医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


失敗を恐れず,変化を起こそう

固定チームナーシング
責任と継続性のある看護のために
 西元勝子,杉野元子 著

《書 評》高嶋妙子(聖隷浜松病院顧問)

 一昨年だったかK先生が溜息まじりに語られた,「どう思いますか?固定チームナーシングのセミナーに700人もナースたちが集まるのですって」という言葉を思い出しながら読み進んだ。K先生がいわんとした,「ナースは,なぜそんなに形を求めるのだろう」ということは日頃私も気になるところではあった。しかし,私もK先生も「固定チームナーシングの何たるか」は知らなかった。私は昭和50年頃に起きた「チームナーシングは目的か手段か」の論争を思い出しており,同じことが起きなければよいがと憂えた。「何がしたくて」を持たずに形を整えても,費やすエネルギーの割には満足は得られないことは十分学んでいたからである。
 今著作を読了して,すでにその頃この方式は一世を風靡していたことがわかった。そして実践記録ともいえるこの著作を読みながら,前述した私の憂いは晴れていった。まるで何かの運動のような,うねりとも思える,この看護方式の広まり方,その勢いに,現場のナースたちの変化を起こしたがっている気持の強さが伝わってきたのである。
 著者らは文中で繰り返し,「看護方式はシステム。システムを変えてもメンバーの意識が変わらないと効果的に動かない」と説く。しかしこの隆盛ぶりからは,システムを変えることを通して意識を変えたいというナースたちの思いが読み取れる。考えてみれば,その思いがあればよいではないか。何を手立てとしてもよい。何がきっかけとなってもよい。そのままでいるよりも,変化を起こしたほうがよいに決まっている。失敗を恐れて何もしないよりも,失敗しても変化を起こしたほうがよい。この覚悟があると,失敗した時にも,うまくいかない時も,修正や再挑戦ができるものである。

「何のために」「何がしたいから」

 書名が気に入った。「固定チームナーシング」だけでなく,「責任と継続性のある看護のために」というサブタイトルが生きる。これで「何のために」が明確になった。
 責任は権限に裏付けられることによって果たされる。管理者は直接患者看護にあたるナースに,看護実践に必要なすべての権限を委譲しなければならない。責任感厚い管理者はなかなか権限の委譲の仕方がわからない。その仕方が細部にわたって述べられている。
 細部にわたって述べられるが,各施設で実際に展開した事例がふんだんに紹介されているので,否応なく自分のところではどのように実践に移そうかという検討は必要となる。考えもなく,ただ形を真似るということはできないようになっている。
 35年以上も前の,チームナーシング導入に参加した立場から言わせてもらうと,その理念を踏まえれば,そもそも日替りリーダーはありえなかった。看護に限らないが,「何のために」「何がしたいから」を抜きにした真の前進はない。根底に流れる思想は,著者らにまったく同感である。
B5・頁150 定価(本体2,000円+税) 医学書院


初心者にこそ薦めたい,現代性に満ちたテキスト

アディクションアプローチ
もうひとつの家族援助論
 信田さよ子 著

《書 評》宮本真巳(横浜市大看護短大部・精神看護学)

 アディクションアプローチという簡潔な題名は,本書の内容をよく言い表している。そして,精神保健に限らず,保健医療領域で仕事をする看護職やそれ以外の専門家にとって,本書は格好なテキストとなるだろう。ただし,おそらく読まれ方は多様で,本書の内容に抵抗を覚える専門家も少なくないと思う。

イネーブリングという逆説

 本書のキーワードである「アディクション」とその訳語である「嗜癖」という概念は,少しずつ世に知られるようになってきたが,医療の世界で必ずしも共有されてはいない。一昔前のように,アルコール依存症や薬物依存症を中毒に見立てるのではなく,依存症として捉えることまでは医学の常識となった。しかし,飲酒のほかに賭博,浪費,暴力,摂食障害など,社会生活を脅かす執拗な繰り返し行動をアディクションとして包括的に捉える発想と,それに基づく専門的な援助方法が,臨床の現場に十分根づいたとは言えない。
 アディクションアプローチの浸透しにくさを代表しているのが,「イネーブリング」という概念だろう。アディクションアプローチでは,嗜癖患者への援助よりも,問題を持ち込んだ家族への援助に重点を置く。ただし,援助の内容は家族が患者の世話から手を引くよう勧め,手を出さずにいられる方法を一緒に考えることである。それは,嗜癖患者のためを思う家族の行動が病気を支えてしまうという理由からであり,専門家もまた同じ理由から,患者の回復を遅らせてしまう。

思わず保護に走ってしまう援助者自身の問題

 そこで筆者は,悩み多き若手訪問看護婦を登場させ,カウンセラーならではの共感を示しながら,専門職がイネーブリングにはまっていく道筋と,そこから脱けだす方策について懇切丁寧に説いている。
 一方で筆者は,心理臨床家の立場から,看護職,とりわけ訪問看護の担い手に寄せる期待について,若干の危惧を交えながら語っている。看護職は,人の命を守るという大儀名分により,身体性とプライヴァシーの壁を突破できる。さらに,訪問活動を通じて家族の閉鎖性に風穴を開け,“ホームナース”の役割を果たす可能性も秘めている。しかし,看護職が,他の援助職にはないこうした“特権”を乱用すれば,患者や家族の自己決定を妨げ,まさにイネーブリングにはまり込むことになる。
 アディクションアプローチの要点は,専門家が患者や家族への余計なお世話をやめて患者の問題は患者に,家族の問題は家に返すことである。それが看護者にとって簡単なようで難しいのは,患者の個人的な精神病理に眼を奪われてきたからだろう。アディクションを家族背景や生活状況から切り離して個人病理と見る限り,患者の保護という役割から降りられない。病人には何よりも保護が大切だという固定観念と,思わず保護に走ってしまう援助者自身の問題に気づくことの重要性を筆者は指摘している。

