医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


洗練された消化器病診療ハンドブック

開業医のための消化器クリニック
多賀須幸男 著

《書 評》鈴木荘一(日本プライマリ・ケア学会副会長,鈴木内科医院長)

 まず本を開くと,口絵として18枚の内視鏡写真と腹部超音波画像45枚に圧倒される。関東逓信病院退職後,開業以来の症例からすべて選ばれている。どれも新鮮で,解説は簡,要を得ている。
 多賀須先生とは昭和40年代初期,国立がんセンターで市川平三郎先生の指導を受けていた頃,読影会でよく顔を拝見していた。すでに開業していた私は,当時多かった胃癌の早期発見に魅せられ,そこに医師としての生き甲斐を覚えていた。その頃から35年,内視鏡は驚異的に進歩し,超音波診断も第一線医師の有力な診断機器となった。プライマリ・ケアの同じ開業医として,多賀須先生の本を食い入るように読んだ。実に共感するところ多く,引用したいところは随所にある。

消化器診療における開業医の域

 先生の言われるように,消化器診断のおもしろいところは,「知識」と「わざ=うで」を持っていれば,身体的診察の上,内視鏡と超音波装置などを上手に使えば,大病院の医師と遜色ない水準で,開業医でも消化器病に対処できるところである。むしろ開業医は患者と近接的な人間関係があるので,診断・治療に満足感があり,継続性からも,現在の重要課題である医療費節約にも貢献している。序文にもあるが,開業していると,たちまち時代遅れになりそうなコンプレックスに陥る。これだけは知っているべしというタイトルの特集号がつぎつぎに発行されるが,とても付き合いきれるものではない。したがってこの本は,実用的な「洗練された消化器病診療」ハンドブックである。先生は,頭の知識だけではなく,自らの診療体験から書かれているので,迫力ある説得性があり,文章にリズムがある。

消化器診療に携わる医師に

 本の中身は,第1章「患者さんの評価」(A.問診のポイント,B.診察のポイント,C.外来で行う画像診断のポイント,D.臨床検査のポイント,E.消化器癌の検診),第2章「消化器症状の対症的治療」,第3章「消化器疾患の治療」に分かれており,実に開業医の立場で歯切れがよい。例えば内視鏡検査時には先生は,血圧とパルス・オキシメーターによる血液酸素飽和度のモニタリングを行なっておられる。非常に有用性が高い,と書かれている。また76頁「開業の場での消化器癌の取り扱い」では,よく統計を集められ,食道癌,胃癌,大腸癌,肝癌そして膵癌の治療成績の表を網羅され,手術適応の是非をはっきりと述べておられる。その中に,「病院は術後に『あんたのところでは手に負えないだろうから当院で経過を見ます』という返事をしばしばくれるが,術後の患者さんの生活相談に上手く答えてあげるのは開業医である」にはまさに同感,至言である。『今日の治療指針』(医学書院刊)総編集者でもある先生の名著を,開業医,勤務医を問わずぜひお読みいただきたい。
A5・頁160 定価(本体3,400円+税) 医学書院


EBMの立場から健康診断,健康科学を考える

Evidence Based Medicineによる健康診断
矢野栄二,小林康毅,山岡和枝 編集

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院名誉院長)

 このたび医学書院から矢野栄二教授ほか,小林康毅教授,山岡和枝助教授の編集で,『Evidence Based Medicineによる健康診断』と題するB5判156頁の単行本が出版された。Evidence Based Medicine(略してEBM)という言葉は,これが紹介されてから11年しかたっていないが,英語の表現のほうが「根拠に基づく」医学と訳するよりも普及している。これを「科学的根拠に基づく」医学と表現する人があるが,医学はそもそも科学であり,今までの医学が非科学的だということはできない。EBMはもともと「臨床疫学」(Clinical epidemiology)の中の一部であるが,これは長い歴史を持ったハーバード大学のSchool of Public Healthの中に生まれたものである。
 本書の編集責任者の矢野栄二教授は現在,帝京大学衛生学公衆衛生学教室の主任教授であるが,先生は1980年代に一番早くここに留学したわが国の医学者のうちの1人である。

