医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


透析医療に携わるすべての人に

透析療法事典 中本雅彦,佐中孜,秋澤忠男 編集

《書 評》黒川 清(東海大医学部長)

 日本の人工透析療法は,いよいよ19万を超える患者さんを抱え,しかもその25%が10年以上にわたって透析療法を受けている。日本の透析医療は世界の最高水準であると言っても過言ではなく,大いに社会に寄与している。このことはこの医療に係わった先人を含めた多くの人たちの努力があるわけで,透析医療技術のみならず,その合併症あるいは医学的な問題についても日本の貢献はきわめて大きい。高齢者の増加と疾病構造の変化とともに,透析療法患者は毎年1-1.5万人の割合で増えていくことが予想され,医療費も年間約1兆円になるということで,大きな社会的問題になりつつある。しかも在宅医療を受けている人たちが腎不全になったときにどうなるか,という頭の痛い問題もある。透析医療の全体のあり方とこれからの社会制度,医療問題などもあわせて広い視野から考える必要がある。
 この『透析療法事典』は透析療法に長い間携わってこられたこの分野でのリーダーである中本雅彦,佐中孜,秋澤忠男の3人の先生方が編集され,多くの方の参加を得てできた,大変タイムリーでまた詳細にわたった「事典」である。これは透析療法だけでなく,その適応になる病態としての急性・慢性腎不全から始まり,血液浄化療法の問題,あるいは透析グラフトアクセスの問題,合併症の問題などについて広く記述している。

透析医療の総合的事典

 腹膜透析はもちろん大事な療法ではあるが,日本では19万の患者さんのうち腹膜透析を受けている人が5%にも満たない現状がある。これについてはいろいろな理由,医学的な問題がある。この事典にはこれらのことが多くの項目を設けて詳細に述べられている。日本のように血液透析が非常に優れている国では,腹膜機能の低下が長期の透析になかなか耐えにくいという問題に由来している部分がかなり多いわけで,この辺については将来的にこの分野の研究のブレイクスルーが待たれる。

患者さんにもわかりやすい記述

 そのほか特別の配慮が必要な患者や透析患者に処方する薬の使用法,食事療法などについても患者さんにもわかりやすく書いてあり,透析医療に係わる腎センターやクリニックにぜひ1冊はおいていただきたい本である。透析関係の本は日本では多いが,1つひとつの項目についてのさらに詳細な問題点については参考文献があげられているので,これらを参照されるのもよろしいし,また多くの成書もあるのでさらに検討することが日常の診療でも必要であることは言うまでもない。
 このように総合的な「事典」が出版されたことは大変歓迎すべきことであり,編集された3人の先生方,またそれぞれに貢献してくださった皆様,および企画した医学書院にお礼を申し上げたい。
A5・頁660 定価(本体4,800円+税) 医学書院


脳神経手術のすべてをわかりやすく解説

解剖を中心とした脳神経手術手技〔全6巻〕
第1巻 血管性病変 第2巻 脳腫瘍 第3巻 脊髄・脊椎

「解剖を中心とした脳神経手術手技」編纂委員会 編集

《書 評》野口 信(東京逓信病院・脳神経外科医長)

 本書は月刊誌「脳神経外科」に創刊時(1973年)から連載され,今も続いている手術手技シリーズの論文を疾患別にまとめたものである。今回刊行されたものは,第1巻「血管性病変」,第2巻「脳腫瘍」,第3巻「脊髄・脊椎」であり,今後6巻まで刊行が予定されている。各論文には,発表の年次が記され,その後に「追補」として著者自身のコメントが記されている。
 手術手技をいろいろな著者が書き,その企画が四半世紀も続いていること自体,おそらく稀有のことと思われる。これは脳神経外科の手術が広い範囲に及んでおり,この間,手術の技術的進歩が続いてきたことを意味しているのだろう。
 最近25年といえば,脳神経外科にとっては大変な成長,発展の時代であった。CT,MRIの出現,手術器械の改良,手術解剖学の知識の深まりがあり,脳外科手術は理論的にも技術的にも進歩してきた。25年の幅を持つ本書は,その軌跡を示していると言えるだろう。

