医学界新聞

 

東大・ハーバード医大医学交流プログラム開催


 さる10月7-8日,第4回東大・ハーバード医大医学交流プログラム「医学教育シンポジウム」が東大構内で開催された。これまで両大学では,医学生レベルでの交流は行なわれてきたが,医学部教官を対象とした企画は初めて。ハーバード医大からトーマス・イヌイ氏(写真),トニ・ピーターズ氏,スティーブン・サイモン氏(3氏とも同大Dept. of Ambulatory Care and Prevention)を迎え,医学教育に感心を寄せる医学部教官らと議論を深めた。

医学教育の現状と未来

 初日には「医学教育の現状と未来」をテーマにプログラムが組まれ,卒前教育に的を絞って行なわれた。冒頭に桐野高明氏(東大医学部長)は「今,日本の医学教育は昏迷している。医学教育のパイオニアであるハーバード医大と今後の方向性を議論したい」と,口火を切った。セッション「ハーバード医大と東大の医学教育の現状と最近の変化」(司会=東大 山本一彦氏)の中でピーターズ氏は,医学教育を教育心理学的に分析し,「学生は講義形式では10%の知識しか保持できない」と指摘。さらに物事をある文脈(context)の中で学ぶことの重要性を強調した。一方,加我君孝氏(東大)は,医学生による教育評価や卒後の進路選択の動向を報告した。
 またワークショップでは,ハーバード医大における医学教育の根幹と新しい流れとして,(1)基本的臨床スキルの教育,(2)症例立脚型学習,(3)EBM教育の3点に注目。さらに会場から研修医を1人選び,ある症例と心音で鑑別診断をあげるという,疑似OSCEも行なわれた。
 パネルディスカッション「将来の医学教育のあり方」(司会=東大 金澤一郎氏)では東大から3氏が登壇。永井良三氏は「今後の医学教育は何に高い優先順位をつけるかが重要」と述べ,また橋都浩平氏は,「医学教育の目的(mission)を各々の大学で明確にする必要がある」と指摘。最後に岡山博人氏は,医学の基本にたちかえった,独創的な研究の重要性を強調した。

EBMに向けた臨床研究の教育

 2日目には,公開プログラム「EBM/EBHC(Evidence-based health care)に向けた臨床研究の教育」が行なわれた。「北米の臨床研究教育」(司会=慶大 池上直己氏)のセッションでは,ハーバード医大の試みをイヌイ氏,サイモン氏が紹介。続いて日本の試みとして福原俊一氏(東大)は,東大大学院における「臨床疫学研究入門」講座を,またジョゼフ・グリーン氏(東大)は東大医学部国際交流室と豪・ニューキャッスル大との共同主催による「臨床疫学ワークショップ」を紹介。参加者における受講後の実践・活用の状況を報告した。
 続いてハーバード医大の臨床研究教育プログラム「Clinical effectiveness program」に参加した上塚芳郎氏(東女医大)は,本コースでは同大大学院の「Master of public health」や「Master of science」の学位取得が可能になるなど,そのユニークな特色を紹介した。
 パネルディスカッション「臨床研究;将来の大学院,卒後教育のあり方」(司会=東大 小林廉毅氏)が行なわれた。この中で大橋靖雄氏(東大)は,「日本の臨床研究は,治験をとりまく変化を境に変わりつつある。リサーチナースの誕生など,その整備が進む中,生物統計学者や臨床研究に精通する医師養成が急務」とした。続いて,循環器医で薬剤疫学に所属する山崎力氏(東大)は,日本の臨床研究の問題点に独自のエビデンスを持たなかったことをあげ,「今後はEBMを進めて,個別化を尊重する医療をめざすべき」とした。最後に木内貴弘氏(東大)は,「日本の臨床研究は今まで家内工業だった」としながら,その推進には「実験研究者の理解と専門家の養成が必要」と指摘。また氏は,「大学のエージェンシー化が検討される中,臨床研究が可能なことは,大学にとってもメリットがある」と結んだ。