健康診断の方法や評価,指導への提言

 さて,この本は何よりも健診や予防医学に関心の強い専門家や健康診断に従事している施設の医師,看護婦,保健婦,さらには健康教育学会所属会員に非常なインパクトを与えるものと思う。在来の日本で行なわれた健診や健康診断の方法や評価,指導のやり方について種々の提言をするものである。
 医学の教育を受けはじめの医学生のためにも,解剖や生理とは別の医学の基礎科学としての疫学的知識をこのテキストは与えるものである。本書は在来の個人の健診や,地域・学校・職場での集団形式の検査と事後処置のやり方を強く批判し,その健診や健康教育の成果がどんなものかをEBMの立場から厳しく批判している。そしてEBMによる検証から,今後の日本の健診や集団検査をどう改正すべきかについて強い示唆を与えるものである。

日本の健康制度を改めて問う

 全巻が4部に分かれる。第 I 部の総論には,「健診とその評価法」が述べられているが,特にその3項には米国予防医療研究班の報告に基づいてわが国の健診が厳しく批判されている。また,EBMの立場からわが国の健康評価の視点が強く問われている。
 その次にはスクリーニング評価の理論と検査結果の有効利用が述べられている。
 第 II 部は,職域における健診項目のそれぞれについての検査の有効性や妥当性,メリットや,検査結果の管理上の有用性が論じられている。
 第 III 部は,「社会のなかの健診」と題して,日本におけるこれまでの健診がレビューされ,今後の生活習慣病への対策が示されている。また,欧米の職域健康サーベイランスが紹介され,日本の産業保健の将来への示唆になる事柄が述べられている。
 第 IV 部は「健診とこれからの職域健康管理活動」という題で,健診の評価と今後の方向性,またこれからの職域健康管理活動の役割やあり方が示されている。
 読者には在来の健診や職域健康管理が,疾病の早期発見ばかりを中心にしてきたこと,そして莫大な費用をかけた割には評価が少なかった理由がはっきり示されている。
 以上述べたごとく,EBMの立場にたって見渡すと,今までの健診や健康管理には,有用性が少なく,無駄なことにお金が使われたことが読者に反省を促すものと考えられる。
 このような意味で,本書は日本の医学,保健学の専門家,ならびに医学生,看護学生および健康科学に携わる人々に広く読まれることを期待したい。
B5・頁168 定価(本体2,500円+税) 医学書院


画像診断にかかわるすべての医療者に

わかるヘリカルCT
山下康行 著 《書 評》中村仁信(阪大教授・大学院医学系研究科生体情報医学・放射線医学)

ヘリカルCTを理解する

 熊本大学医学部放射線医学教室 山下康行講師の『わかるヘリカルCT』を一読し た。第1-3章には,まず画像作成までのヘリカルCTの基本的概念,基礎的技術,画像再構成の理論が要領よく述べられ,これらを理解することは,言うまでもなく,CTの読影に大いに役立つ。また,急速静注された造影剤の血行動態を熟知しておくことは,ヘリカルCTにおいてきわめて重要なことである。なぜなら,ヘリカルCTの大きな利点は高速に撮像できることであり,造影なしのCTでは高速撮像の利点は生かせない。ヘリカルCTが導入されて肝臓全体の動脈相を撮影でき,肝細胞癌が多数濃染されたのを見た時は,画像医学の進歩を実感したものである。本書は全章にわたって造影剤の有用性に詳しく,「わかるヘリカルCT」は,「わかる造影ヘリカルCT」あるいは「わかるダイナミックCT」でもある。
 第4-10章には,胸部から肝・胆・膵,泌尿生殖器,頭頸部,骨軟部にわたって数多くの臨床画像が呈示され,各部位での病巣検索プロトコールから鑑別診断法の実際がまとめられている。本書をCT室の片隅に置いておけば,何かにつけて参照でき,撮像プロトコールに迷うことはない。

マルチスライスCT

 第11章CT angiography(CTA),第12章消化管の3次元画像は,マルチスライスCT(13章)の出現によって,より精細な画像が得られるようになり,有用性の高まっている領域である。血管造影(DSA)に変わるほどのCTAや,将来バリウム検査や内視鏡検査に匹敵しようとするCT virtual endoscopyの画像が目を引くが,いくつかはマルチスライスCTによる画像である。マルチスライスCTは画像医学の最先端のトピックスであり,これから発展する分野であるが,本書には現時点までの進歩の様子が余さず記されている。
 以上の理由から,本書を,画像診断に携わるすべての人に推薦したい。
B5・頁284 定価(本体6,500円+税) MEDSi


