中心に据えた保健医療だけでなく,老人が「健やかに老いる」ための健康づくりや,寝たきりや痴呆の予防と介護,そして,障害を持った人々でも生活を楽しむことができるようにするための支援が必要になったと言われている。それには,スペシャリストが型通りのサービスを与えるだけではもはや間に合わないだろう。本書は,保健医療活動が地域に根ざしたネットワークを作りあげ,市民との緊密な連携の中で活動内容を柔軟に作り変えていくためのヒントを,9人の著者たちが,具体的な事例と理論・学説を豊富にあげながら紹介している。
 評者が興味深く読んだ事例の1つは,大分県のある町で行なわれた,高齢者の「食」を改善する取り組みである。従来の考え方であれば,すぐに減塩対策などの方策を展開しようとしてしまうところが,〈PRECEDE-PROCEEDモデル〉を用いたことにより,「魚の摂取を増やすためには〈おすそわけ〉が重要な役割を果たしていること」,「入れ歯の管理が必要なこと」など,意外な結果が明らかとなったという。
 他の興味深い事例の1つは,精神障害者の支援を行なう「やどかりの里」の活動である。精神障害者が地域に対して何らかの貢献を行ない,地域の中で「持ちつ持たれつの関係」を作るという活動モデルを打ち立て,精神障害者自らが,印刷・出版事業を通して情報の発信を行なったり,在宅の高齢者や障害者のための食事の宅配サービスを行なっている。

その人らしく生きるために

 いずれの章にも共通した考え方は,クライアントの側を「社会に適応させる」というこれまでの発想を逆転させ,クライアントがその人らしく生きるために「環境の側を整える」ことをめざしている点であり,これが〈活動モデル〉というキーワードでまとめられている。健康福祉の領域にとどまらず,現代社会では,個人の身に起こる問題を,地域全体の課題として捉え直すためのネットワークの構築が不可欠であり,一部のスペシャリストが他の素人たちを指導するという従来の仕組みでは,もはやうまくいくはずもない。

活動に携わる1人ひとりが成長していくことをめざす

 1960年代以降に生まれた新しい形の市民運動においても,なお課題でありつづけているのは,内部の対立から活動が崩壊したり,強権的な統一に至るのを回避するための,コミュニケーション・ネットワークの構築である。本書では,実践者が,それぞれの立場から得た知見を相互につきあわせ,既存の〈モデル〉の改善や自分なりの〈モデル〉の創造を繰り返し行ない,その積み重ねを通して行政への政策提言にもつながっていった事例が提示されている。
 本書の提起する新しいモデル論の真髄とは,〈モデル〉の構築をこのような形で模索する中で,活動に携わる1人ひとりが,専門家としてではなく,全人格的な意味で1人の人間として成長していくことめざすものであるとも読み取れた。
A5・頁192 定価(本体2,000円+税) 医学書院


グローバルな視点からの看護を捉える1冊

看護学生のための社会学 北原龍二 編集

《書 評》田中マキ子(山口県立大助教授・看護学)

看護に役立つ社会学

 本書は,社会学にイメージされる「おもしろくない,難しい」との印象を払拭することに貢献しており,看護者ならびに看護学生の臨床実践に役立つ社会学を提供している。
 本書の特徴は,従来のテキストには見られない章構成における工夫であり,今日的状況あるいは将来の医療社会を予測しながら構成されたものと推察でき,執筆者のご苦労がしのばれる。「人間の身体」という章は,ジェンダー的視点や家族・宗教・自我・文化・歴史・社会学の特徴が抽出され,従来,必要な視点でありながらも難解とされてきた内容をうまくブレンドさせてあり,興味をひく理解しやすい内容に再構成されている。また,「医療を含む情報環境」の章にあっては,「おまかせ医療」から「自己決定医療」にシフトする中で浮かびあがってきた諸問題を踏襲しており,看護者が臨床実践を通じて構築していかなくてはならない課題を提示してくれている。

社会の中で働く看護婦の姿が見える

 さらに,本書の細部にわたり,社会の中で働く看護婦の姿が見えることが嬉しい。医療と社会の関わり,そして看護者との関わりがイメージでき,社会学的な観点を持つことの重要性と必要性が自然と喚起される。個と全体,あるいは大所高所の視点から,起こっている問題=現象を捉え,分析することが必要とされることを,本書を読み進める中で実感できるだろう。制度の問題,あるいは病院という組織の問題,対象者への理解など,一生懸命施設内で働く看護者であるがゆえに見落としがちな点を,本書は気づかせてくれるのである。
 こうした視点は,これから専門看護婦を志向しようとする看護学生にあっても,重要な視座を提供するものである。「医療を包む情報環境」の章にあっては,漫画を題材に医学・医療にどのように切り込んでいくかを示唆している。『おたんこナース』の世界や『研修医なな子』などを材料に,より身近に医療・医学,そして看護を考えていけるよう誘っている。このような工夫は,「難しい」とされてきた教養の社会学から,背伸びすることなく自然に,社会と人間,社会と医療を考えるように向かわせるのではないだろうか。
 医療と看護をしっかり射程に入れ社会との関係から述べた書を,筆者は待ち望んでいた1人である。私たちが「専門バカ」にならないためにも,グローバルな視点から医療と社会と私たち看護者の関係のあり方が評価できなくてはならない。そのためにも,ぜひ本書をご一読願い,社会学的センスを身につけていただきたいと願う。
B5・頁250 定価(本体2,000円+税) 医学書院