医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


待望の小児全般にわたるリハビリテーション医学の教科書

こどものリハビリテーション医学
陣内一保,安藤徳彦,伊藤利之 編集

《書 評》米本恭三(都立保健科学大学長)

 本書の前身は,編集が大川嗣雄,陣内一保の両氏による『こどものリハビリテーション』(1991)である。序言の中に,発行されてから8年を経過したので,今回はタイトルも一新して『こどものリハビリテーション医学』として出版したとある。しかし,2冊の本を読み比べてみると,改訂2版と思っていた当初の考えは次第に改められた。新しい1冊の書籍が誕生したと言っても過言でない。総括すると,久しく待望されていた小児全般にわたるリハビリテーション医学の教科書が出版されたと言ってよい。
 この度編集にあたった陣内一保氏,安藤徳彦氏,伊藤利之氏は,小児のリハビリテーション領域に精通し,長い診療経験をお持ちの方々である。また,前身の書と比べると半数以上が新しい筆者に変更されており,57人に及ぶ全執筆者はいずれもこの界を代表した指導的立場の方々である。
 主観的な記述を排し,客観性を重視した教科書になるよう企画・編集され,本書が完成したものと考えられる。

明日の臨床に役立つ実践の教科書

 本書の特徴をあげれば,12章にわたる内容が教科書としてのスタンダードな知識を盛り込みながら,明日の臨床に役立つ実践的な書としても大いに役立つことである。
 各章をみればわかるが,序論,発達診断・評価,治療総論,脳性麻痺,精神遅滞,自閉症,てんかん,神経筋疾患,二分脊椎,水頭症,骨関節疾患,四肢の先天奇形と切断,その他に補装具,口腔衛生,摂食指導,そして資料と続く項目立てとその内容は包括的で小児のリハビリテーションの全域が網羅されている。てんかんと自閉症の療育が独立して記述されたことは,注目されている領域でもあり,本書になってより充実した部分の1つと言える。
 しかし重度心身障害児(重度脳障害児)の療育に関しては,呼吸管理,栄養管理,ポジショニング等と問題が多く,アプローチの具体的知識が加われば,さらに完成されたものになろう。
 また,章と関係なくMEMOとして最近の知識(9編)を加えているが,興味を引きつけるとともに読みやすくしている。

保健医療職の必読の書

 編集と,執筆に携わった諸氏の大変なご努力で誕生した良書であり,小児のリハビリテーションの専門書である。小児の医療やリハビリテーションに携わる医師,看護婦,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士をはじめその他の保健医療職の方々にとって,必読の書として広く利用されることを切望する。また卒前・卒後の教育では小児リハビリテーション医学の教科書にされることをお勧めしたい。
B5・頁418 定価(本体9,500円+税) 医学書院


「疑わなければ見えてこない」肺血栓塞栓症を理解する

肺血栓塞栓症の臨床
国枝武義,由谷親夫 編集

《書 評》杉本恒明(関東中央病院長)

 外来で長い間,高LDH血症として観察されていた症例が,息切れの増悪を訴えて循環器科を受診したことがあった。実は慢性再発性の肺塞栓症であった。また最近も,転倒し大腿骨骨折を起こしたお年寄りが呼吸不全状態となって送られてきた。骨折のための脂肪塞栓であった。

国立循環器病センターにおける自験例の集大成

 肺塞栓症は日常的にしばしば見られるものの,一方,見逃されることがきわめて多いものである。研究対象としても,循環器科と呼吸器科との境界にあるために取組まれることが少なかった。評者にとっては,肺塞栓症の重要性を早くに指摘された村尾誠先生が昭和30年代に29例を報告されたことが思い出となっている。しかしながら,本症はどの診療領域においても起こり得る合併症であり,ときに突然死の原因ともなることから,近年に至っては大きな関心がもたれるようになり,学会シンポジウムなどでもしばしば取り上げられるようになった。そのような折にいつも中心となっているのが,本書の編集者,国枝,由谷両博士なのである。
 本書の大きな特色は,これが国立循環器病センターでの自験例の集大成であるということにある。センターで経験された昭和53年から平成7年までの間の急性肺塞栓症132例,慢性肺塞栓症63例が本書の基盤となっている。病理所見が核となっていることも特筆されよう。センターでは剖検例のの18%に肺塞栓があり,臨床的に診断されていたのはうち19%であったと書かれているが,こうした病理学者の厳しい目が背景にあったが故に,本書を担当されたような優れた研究者が育ったものであろう。