Intervention Cardiologyを志す医師に必携

ステント再狭窄 光藤和明 編集/門田一繁 編集協力

《書 評》島田和幸(自治医大教授・循環器内科)

stent再狭窄対策のstate of the art review

 虚血性心疾患の治療に,いわゆるcoronary interventionが導入されて以来,この新しい技術は瞬く間に一世を風靡した。本書は,「虚血性心疾患患者の治療」の中でstent植え込みがどのような適応範囲を持つかという観点よりも,むしろ現状の循環器診療に対応して,「coronary stenosis」に対して,どのようにstentを生かすか,特にstent再狭窄への対策についてのstate of the art reviewを意図とした。stent治療は亜急性冠閉塞の問題がほぼ解決した現在,再狭窄を際限なく繰り返すmalignant restenosis症例にみられるように一定の限界を持った治療法である。この限界を解決する方法は,stent治療をさらに深化させるか,あるいは他の治療法に解決策を見出すか,現時点では確立していない。ややもすれば,多忙な日常診療の中で経験的な法則のみで事に処しやすいinterventionistにとって,ぜひ一読を勧めたい書である。stent後の再狭窄の原因として,メカニカルな(大工仕事的な)因子と生物学的な(生体反応的)因子が存在し,その両面から総合的にアプローチすべきとの編者の考えが一貫している。

「自分流のstent術」を獲得

 臨床の再狭窄の病理からみたstent再狭窄の成因に関する独自の考察からはじまって,種々のstent typeの分類とその特徴,IVUSや血管内視鏡からみたstent植え込みの実際を網羅している。そして,著者自らの成績に基づいたstent再狭窄に関連する因子の解析,各種stentおよび各種病変に関連するstent再狭窄のevidence based medicine(無作為化臨床試験)に基づいた成績を紹介し,読者に臨床上きわめて有用な情報を提供している。おびただしい数のstentが氾濫する時代に,有効でかつ合理的な,「自分流のstent術」を獲得したい向きにとって,必須の知識となるであろう。stent再狭窄に対する薬物療法や各種interventionは現在までに得られている成績を広く紹介してくれており,DCA,Rotablator, cutting baloonなどの適応についての示唆を与えてくれる。
 本書の各章は臨床の最前線で活躍する人たちによって執筆されている。あくまで日常診療に密着した内容であるところが「実践書」としての本書の価値を高めている。所々に挿入したサイドメモも理解に役立っている。intervention cardiologyを修練するか,志す人の必携の書であろう。
B5・頁182 定価(本体6,200円+税) 医学書院


現代の分子医学の考え方を衛生学に導入した新しい教科書

分子予防医学
松島綱治 編集

《書 評》宮坂昌之(阪大バイオ研教授・臓器制御学)

疫学から予防医学に関する包括的な教科書

 自分が大学の時に受けた衛生学の授業のせいか,それとも「衛生」という文字面のせいか,私の中にはこれまで衛生学に対する偏見があったかもしれない。私の中では,衛生学は社会医学を代表するものであるが,環境汚染のような新しく出現してきた問題に対して対応するものであり,かつ分子医学的な手法をあまり必要としない学問である,という幼稚かつ漠然として(そして誤った)ものであった。しかし,本書を見て衛生学に対する考えが私の中で大きく変わりつつある。
 本書は,ケモカイン研究の世界の第一線で活躍中の松島綱治東大教授が編纂されたもので,過去3年間の東京大学医学部衛生学の授業を反映した内容とのことである。本書の序言によると,松島氏が試みたのは,これまでの衛生学の中に現代の分子医学的な方法論,考え方を持ち込むことによって,疫学から分子病理,治療,予防医学に関する包括的な教科書を作成することであった。