「時代が変わっても普遍」

 私が脳神経外科に入局した当時(1976年)はすでにマイクロサージェリーの時代になっていたが,手術書はPoppenの“An Atlas of Neurosurgical Technique”とKempeの“Operative Neurosurgery”くらいしかなく,そこに描かれたマクロの図とマイクロで見る術野とを対比するのに苦労したことを憶えている。そのような時代に現れたのが,「脳神経外科」の手術手技シリーズであった。今から考えても実に時宜を得たものであったことがわかる。
 体位の取り方から,皮切,開頭に始まり,頭蓋内操作,そして閉頭に至るまでしっかり記載されており,手術室でそのまま役に立つものであった。その実用性は今も変わりない。
 追補の中で古い論文の著者の多くが,内容について謙遜されていらっしゃるが,実際には,今もそのまま有用なものばかりである。菊池先生が書いておられるとおり,手術操作そのものは「時代が変わっても普遍」であるからだ。
 ただ,画像診断の進歩は術後の評価をより客観的に,厳しくしたことは事実である。その結果,より精度の高い手術による,よりよい結果が求められ,それに応じて手術が洗練されてきたと言えるだろう。

CT世代以降の若い脳外科医にお勧め

 この書では佐野先生,半田先生,今は亡き鈴木二郎先生,杉田先生など,わが国の脳外科の巨人たちが現役バリバリの頃の肉声に接することができる。このことだけでも一読の価値はあると言えるだろう。CT世代以降の若い脳外科医に特にお勧めしたい書である。
 また,多くの手術書はハードカバーの大著であるが,本書はちょうどよい厚さのペーバーバックであり,手軽にとって読めるのも長所の1つである。
第1巻:B5・頁344 定価(本体8,500円+税)
第2巻:B5・頁328 定価(本体8,500円+税)
第3巻:B5・頁240 定価(本体6,500円+税)
医学書院


スポーツ外傷と障害のMRIの実際を第一人者が解説

スポーツ外傷・障害のMRI 大畠襄,福田国彦 編集

《書 評》片山 仁(順大学長)

 スポーツ医学は米国に比べて,わが国はかなり遅れている。多くのスポーツ選手が米国に渡り,手術を受ける例が多いことでもわかる。これは手術だけでなく,術後リハビリテーションやトレーナーの問題もあろうが,スポーツ外傷の優れた画像診断が基礎になっているのであろう。スポーツ外傷といえば,ややもするとトップアスリートの問題と考えられがちであるが,昨今のようにスポーツが一般化し,特に高齢者のスポーツ熱が盛んになってきた現在,年齢を問わずトップアスリートからアマチュアに至るまで,いつでもスポーツ外傷を受ける機会があると思う。慈恵医大は昔からスポーツ医学を1つの専門診療科として育ててきたが,今回,生みの親,育ての親である大畠襄先生と,骨軟部画像診断のトップ福田国彦先生の編集による本書が出版されたことは,きわめてよいタイミングである。

豊富な症例と臨床所見を加味した解説

 ご存じのように,骨軟部の画像診断はMRI出現で大きく変わった。単純写真や骨シンチグラフィ,あるいは超音波検査の価値が下がったわけではないが,MRIの価値が大きくクローズアップされたというべきであろう。本書はまずMRIの原理,撮像の仕方をわかりやすく解説してある。贅肉を省いたこのMRIの解説は,読者にアピールすることであろう。今やMRI抜きでは骨関節・軟部組織は語れないのであるから,この程度の内容は辛抱して理解してもらわなければならない。さらに特筆すべきは,症例の豊富さである。挿図付きの解説はMR解剖を理解し,病的所見を理解するのに誠に好都合である。それに加えて臨床所見を加味した解説は,きわめて臨場感が高い。スポーツ診療の権威と,骨関節画像診断の権威との相乗効果は,きわめて大きい。よい本が出たものだとエールを送りたい。

四肢の骨関節画像診断を手がける人にも最適

 スポーツ外傷は21世紀における医療の目玉のひとつとなることは間違いない。本書はスポーツ外傷の症例を中心に解説してあるが,スポーツ外傷に直接関連がなくとも,四肢の骨関節の画像診断を手がける人にとって,きわめて役に立つ好書である。世の中を先取りした本書の内容に敬意を表したい。
B5・頁248 定価(本体8,800円+税) MEDSi


肝疾患医療に関する膨大な知識をコンパクトな1冊に

これからの肝疾患診療マニュアル
柴田実,関山和彦 編集

《書 評》西岡幹夫(香川医大教授・内科学)