臨場感のある症例集

 本書は基礎編と臨床像の2編で構成される。基礎編はマクロとミクロの肺塞栓症の概念に始まって,その病理,病態,診断,治療のすべてを網羅する。特殊検査については血管内視鏡や血管内超音波検査も含む。血管内視鏡検査で初めて手術適応が判定された例も示されていた。病因として注目されている先天性,後天性の血栓性素因についても記述がある。臨床像の編は症例を呈示したものである。内科的治療が奏効した例,外科的治療を要した例,再発例,致死的症例,凝固線溶異常例などが紹介され,あるいはまとめられて,臨場感のある症例集となっている。
 肺塞栓症は思いがけない発症をする。ときには疾患の慢性的な経過の中にみられて本来の病像をさまざまに修飾することもある。本書によって本症についての理解が深められ,その診断と治療が適切に行なわれるようになることを期待したい。得られた知識が「疑わなければ見えてこない」本症を一層よく見えるようにするであろうことを願うものである。
B5・頁272 定価(本体8,000円+税) 医学書院


躁うつ病のバイブル的存在

双極性障害 躁うつ病の分子病理と治療戦略 加藤忠史 著

《書 評》山脇成人(広島大教授・神経精神医学)

双極性障害

 躁うつ病はアメリカ精神医学会のDSMによって「双極性障害」と呼ばれるようになって久しいが,一般には躁うつ病のほうがなじみがある。多くの著明な業績を残した実業家や芸術家が躁うつ病であったことはよく知られた事実であり,知的レベルの高い人を襲う病気と言えるかもしれない。それだけに資源がなく,知的財産を武器にせざるを得ないわが国のような国においては,躁うつ病の患者さんが適切な治療により社会復帰することは,その患者さんのためだけでなく,社会にも大きな貢献をもたらすものと思われるので,その病因解明と根本的治療法の解明が望まれている。
 躁うつ病の臨床的特徴は,躁病相やうつ病相を周期的に繰り返すが,病相と病相の間はほぼ正常の状態に回復しているということである。この事実は,躁うつ病は可逆的であり,治療によって完全に治癒しうる疾患であることが示唆される。にもかかわらず,躁うつ病の病態は未だ不明な部分が多く,完全に克服できているとは言えない状況にある。
 従来,うつ病に関する成書や一般向けの著書はこれまで多く出版されているが,躁うつ病に関しては,精神医学の教科書においてありきたりの記載がされているに留まり,一般向けのものはほとんど皆無であった。著者の加藤氏は医学部卒業後10年目の新進気鋭の精神科医であるが,この間一貫して躁うつ病の臨床の実践とその病態研究に従事してこられ,その研究は国内のみならず,国際的にも高く評価されている。その著者がまず躁うつ病の患者,家族に病気を正しく理解してもらおうと言うことで,「躁うつ病とつきあう」(日本評論社,1998)を出版された。

精神科医のための教科書

 これに対して,本書は治療者側の精神科医のための教科書という位置づけになると思われる。本書の構成や文面は大変わかりやすく書かれているが,その内容は最新のトピックスをたくさん取り入れてある。病因,とくに分子病理に関する記載は,現在世界中の躁うつ病研究者がしのぎを削って研究をしている内容が盛り込まれており,躁うつ病を専門に研究している者にとっても大変有益であり,躁うつ病のバイブル的存在となるであろう。
A5・頁250 定価(本体3,900円+税) 医学書院


“画像評価”から“読影”へ放射線技師の役割の実践を評価

注腸検査法マニュアル
西俣寛人,西俣嘉人 編集

《書 評》中村 實((社)日本放射線技師会長)

