医学界新聞

 

新春随想
2・0・0・0

リスクマネジメントとチーム医療

山崎摩耶
(日本看護協会常任理事)


 2000年紀という新しいミレニアムが明け,21世紀へのカウントダウンが始まった。なんと清々しくなんと明るい展望に満ちた新年だろうか!
 と書きたいところだが,保健・医療・福祉界のみならず,社会全体が不安定かつ不透明で世紀末的である。けれど,すべてに改革と新しいパラダイムが求められているようであり,変革を楽しむ人間にはそれなりにおもしろい時代でもある。
 20世紀後半にめざましい技術の発展を遂げた医療の世界が,次に展開するのはその豊かさを反映した人間重視のケアだろうか。

「今さら」ではなく「今こそ」

 今年はいよいよ介護保険がスタートし,医療と介護の世界に新しいシステムが展開される。一方で,国民の医療を支えた皆保険制度も,医療提供体制や保険制度改革がこれ以上の先送りができないほどの状況にある。高齢社会のセーフティネットとしての社会保障システムは,経済が右肩下がりの低成長で国民の消費も低迷しているさなか,年金の給付抑制をねらいとした改正策や,医療保険料や給付の負担増で揺らいでいる。私たち医療提供者に向けられる国民の視線にどこか厳しいものを感じるのは筆者だけだろうか。
 2000年の消費者心理のキーワードは,広告会社によると「反転突破」だそうである。「反転突破」の気分は,これまでの日本社会で是とされてきたシステムやルール,常識を反転させ,自分の感覚や判断を頼りに抜け道を探る動きと解説されている。
 前述したような状況を前に,医療の世界にも新しいシステムのためにやらなければならない作業が山積している。早急に取り組みが求められるのが,医療現場のリスクマネジメントである。
 リスクマネジメントを確実に,徹底して,医療の質向上に貢献させるものにするには,チーム医療という各々の専門性が遺憾なく発揮できるシステムが何よりも重要になる。「今さら」ではなく「今こそ」,チーム医療なのである。

医療機関の生命線であるために

 多発する医療事故やさまざまなリスクの回避には医師のみでも看護職のみでも太刀打ちできない。現場が組織全体で取り組み,組織全体のパフォーマンスが洗練されていくことが必要なのである。そのことで利用者から選ばれる医療体制ができあがり,質の高い医療・看護ケアが提供できる。
 リスクマネジメントがしっかりしている病院は,組織がしっかりしているし,チーム医療も確立している。個々の医療職も自立して患者中心のスマートワーキングをしていると,患者から選ばれる病院になるに違いない。そして,市民への情報の公開がこの動きを促進していくだろうと予測する。
 日本臨床外科学会や日本救急医学会など,多くの学会が学術大会で医療事故やリスクマネジメントを取りあげ出している(遅きに失したという感もなくもない)が,早急にチームでこの問題に取り組んでいってほしいと切望している。
 21世紀の幕開けと同時に,医師の診断・治療や看護,各専門職の行なう医療行為が,エビデンスベースドであるかどうかといったような質評価と,医療事故防止の取り組みが医療機関の生命線であるという認識が(反転突破して)「臨床の常識」になってほしいと思う。
 昨年,私たち日本看護協会が作成した「組織で取り組む医療事故防止」と題したリスクマネジメントガイドラインが,全国の医療機関や教育機関で好評なのがとてもうれしい。