医学界新聞

 

21世紀の健康科学の方向づけを模索

日本健康科学学会15周年記念シンポジウム開催


 健康に関する学問領域の拡大と健康の概念の変化に対応するために,1985年に設立された日本健康科学学会は,昨(1999)年9月に,日本学術会議登録学術研究団体として登録。さる1月31日に,創立15周年を記念するシンポジウム(組織委員長=杏林大・同学会長 信川益明氏)が,東京・新宿区のグランドヒル市ヶ谷で開催された。
 「21世紀:健康を取り巻く社会・政策環境の変化と健康科学の対応-リエンジニアリングと健康マネジメント」をメインテーマとした本シンポジウムでは,信川氏による基調講演「日本健康科学学会-過去,現在,未来-15年間の流れとこれからの役割」の他,シンポジウム I「新しい健康問題と健康リスク環境」(司会=聖マリアンナ医大 吉田勝美氏),同 II「21世紀における健康科学,変化への対応」(同=広島大病院 石川澄氏)が行なわれた。

学際的学問領域との連携を

 基調講演を行なった信川氏は,15年にわたる学会の歴史を報告するとともに,21世紀に向ける学会の方向性に関し,健康にかかわる自然環境,生活環境(地域や社会)の11観点から考察。(1)「健康の概念の変化と環境」として,「健康は病気の対立概念から,積極的な取り組みへの転換が求められている。また,健康の概念は医学的,予防・公衆衛生学的観点から,経済,生物学的観点など広範囲であるために,従来の学問領域では捉えることが困難になっている」と述べた。さらに(2)「医療環境と健康」や,「自然・人工的環境,行動的環境,生物学的環境,医療サービス環境が,健康に影響する因子を考える上では特に重要」とする(3)「健康の影響因子」から解説。また,「物理的環境,生物学的環境,化学的環境,行動的環境などの環境因子が個人の健康に影響を与えている」とする(4)「地域環境と個人」の他,(5)「食物」,(6)「地域環境,病院環境および病院のインプット・プロセス・アウトカムと安全」,(7)「医療廃棄物」,(8)「保健・医療・福祉環境と健康」,(9)「健康の測定」からも解説を加えた。その上で(10)「21世紀における健康科学は,その学際性と他の学際的学問領域との連携が必要」と述べ,(11)「地域医療からみた環境把握の重要性」を説いた。信川氏はまとめにあたり,「研究機関だけでなく現場との情報交換,次世代・次々世代の人への環境作りが今後の学会には重要」と示唆した。

21世紀における健康科学

 シンポジウム II「21世紀における健康科学,変化への対応」では,石川氏の司会のもと,医学の立場から太田壽城氏(国立栄養研),看護学から中村恵子氏(青森県立保健大),栄養学から細谷憲政氏(日本健康・栄養食品協会),健康管理の視点から川久保清氏(東大),行政の立場から山本光昭氏(厚生省国立病院部)が登壇。
 太田氏は,健康増進施設で8週にわたり高脂血症の運動指導をした結果を報告。(1)運動をしない群,(2)15-60分/週,(3)60-120分/週,(4)120-180分/週の運動群を比較したところ,「コレステロール値の改善は運動量に比例して大きくなり,(4)では2倍以上に改善された」として,非薬物療法としての運動の有効性を示した。
 中村氏は,「国際看護婦協会が1973年に採択した看護婦の規律に,看護婦の基本的責任として,健康増進,疾病予防,健康回復,苦痛緩和の4点があげられている」と看護職の役割を概説。「看護は,対象となる人々に対し生活者としての観点から,健康を査定し,その人の持てる力を最大限に活かしたケアを選択・実践する実践学である」と定義づけた。その上で,青森県立保健大と同県立中央病院との間で進めているユニフィケーションの取り組みを紹介した。
 細谷氏は,「日本は,栄養学研究が遅れており学問的領域に達していない。これまでの栄養の問題は,食品・栄養(food and nutrition)は欠乏症解消時代の考え方・取り組みであったが,これからは人体側面からみるnutritional qualityからの取り組みが第1である」と指摘した。
 川久保氏は21世紀の健康管理のキーワードとして,「生活習慣病,集団ストラテジー,目標志向,環境整備,行動変容,地域志向,evidence-based」を提示。「健康管理にはevidence-basedの視点が必要だが,evidenceそのものが少ないのがこの領域である」と述べた。
 最後に山本氏は,厚生省が本年実施予定の「健康日本21」に関し発言。「主役は国民」である「健康日本21」には,科学的根拠に基づく「国民の健康水準の進展度を評価し,検証することが盛り込まれている」とし,その基本理念や基本戦略,環境整備とその実施主体の役割について解説した。