セルフケアを促進する方法論として

 「キュア」から「ケア」へという最近よく耳にする標語は,医学偏重への警鐘にはなるが保護の偏重を助長する危険もはらむ。今求められているのは,他律的ケアから自律的ケア,すなわちセルフケアに向かう流れを作り出すことだろう。看護界でもセルフケアの重要性が指摘されて久しいが,医師や看護者の指示通りに行動することがセルフケアだという誤解も根強い。患者の自己決定を尊重した対等の話し合いが根づくまでには時間がかかりそうだが,アディクションアプローチが,これを促進する方法論であることは間違いない。
 本書は,保健医療の現状に染まった人には抵抗があっても,初学者にとっては,日常的な人間関係と専門的な援助関係の関連を解きあかすわかりやすい本だと思う。旧世代の試行錯誤と悪戦苦闘の跡が滲み出た本書を出発点にした人たちが,この先どこまで行けるか見届けていきたい。
A5・頁216 定価(本体2,000円+税) 医学書院


最高の著者を得た,最高のガイドライン

ピル服用指導ガイドブック 倉智敬一 著

《書 評》坂元正一(日本母性保護産婦人科医会会長・東大名誉教授)

 経口避妊ピルが世に出て約40年,やっとわが国でも使えるようになった。日本においても1965年,1991年の2回にわたる中央薬事審議会の検討は,まさに変な天の声というほかはない理由で凍結された状態になってしまった。国連加盟国中,唯一の低用量ピル未認可国となってしまった日本。1993年5月,産婦人科関係4団体を代表して,早期認可要望書を厚生大臣に手渡した私は,エイズ問題,環境問題をからめての反対はあったものの,厚生大臣の認可が1999年6月2日にずれこみ,9月2日から使用許可になろうとは,まったく思いもかけなかった。初期の頃より研究に女性保健に苦労を重ねた多くの学者の思いは,察するにあまりある。
 学会などのガイドラインも渡され,発売時期を早く見越しての出版も少なくなかったが,避妊ピルの実物を手にして,「どう使ったらいいのか」というホットな思いの中で登場した『ピル服用指導ガイドブック』ほど,時機を得,しかもこれほどレベルが高くてやさしい指導書はないのではないかと,私は感嘆しきりである。

エキスパートになった気がしてくる

 阪大名誉教授,日本産科婦人科学会会長など要職をこなされた倉智敬一博士は,若い頃から内分泌学の碩学の誉れ高く,ドイツ留学後も「排卵の誘発と抑制」を一生のテーマとしてこられた方である。神経内分泌からステロイド代謝にいたる,あらゆる領域の泰斗として,実際にピルの臨床研究にも携わられており,同時代にともに教授職として多くの仕事を一緒にした私からみれば,最高の著者を得た,最高のガイドラインの誕生と申し上げて憚らない。名誉会員として学会に早期認可要請を強く迫られたお立場からすれば,本書は著者の学者としての良心の奔りとして書きあげられた啓蒙の書と言ってよい。
(1)今日,避妊にはベストと思われる低用量ピルが多くの認識不足や誤解から利用できず,日本の女性が避妊の孤児になっている
(2)避妊と健康維持薬をかねた要処方薬the pillを投与する医師へ知識・認識の普及
(3)Reproductive health & rightsのために素人の疑問に答えるカウンセラーであるコ・メディカルの方々への啓蒙
(4)使用不適切な場合に対する対応などへの統一的見解の整理
 それこそ,著者の執筆動機である。医師にしても,ホルモンの専門家でないと食わず嫌いの傾向があって,型の如くといった投与が行なわれやすい。低用量ピルも多くの種類があり,使用する人の身体の調子に適した使い方によってこそ,「女性の人生を変えた」と言われるほどの効果や副効用が出てくる。
 著者は避妊法の歴史,ピル開発プロセスの苦労,作用の変遷,安全度,副効用などを説きながらステロイドに関する基礎知識まで,やさしく語りかける。いつのまにかエキスパートになった気がしてくる。服用の指導の仕方も女性が聞いておきたいすべてが盛られ,飲んでいい人・悪い人,飲み忘れ,避妊の原理,何歳まで飲める?更年期障害も避けられる?など,Q&Aもまぜて楽しく読めるのも,著者の臨床経験のお蔭である。性病予防,これからの避妊法へのつながり,要処方薬で薬は保険がきかないなど,実用的でわかりやすい。一口メモも役立つ。

ポイントに偏りのない良書

 日本人は副作用などの偏った紹介でいたずらに疑いの目を向けがちだが,学問的発表の解釈の仕方,意図的な文献の選択など,外国の事情も混ぜてどれだけマイナスをもたらしたかを,エキスパートとして解説しておられる。基本的に大切なことを公平に分析してあり,それだけでも非常に勉強になろう。流麗な名文は昔と変わらず,若い人向けに口語体でわかりやすく,B5判160頁足らずにまとめてある。女性自身がカウンセラーの説明を理解し,自らの避妊法を選べることがなによりも大切だが,夫やパートナーにもぜひ読んでほしいと思う。
 専門家にも一般の方々にも,どこから読み始めてもいいように書いてあり,しかもポイントに偏りのない本書はこの上ない良書として,ぜひご一読をお奨めしたい。
B5・頁156 定価(本体2,800円+税) 医学書院