医学界新聞

 

〔投稿〕

ACLSコース,ACLSインストラクターズコースを受講して

八重樫牧人(在沖縄米国海軍病院・シニアインターン) 岡安裕正(同・インターン)


 ACLSとはAdvanced Cardiac Life Supportの略で,医療従事者が1次救命措置(人工呼吸,心臓マッサージ)に続いて,除細動器や気管内挿管,薬剤等を用いて行なう2次救命処置のことです。私たちは在沖縄米国海軍病院での研修の一環として,ACLSコースと,ACLSインストラクターズコースに参加する機会を得ました。この経験が他の医学生や研修医の参考になればと思い,受講した感想を述べたいと思います。


ACLSを身につけることの意味

 例えば,成人における心肺停止の最も多い原因である,心室細動による心肺停止では,たとえ4分以内に1次救命処置が開始されたとしても,2次救命処置を0-8分以内に開始するのと16分経って開始するのとでは,生存率は43%と10%と大きく差が開いています(JAMA 1979;241:1905-7)。つまり,早期に2次救命処置を始めることで,患者さんの予後は改善されることが証明されています。そして,わずかの差が生死を分ける救急の現場であるからこそ,Evidenceに基づいた治療を行なう意味があると言えます。
 ACLSは,その「時間が命」の状態で,アルゴリズム化して誰にでもわかりやすく作成されている救命処置のマニュアルです。このACLSでは「意識のない患者さんを見たら何をするのか」(Universal Algorithm)から始まり,心室細動,頻脈など場合に応じて「いつどこで何をどのくらいするべきか」が明確に記されています。そして,すべてのプロトコルは,科学的根拠に基づき作成されています。

ACLSインストラクターズコース

 もちろん,一部の人だけしか知らない,実践できないのであれば,その本来の意味を発揮しません。そこで,アメリカでは,ほぼすべての医師,医学生はもとより,一部の看護婦(士),救急救命士,呼吸療法士らがACLSのコースを受講し,実際の医療行為に役立てています。
 このように多くの人にACLSコースを提供するために,ACLSの教育においては,教育者の育成も大変重視されています。具体的には,ACLSコース修了者の中から選ばれた者が,ACLSの受講者を実際に教えるインストラクターとなります。それが,ACLSインストラクターズコースです。このコースには専用のテキストが用意されていて,そのテキストにはコースの日程表の例から,具体的な教え方,症例のサンプル,困った時の対処法,実技試験の採点法等が多岐にわたって,初心者でもわかりやすいようにマニュアル化されています(例えば,受講者の自信,やる気をそぐような“Stop"や“Wrong”や“Don't”等の批評は避け,受講者自身に解決策を考えさせる,といったことまで書いてあります)。
 このコースを受講するには医師である必要はなく,実際,当院では衛生兵という,高校卒業後軍隊に入って,簡単な創の縫合や採血等の雑務をしている医療従事者がいますが,その中にもACLSインストラクターを取得して,救急医から見ても非の打ちどころのないような素晴らしい救命処置をする人もいます。また,受講者である神経内科医の前で看護婦が脳血管障害の講義をするといった,日本では考えられないような状況も実際にありました。

コースについての概要

 ACLSコースは,2日間にわたってレクチャー,実技,試験という構成で実施されます(表参照)。
 実技は8人程度の小人数で行なわれ,実際の現場を想定したケースに基づき,シミュレータ,ダミーを用いて,気道確保,気管内挿管,除細動などの実技を含むトレーニングが行なわれています。
 インストラクターズコースはこのコースの日程に合わせて実施され,コースの前日に,教育についてのレクチャーと,講義の練習会,実技指導の練習が行なわれ,翌日からのACLSコースではレクチャーと実技指導,試験官を担当します。ACLS,ACLSインストラクターズコースともに,すべてAHA(American Heart Association;アメリカ心臓病学会)が出版している指導教本(ACLS,ACLS Instructor's manual)をもとに行なわれています。
 受講者は,両コースともに約1か月前にその分厚いテキストと予定表を渡され,インストラクターは,自分が講義するテーマ,実技指導の割り振りを知るわけです。講義のスライドもAHAで製作されたものがあり,米国どこでも同等の教育が受けられるように配慮されています。

わが国の救命率向上のために

 日本での2次救命処置は,医師によって方法が異なるということが指摘されています(「治療」:Vol. 81. No.11 1999.11p7)。個人的経験,勘に頼った蘇生と比較して,科学的な根拠に裏づけられたACLSは,患者を救う可能性がより高いと言えます。
 今回,アメリカのACLSを実際に経験して,このような考えに基づいて作られているACLSの考え方を日本にも応用することは,日本の救命処置の成績を向上させるのに役に立つのではないかと感じました。実際,日本でもACLSコースが導入された病院では,来院時心肺停止患者(CPA)の蘇生率が36%から48%まで改善されたと報告されています(「治療」:Vol. 81, No.11 1999.11p8)。
 最後になりますが,今回ACLSインストラクターズコース受講の機会を与えてくださいました救急部のDr. Caneva,ともに励ましあい学んだ海軍病院の皆様,私たちの辿々しい英語に文句をいわず熱心に学んでくれた生徒の方々に,この場をお借りしまして感謝の意を表したいと思います。

表 在沖縄米国海軍病院におけるACLSコーススケジュールの例
初日
0745-0800 Course Overview
0800-0830 Full Megacode Demonstration(Course Director)
Lectures
0830-0850 Case 1 Respiratory Arrest
0850-0910 Case 2/3 Witnessed VF/VT and Refractory VF VT
0910-0930 Case 4 Pulseless Electrical Activity
0930-0945 Break
0945-1005 Case 5 Asystole
1005-1025 Case 7 Bradycardia
1045-1105 Case 9 Unstable Angina
1105-1115 Break
1115-1135 Case6 Myocardial Infarction
1135-1200 Electrical Therapy with Demonstration
1200-1245 Lunch
1245-1630 Small Group Teaching Stations 4 stations 50 min each
第2日
0745-0815 Acute Ischemic Stroke
0815-0900 Putting it All Together(Course Director)
0915-1215 Small Group Skills Stations-3 stations
1430-1600 Megacode