医学界新聞

 

第40回日本呼吸器学会開催


 さる3月22-24日,第40回日本呼吸器学会が,山木戸道郎会長(広島大教授)のもと,広島市の広島国際会議場において開催された。今学会のメインテーマとして「呼吸器病学における20世紀の総括と21世紀への展望」と,「21世紀の平和へ向けた医師の願い」の2つが掲げられた。
 メインテーマを受けて,山木戸氏は会長講演で,広島県竹原市の大久野島における毒ガス製造工場の退職者への診療の軌跡を提示し,医師の立場から平和への願いを訴えた。また重松逸造氏(放射線影響研)による基調講演「原爆被爆者に学ぶ-21世紀への教訓」が行なわれた。
 その他招請講演4題,特別講演2題,教育講演2題,一般演題1117題に加え,最新の研究に焦点を当てたシンポジウム10題,ワークショップ8題,臨床に関する問題を取り上げるサテライトシンポジウム10題が企画され,多数の参加者を集めた。

21世紀のCOPD治療

 シンポジウム3「21世紀に向けてのCOPDの治療」(司会=福岡大 白日高歩氏,北大 川上義和氏)では,COPD(慢性閉塞性肺病変)治療を予防・早期診断,栄養管理,在宅医療,息切れ対策,遺伝子治療など,多方面からの検討がなされた。
 最初に,予防としての禁煙対策について川根博司氏(川崎医大)は,禁煙に対する日本の対策と,医師がどう関与すべきかを検討。厚生省による「喫煙と健康問題に関する実態調査」の結果や今後の健康政策のあり方を示した「健康日本21」の紹介に加え,たばこ対策の4本柱として(1)正確な情報提供,(2)防煙,(3)分煙,(4)禁煙支援をあげ,(1)と(4)については医師が責任を持って役割を果たすべきであるとした。
 続いて早期発見の指標について山口佳寿博氏(慶大)は,5年間にわたる肺気腫患者の観察から予測因子を探索。そこで初回検査時のCRPが呼気MLD(平均肺野密度)の経年変化と相関したことから,CRPが肺気腫化進行の指標となる可能性を,また「Cathepsin S遺伝子」が喫煙感受性を左右する遺伝子である可能性を示唆した。
 栄養管理については米田尚弘氏(奈良医大)が,「COPD患者の体重減少を補う栄養治療が必要であり,そのためにはFat free mass(除脂肪)を増大させるためにエネルギーバランスを正にし,蛋白合成を賦活する十分なエネルギーと蛋白補給が必要であるが,さらに運動能改善につながるような栄養強化が必要」と述べた。
 年々増加・重症化するCOPD患者の在宅医療(HOT)について巽浩一郎氏(千葉大)は,今後の課題として(1)若年発症群への対応,(2)COPD患者特有の呼吸困難感,(3)Health-Related QOLへの影響,(4)適応に対する十分な根拠,(5)最近HOTを行なう診療所が増加していることから,包括的内科治療の中での病診連携の確立,(6)薬物療法のエビデンスの確立,(7)新しい薬物療法の開発などをあげた。

患者のQOL対策

 息切れ対策として,呼吸器リハビリテーション(呼吸器リハ)の現状を岩永知秋氏(国療南福岡病院)が解説。その効果が認められながら,なかなか普及しない現状を打破するためには,(1)RCTなどによる科学的検証,(2)cost-effectivenessの検証,(3)標準プログラムの作成,(4)各項目の検証と重点化,(5)在宅プログラムの作成,(6)人材の養成と確保,(7)保険点数の是正などへの対応が必要と指摘。さらに岩崎昭憲氏(福岡大)は息切れ対策への効果が期待される「Lung Volume Reduction Surgery(LVRS)」の症例解析と患者へQOLアンケート結果を報告。LVRS術後の早期(3か月)のFEV1.0の増加が200ml以上の症例では呼吸機能改善に優れる点や術後3年例では術前より機能良好なことなどから,「LVRSは患者の予後向上に加え,自覚症状も改善させた」と結論した。
 最後に瀬戸口靖弘氏(順大)は,肺気腫症への遺伝子治療としてのα1-antitrypsin遺伝子導入について概説。さらに細胞内器官を標的とした治療の可能性や,肺組織の修復・再生をめざした治療法が検討され始めている現状を明らかにした。

呼吸器感染症ガイドライン

 シンポジウム6「本邦の呼吸器感染症ガイドラインをめぐって」(司会=川崎医大松島敏春氏,琉球大 斎藤厚氏)では,本学会内に設置された市中肺炎診療ガイドライン作成委員会(委員長=松島氏)による「呼吸器感染症ガイドライン-成人市中肺炎診療の基本的考え方」をもとに6人の演者が口演。最初に上記委員会のメンバーである河野茂氏(長崎大)が,本ガイドラインについて概説。次いで同メンバーである山口惠三氏(東邦大)が「感染症ガイドラインに必要な臨床検査」と題して,肺炎の原因微生物を明らかにすることの意義を強調。胸部レントゲン写真と喀痰グラム染色による迅速な診断を項目に盛りこんだ背景などを明らかにした。続いて,このガイドラインの主な利用者として開業医や一般医が想定されていることから,第一線の臨床医である青木信樹氏(信楽園病院)と中森祥隆氏(三宿病院)は,実際の診療における本ガイドラインの有効性を検討。両者は自施設における肺炎の動向と照らして,ガイドラインを「十分納得のいく内容」と評価した。さらに,今後作成が予定されている「院内肺炎に関するガイドライン」については中田紘一郎氏(虎の門病院)が,また「慢性気道感染症に関するガイドライン」について渡辺彰氏(東北大)が,それぞれ検討すべき課題と方向性を示唆した。