医学界新聞

 

第4次医療法改正に関連して-「3:1看護」と「看護必要度」

嶋森好子(日本看護協会・常任理事)


 医療提供体制の改革について審議を重ねてきた医療審議会(厚生大臣の諮問機関,会長=東邦大名誉教授 浅田敏雄氏)は,さる2月21日に「病床種別の見直し,看護職員の配置基準の引き上げ,病院の広告規制緩和,医師(歯科医師)の臨床研修の必修化」等を盛り込んだ「医療法等の一部を改正する法律案要綱」について,厚生省の諮問案を了承。丹羽雄哉厚生大臣に答申した。また,3月3日には社会保障制度審議会(会長=社会保障研究所顧問 宮澤健一氏)他も答申を提出。
 同改正案に関しては約50年ぶりに看護職員の配置基準の変更が明記されたが,審議会で長く議論となった「看護必要度」には触れられていない。そこで本紙では,これらに関して日本看護協会の嶋森好子常任理事に解説いただいた。


 2000年2月10日付で,厚生大臣から諮問を受けていた医療審議会は,同年2月21日に「医療法等の一部を改正する法律要綱案について」の答申(別表参照)を出した。
 答申では,(1)公私病院等の機能分担と連携,(2)療養病床の入院患者の取り扱い,(3)中小病院についての配慮,(4)適切な入院医療の確保,(5)医療における情報提供の推進,(6)臨床研修の必修化,の6つの諮問に対する意見を述べるとともに,引き続き改革を求めることとしている。
 また同答申には,議論の焦点となっていた看護職員の配置基準に関しては,「3:1(入院患者3人に対して看護職員1人)」としているが,「一部の委員から,医療法上の人員配置は最低基準であり,一般病床の配置基準は入院患者4人に1人(従来の4:1看護)とすべきという意見があった」ことが付記されている。
 この付記については,「これを付記するなら『3:1より多い数の看護要員を配置すべき意見もあった』ことも付記すべき」との意見もあったようだが,それは付記されていない。
 答申の中でも述べられているが,今回の改革では十分でないとする意見が多く,私もそう感じている。特に看護要員を「3:1」にとどめたことは大きな疑問である。これらの点も含めて,いくつかの私見を述べてみたい。

看護要員の配置基準について

望まれる医療提供体制の改革

 看護要員の配置基準が,3:1にとどまった上に,4:1とする意見があったと付記さ れたことは,あまりにも現実を無視した数値であると驚いている。医療法の定める看護要員の4:1は,医療法施行当時(1948年),その時点で働いていた看護要員数で病床数を割って出されたものだと聞いている。この計算方式で1998年の厚生省の統計数値を用いて計算してみると,「2.2:1」となり,すでに3:1を大幅に超えている。これ以下では,責任を持って質の高い看護を提供すると言える数値ではなく,今日の医療状況を見ると危機感すら覚える数値である。
 世界のどの国よりも急激に到来する少子高齢社会を見越して,厚生省は「ゴールドプラン」や「新ゴールドプラン」により,高齢者のケアシステムを作り内容の充実を図ってきた。老人保健施設や在宅支援センターの充実,訪問看護ステーションの設立の促進などがよい例である。その最終段階として2000年度(本年4月)から介護保険制度が開始される。
 同時に医療については,これまでの「社会的入院」と呼ばれるような福祉的な意味の入院患者を含めて行なっていた医療提供体制を改め,福祉との機能分担を明確にし,病院は医療を提供する場として,体制を整えることが望まれている。

看護要員の充実は必須条件

 また,かつては家族も含めた「付き添い看護」が行なわれ,術後や痴呆症状のある患者等には,当然のように付き添い婦か家族の付き添いが求められていた。しかし,この付き添い制度もなくなり,入院患者のすべてのケアを病院の看護要員が担うようになり,先進国なみの病院の体制が整ったと言える。この医療提供体制を実施していくためには,入院患者の診療の補助から療養上の世話までを行なう看護要員を充実させることは必須の条件である。
 これらの状況を踏まえた医療法の改定であれば,当然のこととしてもっと看護要員の数を増やすべきである。医学の進歩が世界の先進国に並ぶものであると自負するならば,病院の診療体制も世界に肩を並べるものであってほしいものだ。
 私たちが,1997年に行なった世界6か国の看護管理者への質問紙調査(厚生省看護対策総合研究)によると,日本の病院における看護婦1人対患者数は,諸外国に比べると群を抜いて多かった。特に夜間の患者数が圧倒的に多く,欧米では3-9人で,最も多い韓国でも最高17人であるのに対し,日本では最高22.5人という数であった。これでは質のよい看護が提供できるとは思えない。そのため,日本看護協会では夜間帯でも患者10人に1人の看護婦が配置できる看護要員数として,「1.4:1の看護要員数」を要求している。