 診療放射線技師の職能団体である・8256・日本放射線技師会では,会員3万人の卒後・生涯教育のための研修施設である教育センターを,それまでの東京から鈴鹿市に移築開設して今年で10周年を迎えることになります。その間,4年制大学の設立から大学院の設置まで,技師の教育環境の抜本的整備を旨とする教育改革の推進に力を注ぎ,技師教育の4年制大学化の今日の大勢をみるに至ったことは周知のとおりであります。またそれと同時に,並行して教育センターを中心拠点とする生涯教育の充実に重きを置いてまいりました。
 そうした卒後教育の成果によって,平成5年の技師法一部改正により,新たにMRI,US,眼底カメラ取り扱いの業務拡大をみるに至り,臨床画像医学の検査領域を網羅する放射線技師の役割は,爾来ますます重要なものとなってきております。
 そして,今年(新年度)の教育センターにおける研修セミナースケジュールで特筆すべきことは,それまでの検査手技を中心とした研修内容から,「読影力パワーアップシリーズ」と銘打った,診断に役立つ画像情報を提供するための卒後教育が施行されることがあげられます。わずか数年前までは,技師が“読影”なる言葉を使うとすかさず一部の医師からクレームがつくようなありさまで,やむなく“画像評価”なる表現でお茶をにごしていたものでした。

技師の業務における読影の役割を明確に

 さて,前置きが長くなってしまいましたが,このたび発行された『注腸検査法マニュアル』において注目されるのは,この技師の業務における“読影”の役割が明確に規定され,その主旨が一貫していることにあります。著者の放射線技師を指導された故政信太郎医師が「読影まできちんとできるようにしておきなさい。読影できない技師に大事な検査は任せられません」と教示され,それを銘じた著者が続けて「重要なことは読影ができたら診断もできると考えてはいけないのです。放射線技師は,読影と診断は違う行為であることを銘記する必要があります。放射線技師は読影まで,医師はそれらに加えて診断まで,たえず医療現場でも話し合いを持ちながら勉強に取り組む姿勢が求められます」と述べているくだりが,本来の放射線技師のあるべき姿を示しております。
 つまり医療現場にあって,その専門性の持つ役割と責任の確認が,スペシャリストとしての医療スタッフ間におけるチーム医療のあり方であり,医師は医師,技師は技師なのであります。

安全かつ精度の高い検査が可能に

 本書の専門的な内容については,医療現場から離れて久しい私に言及する資格はありません。日本放射線技師会においても消化管検査指針委員会が設けられ,大部の検査マニュアルが刊行されている中,本書は十分にそれを補って余りあるものと聞き及んでおります。この検査法は長い充実した歴史を有しているようですが,それの大道を歩むものとして,専門の技師たちに高い評価を得ているもののようです。
 なお,技師にとっての読影の重要性は当然のこととしても,中に読影には優れても撮影は劣,という本末転倒の技師もいると聞き,そのような技師は本書のような優れた検査マニュアルを通じ自戒の糧としなければなりません。
 いずれにしても,安全かつ精度の高い受検者中心の検査が可能となる,技師の手になる技師のための教科書として,ご指導を賜った編集の諸先生への満腔の敬意を表しつつ,本書の刊行を心から慶賀するものであります。
B5・頁224 定価(本体4,700円+税) 医学書院


学生から専門医まで幅広く利用できる脳神経外科テキスト

標準脳神経外科学 第8版
山浦晶,田中隆一,児玉南海雄 編集

《書 評》河瀬 斌(慶大教授・脳神経外科学)

マニュアルとして臨床に役立つ

 医学の教科書というとご多分にもれず文章の羅列が多い。しかし,この本は教科書というよりも「脳神経外科マニュアル」と言ってもよいほど変った構成をとっている。その前座には「画像診断図譜」ともいえる「口絵」欄があり,字を読むことを不得手とする現代っ子の好みに合わせてある。また総論では,3色刷りの図と表の要点メモが随所に配置されているので,教科書を読んでまとめる必要がまったくなく,頁を繰っていくだけで内容を把握したり,探すことが容易である。また各論では,脳腫瘍全国集計調査報告の最近のデータや,重要項目が必ず表や図に示されているので,文章を読まなくとも一定の理解が得られる。さらに付録ともいうべき「重要事項のセルフ・チェックポイント」の188題の質問は,医師国家試験における常識を養うために誠に便利である。

臨床実習の手引き

 そして最終章の「臨床実習の手引き」は,脳神経外科レジデントが患者を受持つ際に必要な管理方法が箇条書きで網羅されている。これは教科書としては並外れた構成とも言えよう。冒頭にも述べたように,この本は本棚に飾っておくたぐいのものではなく,「マニュアル」として病棟や宿直室に常時置き,学生から専門医まで幅広く利用されるとその価値は倍増するであろう。
B5・頁504 定価(本体6,800円+税) 医学書院