医学界新聞

 

糖尿病の発症を未然に防ぐために

第2回糖尿病未病シンポジウム開催


未病とは

 糖尿病未病研究会主催による第2回糖尿病未病シンポジウムが,昨(1999)年12月18日に,河盛隆造世話人(順大教授)のもと,順天堂大学有山記念館講堂において開催された。
 「未病」とは,「中国医学では古来から言われている言葉。健康状態が悪い方向に変化を始めた時期をさし,病気にはなっていないが進行すれば治療を要する時期のこと」と,福渡靖氏(同研究会世話人,山野美容芸術短大副学長)が解説。氏は,一昨年6月に「臨床と保健分野が分け隔てなく研究を進め,より生活習慣改善に取り組むこと」を主旨として同研究会を発足し,第1回シンポジウムを開催したと報告した。
 今シンポジウムでは,河盛氏による「糖尿病未病研究,この1年の進展」の他,富永真琴氏(山形大教授)が「山形県舟形町研究からみた糖尿病未病管理の重要性」を,また繁田幸男氏(滋賀医大名誉教授)は「糖尿病放置病をなんとかしよう」と題してそれぞれに講演が行なわれた。

運動で効果がある糖尿病予防

 河盛氏は講演の中で,疾病には「無病→未病→有病→障害→死亡」の段階があるとし,未病をどう捉えるかについて(1)検査データにわずかな異変あるが症状はない,(2)症状があるが検査データはすべて正常,(3)正常域だがデータは徐々に悪化傾向,と解説。その上で,早期発見・早期治療により,疾病の悪化や合併症の出現が防止されることから,QOLを重視した「未病」の重要性を説いた。
 また,生活習慣病の改善には体重管理と運動量が効果があることを大規模調査(米・ペンシルバニア大学同窓生,米看護協会員,米医師会員らの経過観察調査)から証明されたと述べた。氏は,糖尿病の予防に関して「1日100段の階段昇降歩行や歩行距離に加え,積極的な運動を加えることで効果が高まる」,「肥満であることは糖尿病の危険因子であり,肥満者のほうがより運動による効果は顕著」,「1週間に1回の運動でも効果がある」と報告した。

「糖尿病放置病」と「てこずり糖尿病」

 富永氏は,山形県舟形町での広域調査の結果から,「糖尿病の増加傾向は自動車の普及率と一致する。上半身肥満は糖尿病になりやすい。空腹時血糖値だけではない診断が必要」などと報告。また,「血糖負荷試験をすべての人にする必要はなく,95-100mgが目安になる」と提案。さらに,「日本の1次予防は始まったばかり。厚生省は2004年をめどに報告をまとめるべく大規模調査を予定しており,糖尿病予防事業として厚生省科学研究班を組織した」ことを明らかにした。
 一方,一昨年に大阪で開催された「糖尿病市民の会」で「糖尿病放置病」を提唱した繁田氏は,全国で糖尿病患者は690万人の他に境界型で「糖尿病を否定できない」人が約680万人いることを重視。糖尿病治療者は217万人,入院患者は4万2600人であり,「その差にある人がそのまま治療をしないと糖尿病となる」と述べた。その上で,糖尿病が強く疑われながらも「健診を受けない,医療機関を受診しない,治療を受けない」人が多いことを指摘しつつ,「糖尿病放置病」を(1)糖尿病未病の放置,(2)糖尿病発病後の放置,(3)基本療法の放置(診断後の運動,食事),(4)薬物療法の中断,放置,(5)インスリン療法の放置と分類した。また,(1)糖尿病を理解しているが実行しない,(2)理解力不足,(3)治療姿勢欠如に分類できる「てこずり糖尿病」も提唱。ともに医療費の増大を招くことを憂慮した。