看護必要度と広告規制緩和

盛り込まれるはずだった看護必要度

 また私は,昨年まで「看護必要度に関する研究」(厚生省の委託事業による調査研究)のワーキンググループのメンバーであった。この研究は,看護の必要度について客観的な測定用具を開発するためのものである。実はこの4月の診療報酬の改訂で,「看護必要度を加味した看護料の考え方」が盛り込まれるはずであった。しかし,看護料は入院基本料に含まれることとなり,その入院基本料の算定要件は,やはり看護要員数を基準とすることになった。
 看護必要度は,当初急性期病床への導入が考えられていた。しかし,今回の医療法改定では,病床の区分を,「精神病床,感染症病床,結核病床,療養病床および一般病床とする」こととなり,これまでの一般病床を比較的長く療養する患者が入院する療養病床とそれ以外の一般病床に区分するが,急性期,慢性期の区別を明確にはできなかった。あるいは,これが看護必要度の導入が検討されなかった理由なのかもしれない。

「看護必要度」の継続検討を示唆

 しかし,この看護必要度に関しては,中央社会保険医療協議会の答申書(本年3月3日)が,「医療制度の抜本的改革の一環として,今後さらに診療報酬体系の見直しを進める必要があり,次期改訂に向けて検討する事項」と明記。「配置基準にとどまらず,リハビリテーション,看護必要度など診療実績を評価する手法のあり方について検討する」として,継続検討することを示唆している。
 看護必要度の導入は急性期病院において,これまで以上の看護要員を配置しようとする時に,患者の看護の必要度に応じた看護要員の配置を可能にするための手法であり,病院の区分が明確にならなかった今回の改定においては,その手法が十分活かされないと考えられたのではないかと思われる。今後,病院区分が明確になり,それらの病院においてより多くの看護要員の配置が期待される場合に有効な手法と考えられる。今後の医療提供体制の整備とともに,この手法を用いて看護の必要度に応じた看護要員の配置とその評価が行なわれるように期待したい。

情報提供の推進に関する事項

 また今回の改正では,医業について情報提供できる事項として「診療録その他の診療に関する諸記録にかかわる情報」および「助産録にかかわる情報」を追加することが明記された。その他情報提供できる事項については,日本医療評価機構が行なった医療機能評価の結果等7項目をあげている。
 これについては,病院の機能やサービスの内容と質にかかわる事項も多く,病院がそれぞれ工夫して患者サービスに努め,その内容を広告できるとなれば積極的に努力している病院と旧態依然とした医療提供をしている病院との区別がつきやすくなる。これは,患者が病院を選ぶ際の目安になると考えられ,各病院がそれぞれに広報するようになることに期待したい。
 しかし,それを公にすることは,患者に期待を持たせることにもなり,その期待に応えられなかった場合にはそれなりの評価を受けることにもなる。また,患者にとっては,広報された内容通りの医療を受けられたのかの評価を自分でしなければならない。「看板に偽りがある」医療施設については,それも公になることも期待したい。それによって医療を受ける者と,医療を提供するもののいずれにとっても,満足できる質のよい医療が提供されるようになることを期待している。
※「医療法改正要網」「答申」については,近々全文を医学書院のホームページに掲載する。

医療法等の一部を改正する法律案要綱について(医療審議会答申)
平成12年2月21日
厚生大臣 丹羽雄哉殿
医療審議会長 浅田敏雄
 
 平成12月2月10日発健政第9号をもって諮問のあった標記については,当審議会としては,医療を取り巻く環境の変化に対応するための課題に取り組むものとしてこれを了承する。ただし,一部の委員から,医療法上の人員配置基準は最低基準であり,一般病床の看護職員の配置基準は入院患者4人に1人とすべきとの意見があったことを付記する。
 諮問案についての意見は次のとおりであるので,政府において適切に対処し,引き続き改革を進めることを要望する。

(1)公私病院等の機能分担と連携(略)
(2)療養病床の入院患者の取り扱い(略)
(3)中小病院についての配慮(略)
(4)適正な入院医療の確保(略)
(5)医療における情報提供の推進
 医業等に関する広告の規制については,当面,当審議会が昨年7月に提出した「医療提供体制の改革について(中間報告)」において示した基本的な考え方を踏まえて検討すること(略)
(6)臨床研修の必修化(略)