分子医学的立場からみた予防医学

 本書は総論と5章の各論からなる。総論では,生体防御機構,その破綻による疾患,重金属や様々な環境汚染原因分子による組織破壊の機序などが概論的に解説されている。各論では,1章で大気汚染,水質汚染,環境ホルモンなどの環境医学,2章でMRSA,HIV,ヘリコバクターピロリ,肝炎ウイルスなどによる現代の感染症を扱った感染医学,3章で生活習慣病,アレルギー疾患,4章で遺伝子診断とワクチン治療,造血幹細胞移植,5章で社会的な面から見た特定疾患,難病対策,などが扱われている。
 この構成からもわかるように,社会的に大きな問題になっているテーマを分子医学的な立場から取り上げ,特に予防医学としての衛生学に光を当てている。まさにこの本の題名どおりの内容である。各章は比較的平易に書かれ,医学生用の教科書としての目的を果たしている。そして衛生学における予防医学の重要性を納得させるものである。
 ただ,本書が衛生学の教科書として成功しているかは,読む人によって意見が異なるかもしれない。特に衛生学の専門家の意見を推測することは私にはできない。しかし,これまで衛生学の教科書を手にとって見ようとも思わなかった私のような人間にとっては,きわめて興味深い本であるとともに,このような内容であれば,東大衛生学の講義も聞いてみたいと思わせるような気持ちにさせてしまう,そんな本である。その意味では松島教授の意図は成功していると言えよう。
B5・頁392 定価(本体6,800円+税) 医学書院


今日の大腸病学における最新の知識を1冊に

大腸疾患のX線・内視鏡診断と臨床病理
武藤徹一郎,多田正大,名川弘一,清水誠治 編集

《書 評》福島恒男(横浜市民病院副院長)

消化器病に関心を持つ若い医師に

 1999年11月,武藤徹一郎,多田正大両先生らはご一門の専門家の共同執筆という形で『大腸疾患のX線・内視鏡診断と臨床病理』を出版された。筆者が本書を一読した感想としては,内科・外科の若い医師で,消化器疾患に興味を持っておられる方にぜひ一読を勧めたいというものであった。また,座右に置いて必要な折に再読したり,臨床病理学的事項を確認したりする第一線の臨床医にもきわめて有意義な書物であることを感じた。この第一線の先生方は若い先生方を教える機会も何かと多いだろうが,これまでご自分で経験された症例のX線・内視鏡像,病理診断までの所見を念頭に置きつつ本書を読めば,指導書としても役に立つものにもなろう。

読みながら画像をinput

 本書には,今日時点の大腸病学におけるX線・内視鏡・病理診断の最新の知識が簡潔にまとめられている。腫瘍性病変・炎症性病変など重要なものにはそれなりの力点が置かれ,その他にもバランスよく適宜頁数が割り振られ,豊富で鮮明な写真が配置されている。とくに特徴的なことは,1つひとつの文章が簡潔であり,知りたいと思う項目は20-30分で読み終えることができることである。これらの記述と,先ほど述べた画像がともに印象に残るように入念に意図されているのである。つまり疾患の知識と画像のバランスという面からみる時,どちらにも偏らず,読みながら画像をinputできるよう編集されており,見事である。研修医にとっては自らの症例の位置づけ,疾患理解に役立ち,専門医レベルの方には治療方針の決定,患者指導などにも役立つ。読者はそのうえで,さらに踏み込んで,本書に記載されていない新しい所見を見つけていただき,大腸病学の進歩に寄与していただければ大変喜ばしい。
 本書はこのように多くの読者を満足させることは必至であるが,ここで,将来改訂される時に編者に望みたいことを一,二申し述べたい。それは本書がもう少し大判で,画像が大きいとさらに迫力が増すのではないかと思われたことである。姉妹書として出版され好評である麿伊正義・望月福治著の『胃疾患のX線・内視鏡診断と臨床病理』との関係もあり,この点は出版社の意向もあろう。もう1つ,本書は慢性の大腸疾患に関する記載が中心で,急性腹症を呈した疾患の診断や対処方法の項目があれば,実地の臨床研修医にとってさらに役立つものになったであろうことである。これらの点は今後ご検討いただければと思う。
 いずれにしても,先輩研究者・臨床医のライフワークや労苦の結晶が,場合によってはわずか数行の中に凝縮してまとめられている。若い医師がこの本書を通して,大腸疾患に関わる多くの臨床的・臨床病理学的事項を読み取っていただければ,書評者としてもまことに嬉しいことである。そして本書が1つの刺激剤となり,これを超えた成果が産み出され,日本の大腸病学がさらに進歩・発展していけばと願う次第である。
B5・頁312 定価(本体20,000円+税) 医学書院