 肝疾患には急性から慢性また肝癌といったいろいろな病態が認められ,経過は長く,その病因もウイルス,薬剤,アルコール,自己免疫,代謝異常,遺伝性など多彩である。また,わが国の肝疾患の中で最も多い肝炎についていえば,肝炎ウイルスによる肝臓という一臓器の炎症性疾患ではあるが,皮疹,腎炎,関節炎,血管炎,クリオグロブリンなど肝外病変を合併することが多く,本症は全身性疾患としてとらえることが大切といえよう。したがって,いずれの臨床医も肝疾患の診療を避けて通れない。
 肝疾患を正しく診断し,そして病因にあった治療を行なうためには従来からの臨床医学の知識のみならずウイルス学,免疫学,分子生物学,遺伝学などの新しい知見が要求される。また,最近の画像検査およびinterventional radiology(IVR)の知識がなければ,肝疾患の診療に携わる医師とは言えない。しかし,医学情報の洪水の中から有益なものを選択することは大変なことである。
 今般,医学書院から出版された,柴田実,関山和彦,両先生の編集による『これからの肝疾患診療マニュアル』は,日進月歩する肝疾患の医療に関する膨大な知識をコンパクトにまとめるという至難のわざに挑戦し,それを見事に成しとげた本である。そればかりか,本書には今までの医療から脱皮し,広い視野の医療を求めようとする熱意がひしひしと伝わってくる。同慶にたえない。また重要な文献を各項目ごとに掲げたことも,本書の価値をさらに高めている。

日常診療ですぐ役立つ生の情報を網羅

 本書の特徴は,臨床の現場において日夜診療に従事し,中心的役割を果たしている優れた医師によって執筆されたということである。その多くは自分自身の経験をもとに,汗と涙して書きつづったサブノートのように思えてならない。したがって,日常診療にすぐ役立つ生の情報が系統的に網羅されており,「短時間で必要な情報が入手できる」ことは間違いない。
 まず診療に大変重要な「問診と身体所見」から始まり,各種血液検査,肝機能検査,ウイルス,血清学的検査が解説され,ついで「画像検査およびIVR」にうつる。ここではわかりやすい画像写真を提示しながらその検査の目的,手技,読影のポイント,さらに患者のQOLを十分に考えた治療としてのIVRなどについて多くの紙面がさかれ,この領域における肝臓病診療の著しい進歩が初心者にもわかるように解説されている。
 肝疾患の各論では急性肝炎,劇症肝炎から始まり,各種慢性肝疾患,肝癌,肝膿瘍,急性閉塞性化膿性胆管炎,さらには肝移植まで15項目についてその診断,治療,合併症,予後などが図表やフローチャートを多用しながらコンパクトに述べられている。また診断や治療にあたっては,どういうときに何を疑い,どう対策をたてるか,検査所見や科学的データの根拠に基づいた考え方が示され,まさにEvidence-Based Medicine(EBM)にふさわしい記述が随所にみられる。

今後進むべき正しい方向性を示す

 最後の章は「新しい臨床医学のテクノロジー」について述べてある。EBMを尊重し,医学統計学やインターネットを活用し,科学的根拠に基づいた,また世界に通じる医療を積極的に押し進めたいという,編者や執筆者の意向が十分に示されている。今後の進むべき正しい方向性を提示したこの本は,まさしく「これからの肝疾患治療のマニュアル」と言えよう。本章の第2項「肝疾患診療における日本の常識・世界の常識」は,わが国の医療は最先端技術に浴してはいるものの,それが決してすべてではないことを説き,一読に値しよう。
 日常の臨床に携わり,肝疾患の診断と治療に悩んでおられる臨床家のみならず,研修医,さらには肝臓病の専門医にとっても有益なマニュアルであり,本書を広く推薦したい。
B6変・頁344 定価(本体4,500円+税) 医学書院


学生から現場まで臨床検査に関わる者すべてに役立つ

病理組織染色ハンドブック 高橋清之,他 著

《書 評》小林忠男(済生会滋賀県病院・検査部技師長)

 医学技術は,常に単なる経験の積み重ねだけでなく科学として発展し,それらが正確な病気の理解につながらなければならない。しかし,最も重要なことは病気の診断をいかに簡単にかつ的確に,また効率よく行なうかであろう。このことは病理標本の向こう側にいる病める人に,本当に役に立つ情報とは何かを常に問わなければならない。
 高橋清之博士がこのハンドブックの序文で述べられているごとく,病理検査医学においてここ数十年で最も革新的なできごとと言えば,「替え刃式ミクロトーム刀の開発」と「免疫組織・細胞化学の発展と普及」であろうとされている。一方,ホルマリン固定-パラフィン包埋-ヘマトキシリン・エオジン染色を骨組みとした病理組織検査は,今日も変わることなく行なわれているのもまた現実である。病理組織検査とは,優れた先人たちの膨大な知見と経験に基づいた長い歴史そのものなのかもしれない。

