医学界新聞

 

生命の質をどこまで守れるか

第2回日本腎不全看護学会開催


 第2回日本腎不全看護学会が,さる11月12-13日の両日,波多野照子会長(済生会八幡総合病院)のもと,福岡市の福岡アクロス国際会議場で開催された。
 透析導入患者の原疾患の第1位は糸球体腎炎から糖尿病性腎症と変わり,全国に690万人とみられる糖尿病患者の2割強が糖尿病性腎症となっている。また,日本の透析患者は19万人とも言われ,その医療費は1兆円,全医療費の3.5%を占めるまでになっていることなどから,これからの透析医療と腎不全の対策などが,社会的な問題と言われている(本紙8月9日付,2350号1面「日本透析医学会開催」記事参照)。
 腎不全看護には,これらの問題を背景に,高度な専門性が求められているとして,今学会では「腎不全看護のこだわり-生命の質をどこまで守れるか」をテーマに据えた。
 本学会では,19題の一般演題発表をはじめ,会長講演「CAPD20年」,教育講演 I「腎不全の治療の選択」(済生会八幡総合病院長 合屋忠信氏),同 II「看護研究」(阪大教授 江川隆子氏)の他,特別講演「子どもの病気とトラウマからの回復-あるネフローゼ患者の場合」(龍谷大法教授石塚伸一氏),ワークショップ「これからの腎不全看護-生命の質をどこまで守れるか」が企画された。

腎不全看護のエキスパートナース

 本学会総会で,1975年より学会の前身である「日本腎不全看護研究会」を主宰してきた宇田有希氏(同学会理事長・西部腎クリニック)は,「本学会は,20年におよぶ研究会を経て,腎臓病看護のエキスパートナースの育成をめざし設立に至った。2年目を迎えて現会員数は500名を超えたが,アメリカでは31年の歴史がある学会に4500名が参加しており,ヨーロッパ諸国も同様の傾向にある」と報告。また,「腎不全患者の安全,安楽をめざすには,専門的知識と技術を有するエキスパートナースの存在が必須。『この施設にはエキスパートナースがいるから安心』と認識できるまでに腎不全看護の質を高めたい。その礎を学会が築きあげる必要がある」と述べた。
 一方,波多野氏は会長講演の中で,1976年に開発されたCAPD(持続性自己管理腹膜透析)を,済生会八幡総合病院では1980年から導入。初期は,英語の説明書を頼りにで実施していったこと,CAPDの発展・進歩により腹膜炎は大幅に減少していったことなどの歴史を概説するとともに,その有用性などについても触れた。なお,CAPDの導入は全世界平均で14%,イギリス45%,カナダ36%,オーストラリア31%,アメリカ14%であり,日本はわずか5%の1万300人(1997年調査)にすぎないことも報告した。

専門的治療,継続管理体制の必要性

 本学会のテーマを受けて開かれたワークショップ(写真)では,内田明子氏(千葉社保老健施設)と遠藤ミネ子氏(三愛病院)の司会のもと,まず野坂千恵子氏(岩見沢クリニック)が「患者の拒否行動をどこまで容認できるのか」を口演。野坂氏は,透析室の人間関係について「父性機能を透析医が,母性機能は看護婦,MSWが担い,患者は子ども」という「疑似家族説」を呈し,「患者のストレスを取るのが母親役の看護職の役目。精神心理面での3者のバランスがとれてこそ,患者は早期の自立が可能となり,生命の質が守られる」と述べた。
 次いで渡邊美智子氏(白鷺病院)は,欧米での発症率1.4-7.3%,日本では1.7%と報告されているCAPDの重篤な合併症である硬化性被嚢性腹膜炎(SEP)について,自院での発症例や転帰の状況を報告。SEPの問題点として,(1)現時点では診断法,治療,予防が難しいことからインフォームドコンセントが困難,(2)SEPが発症した場合には絶食とTPN(経静脈高栄養療法)が長期間に及ぶことで,患者および家族の身体的,精神的ストレスは非常に高くなるなどをあげた。その上で,SEP外来を含めたCAPDスタッフによる専門的治療や継続管理体制の必要性を強調した。
 またもう1つの腎不全の治療法である腎移植とQOLに関しては桑島聡子氏(仙台社保病院)が口演。自院での1976年からの腎移植は486例(うち生体腎移植399例)あり,東北大との共同により年間25例ほどの術を実施,うち295例が通院中と報告した。また,「入院前から家族を含めて腎移植患者の自己管理の重要性を認識してもらっている」と述べ,移植医,看護職らによるチーム医療の必要性を示唆した。
 菅朗氏(天神クリニック院長)は,医師の立場から発言。菅氏は,(1)身体状況,(2)情緒状況,(3)家族・友人関係,経済などの社会的生活など5視点,30項目からなる透析患者のQOL調査票を紹介し,「透析患者は,心理的,社会・経済的,生活習慣,身体状況からもストレスが発生しやすいことを認識しながら患者と接するべき」と述べた。また,患者と看護スタッフの溝を埋めるための「ソーシャルワーク」を概説し,これからの透析・腎移植医療におけるコンサルテーション・リエゾン医療を提唱。
 さらに菅氏は,患者から忙しすぎると見られている透析看護婦ら医療スタッフと患者の間を取り持つMSWの必要性を説いた。これに対しては,同学会が将来的に育成を考えている「エキスパートナース」がまさにこの役割を担うと思われたが,会員からは反論,異論もなく不可解さを残した。
 その他,一般演題発表ではこれまでに看護系学会や雑誌などですでに発表,検証されていることに取り組んだ報告例がみられた。日進月歩の透析医療においては研究の積み上げ,新たな視点による発表があってもよいと思われるが,3年目を迎える同学会の今後の課題とも言えるだろう。
 なお,次回は明年11月16-17日に,大阪・吹田市の千里ライフサイエンスセンターで開催(会長=大阪府立病院 春木谷マキ子氏)される。