医学界新聞

 

〔連載〕看護診断へのゲートウェイ

【第6回】NANDA,NIC and NOCの活動

 江川隆子(阪大教授・医学部保健学科)


標準用語の推進

 看護は周知のようにずっと医師とは異なる患者の問題を判断し,看護援助を行なってきました。しかし,その過程を説明する標準化した用語の開発は積極的に行なってはいませんでした。1970年代に入り,病院のシステム管理がコンピュータ化されることになり,さらに統一した看護用語がないことから,看護専門職間やヘルスケアシステムの中で看護ケアに対するコミュニケーションがとれないと気づかされたのです。
 このことが,セントルイス大学の看護学部を中心にして,1973年にNANDA(北米看護診断協会)の前身である第1回全米看護診断分類会議(National Conference on Classification of Nursing Diagnosis)を発足させることになったのです(本連載第1回,2348号参照)。それから,四半世紀が過ぎて,NANDAは150余りの看護診断概念を分類し,15か国語に訳されてすでに看護実践や教育の中で活用されています。
 また,アイオワ大の看護学部からは介入分類(NIC,1989)と成果分類(NOC,1991)が出版され,後者は日本語も翻訳(『看護成果分類(NOC)-看護ケアを評価するための指標,測定尺度』,医学書院,1999)されています。
 そして1997年。看護の共通用語の統一をめざして発展してきたこの3つの組織は,第1回の合同の学術大会を発足するに至ったのです。そして,それはまたアセスメントと看護診断,計画実施で用いるNICとNOCが連携するデータセット作成を可能にしました。現在では,さらにこのデータセットを施設の評価基準の1部に用いようとする動きがあります。

RAPsやOASISとの連携とその実用化

 現在,米国では在宅ケア施設は,すでにOASIS(the Outcome and Assessment Information Set)の入力が義務づけられており,その結果,州単位あるいは全米でのそれぞれの施設の評価をランキングで表示できるようになっています。また,老人施設でも,MDS2.0(Minimum Data Set)を用いた施設評価が設けられています。
 このように米国では,ヘルスケアに対する「評価」が積極的に進められているだけでなく,非常に興味を持ってさまざまな「評価システム」を求めています。これは,すなわち,高騰を続ける医療費の削減とケアの質の向上を目的に,費用対効果(コストパフォーマンス)の評価が求められているのだと考えます。日本でも介護保険の運用に伴って,訪問看護ステーションや介護施設の施設やケアの質の評価基準を求めようとする動きがあります。
 本(1999)年10月のNIC/NOCのニュースレターによると,NANDA,NIC,NOCのデータセットを,メディケア・メディケイドの保険が適用されている老人施設で用いられているOASISと長期医療型ケア施設で用いられているRAPs(Resident Assessment Protocols)に連携することを進めていることが発表されています。そして,明(2000)年の1月にはその著書が研究者らによって出版される予定であることが報告されています。この結果,アセスメントから実践まで一貫した評価基準が整うことになり,看護ケアの第三者評価が可能になったわけです。
 看護職は初めて,自分たちの力で評価基準を設けて運用しようとするこの選択は看護職のアイデンティティを明確にするものでしょう。しかし,現実的には看護援助技術の開発が遅れている看護界において,この挑戦は試練であるかもしれません。
 しかしながら,このような研究者の成果を米国のヘルスケア関係者が無視することは決してないでしょう。近い将来,NANDA,NIC,NOCのデータセットを用いた看護の評価基準を義務化することは,間違いないと思われます。

臨床での活用に向けての研究

 ですから,米国の研究を先取りしようとして,正規の許可もなくこれら研究者の成果の1部分を勝手に自分たち流に訳して,自分たち流に看護実践の中に組み入れようとすることは非常に危険なものであるとともに,研究者らの業績に対する冒涜です。
 NANDA,NIC,NOCに関する研究や検証は永続的に継続されていくことでしょう。上記のニュースレターの中でも,NOCの検証研究について,本年6月にアイオワ大で研究参加のためのトレーニング研修が実施され,アイオワのAlverno医療センターとロチェスターのMayo医療センター,シカゴのAdovocate医療センターで検証研究が実施されると報告されています。このように,すべてはまだまだ検証中の段階です。ですから,この研究に対するフィードバックのためにNOC,NICを使用することは,研究者らの大いに期待するところです。
 1973年から検証が進められている,看護診断分類の使用については,すでにNANDAが実践に用いることを許可しています。そして,自国の文化や言語の問題から部分的な変更を加えることを進めています。しかし,これもNANDAへのフィードバックを期待しています。それは,私たち看護職が患者に対する質の高い看護ケアを提供するために,看護実践で用いる統一用語の開発をしようとする強い決意の表われでもあります。
 もし,この時点でこのデータセットを臨床で用いるなら,正規のルートを通して導入すること,またそのシステムの運用には“監査チーム”を作ることをお勧めします。そうしなければ,犠牲になるのは患者です。また,活用の途中で生じた問題点や利点を研究者らにフィードバックすることが重要です。

NANDA,NIC,NOCの国際標準化への推進

 NANDA,NIC,NOCの研究者らは,20世紀途中で旋風を巻き起こした,国際標準語のエスペラント語の開発とその挫折を意識しているはずです。
 それは,民族,多文化国家である米国が言語や文化,価値観の相違がもたらす医療従事者間,あるいは患者との摩擦を十分に経験済みだからです。それでも研究者らは,どのような文化や価値観の違いがあっても「生きること,健康であること」に関しては,必ず共通点があると信じているから,この共通用語の開発を押し進めているのです。そして将来,これらが国際標準化となることは疑う余地もありません。異論があるのであれば,国際学会の場で意義をその根拠を沿えて訴えることが必要です。
 ここにきても,文化や価値が違うから,自分の病院の独自の用語で実践しようとするのは,個別のセクト意識やナショナリズムでしかありません。この改革は,確かに看護者にとって試練かもしれませんが,患者のため,看護のために,臨床家と研究者が一緒に国際標準化へ挑戦を続けなくてはならないでしょう。