各染色法を1頁ですべて説明

 この『病理組織染色ハンドブック』の構成は総論と各論よりなり,いずれもきわめて要点よくまとめられていて,本の題名通りハンディな1冊となっている。インサイツ法や免疫を含む染色の理論や,迅速凍結切片作製法の説明はコンパクトでわかりやすく,注意ポイントが示されよく整理されている。また,免疫組織染色の抗原賦活化の方法についても,各種処理を具体的時間とともに記載するなど,熟練技師を含む著者ら自らの数多くの経験に基づいた結果であることが容易にうかがい知ることができる。なお,各論においてはヘマトキシリン・エオジン染色から始まり,62におよぶ各染色法がカラー写真や図・表とともに示されすっきりと見やすい。それは各染色法を1頁ですべてを説明し,染色原理・染色法・染色液の調整・染色のコツまでが含まれている頁の体裁になっている点であろう。
 私に限らず多くの日常のルーチン業務の中で病理担当者が経験済みであると思われるが,病理の特殊染色の必要性は突然に起こってくることがほとんどで,慌てて本を開き染色液の作成にとりかかることも少なくない。小生も10年以上前に,11歳のウイルソン病の確定診断を,肝臓の小さなバイオプシー材料を用いて銅の証明を急がされたことを記憶している。確かにrhodanine染色液を作成し染色はしたものの,カウンター染色が何がいいのかわからず少し迷ったことを記憶している。当然その時私が手にしていたテキストブックには,カラー写真どころか白黒の掲載すらなかった。しかし,本ハンドブックは総カラーで,必ず平均して1染色に対して2-3枚のカラー写真が挿入されている。このことはこの種の本では際立っていると私は思う。これはまた,経験少ない染色者を大いに安心させてくれるものでもある。

病理検査に身を置く技師に優れたハンドブック

 本書は,臨床検査医学を学んでいる学生,すでに臨床検査の現場,特に病理検査に身を置く技師にとって優れたハンドブックであるが,細胞診検査室や実験動物などの病理研究室にも広く利用されるようお薦めしたい本である。
B5・頁96 定価(本体3,000円+税) 医学書院


日本初の本格的な新生児・乳児の画像診断の成書

新生児・乳児の臨床画像診断 仁志田博司,河野 敦 編集

《書 評》林 邦昭(長崎大教授・放射線科学)

臨床的な観点から丁寧に解説

 小児の放射線診断に関してはJohn Caffeyの成書がある。小児放射線診断学のバイブルと崇められ版を重ねている。しかしあまりに分厚く,読まなければならない本があふれる感のある今日,この本をじっくり読む余裕のある人は多くないようである。小児放射線診断は一般臨床医や放射線科医が敬遠しがちな領域である。小児科医にとっても決してやさしいものではないと思う。小児の中でも新生児・乳児の画像診断は特に難しく,できれば避けて通りたいと思っている人が多いのではなかろうか。私もその1人で,新生児の胸部単純写真の読影に当たって無力感を感じることが少なくない。そんな中で,新生児・乳児の画像診断についてのよい教科書が出された。

正常像とバリエーション

 本書は,新生児・乳児にみられる疾患を幅広く取り上げ,臨床的な観点からその画像診断について丁寧に解説されている。これだけ知っていれば日常診療に十分対処できると思われる。「総論」と「各論」に分けた全体の構成もよく,提示された症例も豊富で適切なものであり写真も見やすい。各論で,正常像とバリエーションについての記載があるのも大変参考になる。新生児や乳児については正常と異常との鑑別がまず重要で,それが容易ではないからである。どの章もそれぞれに特徴があって参考になる。巻末に近い第9章で取り上げられている骨系統疾患は,ややもするとむずかしい解説になりがちだが,本書の記述は適度の詳しさで読みやすい。
 二,三気づいたことを指摘しておきたい。まず第5章で,「肺野の陰影化」という表現が気になった。また,第6章の図6-11(正常成人心構造の位置関係)を見て,おやっと思った。新生児・乳児では心陰影の辺縁に番号をつけることは困難で無益なことが多いからである。成人の心辺縁についても日本式の第何弓という表現はやめたほうがよいと思っている。最後に,第9章で外傷に関する記述が短すぎるようである。
 ただし,これらは本書の価値を低めるものでは決してない。本書はよく読まれて遠からず改訂されると思う。その時にはこのようなところにも配慮していただきたい。もう少し安くなれば最高である。
 わが国の小児放射線診断学は残念ながら,まだ幼児期にあると言わざるを得ない。この本がそのレベルアップに大きな役割を果たすであろうと確信している。この分野におけるわが国初の本格的な成書として推薦したい。
B5・頁370 定価(本体18,000円+税) 医学書院