医学界新聞

 

第8回日本総合診療医学会開催


 さる2月26-27日の2日間,福岡市の九州大学病院において,柏木征三郎氏(九大教授)のもと,第8回日本総合診療医学会が開催された。
 特別講演(司会=聖路加国際病院 日野原重明氏,京大 福井次矢氏)では,Albert. W. Wu氏(ジョンズホプキンス大)が「Patient-reported Quality of Life in Outcome Research」と題して,患者のQOLなどによって,提供された医療サービスの結果を評価する研究「アウトカムリサーチ」をめぐるアメリカの現状について報告。
 続いて行なわれた柏木氏による会長講演では,「九大における総合診療部」と題して,教室の沿革と,病院内における「総合診療医」の実際の業務や求められる役割などを解説。同時に,教室で進められているC型肝炎ウイルス(HCV)キャリアを追跡調査した地域臨床研究について報告し,柏木氏は「このような地域密着の臨床研究から,肝癌撲滅という大きなテーマへと発展する可能性がある」と結んだ。

高齢化社会における総合診療医の役割

 学会初日に,シンポジウム「高齢化社会における総合診療医の役割」(司会=川崎医大 津田司氏:写真左,九大 林純氏;写真右)が企画され,6人の演者が登壇。ここでは,世界にも例を見ないスピードで高齢社会となった日本の医療の中で,今後,総合診療医がどのような役割を担うべきかについて,感染症対策,かかりつけ医,在宅医療,退院後の脳梗塞患者などをめぐって議論がなされた。
 最初に上野久美子氏(九大)は,福岡市内の病院で高齢者入院患者における37.5℃以上の発熱症例を対象に,その原因疾患を,無熱状態が8日以上持続した後に37.5℃以上の発熱があった場合を1エピソードと定義して検討した。その結果,1年間の調査期間を通じて発熱の原因疾患は,肺炎などの呼吸器感染症や尿路感染症などの「感染症」が全体の70%を占めること,また冬期の発熱患者の増加はインフルエンザを主とする呼吸器感染症によることを明らかにし,感染症対策の必要性を訴えた。
 続いて,「高齢者におけるインフルエンザ対策」と題して,池松秀之氏(原土井病院)が口演。60歳以上の入院患者に対してインフルエンザワクチンを接種し,HI抗体価を測定したところ,ワクチン接種者の7-8割はHI抗体価が128倍に達していることが明らかにされた。また,発症早期にアマンタジン投与を受けた患者は,未投与者に比べて発熱期間が短縮すること,さらにインフルエンザAの迅速診断キット「Directigen Flu A」は特異性が高く,診断に有効であることなどを解説した。

「かかりつけ医」とは

 原祐一氏(九大)は,「かかりつけ医の資格要件に関する研究」を口演。1998年に福岡県内科医会の会員1301人を対象に行なったアンケート調査(回収率51.8%)では,「かかりつけ医を内科医が行なうべきか」という問いには,39歳以下の医師は「何科の医師でもよい」と,70歳以上の医師は「内科医に限るべき」と答える傾向があったと報告。総合的に患者を診療できる医師の資格要件は必要と感じている医師も6割に上るが,それも地域・年齢で傾向が異なることを示唆した。
 青森市内で診療所に勤務する森田裕美氏(青森保健生協中部クリニック)は,地域における在宅医療の現状を報告。拠点病院としてのあおもり協立病院との連携,「患者情報伝達システム」を確立し,診断・治療内容,重症度などをパソコン入力し,患者概況として病院外来や必要な関連部門への提供など開始したことを明らかにした。森田氏は「今後,患者家族や他の福祉施設等と一体になった在宅ケアセンターの確立や地域福祉ネットワーク作りが不可欠」と述べた。次いで,「高齢者の受診状況とかかりつけ医」と題して小泉順二氏(金沢大)は,高齢者対象の市民公開講座を受講した修了生同窓会の参加者41名に,通院機関,かかりつけ医の有無,専門医との係わり方などを問うアンケートを実施。その結果,男性93%,女性75%がかかりつけ医を有し,男性では病院を,女性では医院をかかりつけ医とする傾向があるなど,男女差が認められたことを報告した。
 最後に,「脳梗塞患者の慢性期ADL,在宅介護の成否を規定する要因」と題して湯地雄一郎氏(天理よろづ相談所病院)が口演。1998年の1年間に退院した脳梗塞患者56例中42例を追跡調査し,意識障害,嚥下障害,肢体麻痺は退院時の家庭復帰や介護形態を左右する因子となる可能性を示唆した。
 最後に司会の津田氏は,「高齢社会における総合診療医の役割を考える上で,今後は総合診療医が提供する医療の有効性と,患者の満足度が高いという結果を出していく必要があるのではないか」と述べ,議論を結んだ。