医学界新聞

 

DDW(Digestive Disease Week)-Japan1999

第7回日本消化器関連学会週間開催


 DDW-Jpan1999(第7回日本消化器関連学会週間1999年)が,中澤三郎合同会議議長(藤田保健衛生大)のもとで,さる10月28-31日,広島市の広島国際会議場他において開催された。周知のように,米国に範をとったDDWは,「スリムでアカデミック」を基本理念に掲げて1993年にわが国初の試みとして開催。第7回を迎えるに当たり秋の開催として再出発した今回は,第30回膵臓学会(京都府立大・加嶋敬氏),第41回消化器病学会(広島大・梶山梧朗氏),第3回肝臓学会(香川医大・西岡幹夫氏),第37回消化器集団検診学会(茨城県総合健診協会・福富久之氏),第35回胆道学会(藤田保健衛生大・船曵孝彦氏),第58回消化器内視鏡学会(福岡大筑紫病院・八尾恒良氏)の6学会の全面参加,大腸肛門病学会(社会保険中央病院・岩垂純一氏),消化器外科学会(熊本大・小川道雄氏),消化吸収学会(滋賀医大・馬場忠雄氏)の3学会の部分参加と過去最多の参加学会を得た(カッコ内はいずれも会長)。


 名実ともにわが国屈指の学会として定着したDDWは,今回11492名におよぶ多数の参加者が集い,梶山梧朗運営委員長のもとで,参加学会の会長講演,特別講演4題,招待講演8題,特別企画3題,教育講演10題の他,国際シンポジウム2題,数多くのシンポジウム・パネルディスカッション・ワークショップが企画された(参照)。
 さらに,今回は初の試みとして,2元遠隔討論を可能にしたコンピュータセッション「デジタル・ポスター・セッション」を設置。各学会場を縦断した活発な討論が展開され,参加者の話題を呼んだ(写真参照)。


GERDをめぐる諸問題

 GERD(gastroesophageal reflux disease:胃食道逆流症)は増加の傾向が見られ,さらに最近ではBarrett癌の増加も指摘されるなど,本症への関心がますます高まっている。今回のDDWにおいても,本郷道夫氏(東北大)による教育講演「上部消化管機能異常」の他,消化器内視鏡学会・消化器病学会合同シンポジウム「GERDをめぐる諸問題」(司会=東京女子医大・村田洋子氏,山口大・吉田智治氏)でこの症例が取り上げられた。

高齢化とGERD

 植竹智義氏(長野県佐久町立千曲病院)は,過去10年間で平均年齢が41.24歳から44.43歳に上昇した高齢化の著しい過疎地域におけるGERDの発症の経年的変化を調査し,加齢による影響を検討。
 同院ドックおよび外来で上部消化管内視鏡検査を施行した症例を対象として植竹氏は,「(1)検査診断時の症例数は,1992年以前(0.34%)に比して,1993年以降(2.28%)では明らかな増加が認められる。(2)retrospective診断では,1989年(3.46%)に比して,1997年は4.37%と増加。(3)有病率は男性では40歳代から70歳代までほぼ同様の率を示すが,女性は30歳代から70歳代へと直線的に増加する。(4)重症度(ロサンゼルス分類)は加齢に相関する」と報告。「(1)GERDは10年間で明確に増加していたが,この傾向は高齢化と相関しており,特に女性では骨密度の低下や日常姿勢の変化に関連しているものと考えられる。(2)GERDの症例数の増加の背景には,その他に内視鏡の進歩,有効薬剤発売や疾患の認識などの影響もある。(3)高齢化が急激に進む過疎地域では,GERDの認識が特に大切である」と結んだ。

Helicobacter pyloriの関与

 小山茂樹氏(滋賀医大)は,GERD症例における胃粘膜萎縮・食道ヘルニア状態およびHelicobacter pyloriH.p)の関与(H.p除菌後の発生頻度と除菌前後の胃酸分泌の変化)を検討。「GERDの約半数はH.p陽性だが,背景胃粘膜萎縮はH.pの有無に相関がなく,胃酸分泌が保持されている。また,H.p除菌後の逆流性食道炎(RE)の発生頻度・程度,酸分泌の変化から,REの発生には胃酸分泌が関与するが,重症例に移行する時間的要因を加える必要がある」と報告した。
 続いてREとH.p感染に関して,小池智幸氏(東北大)は,H.p感染の中でも特にCagA陽性H.p感染がREに及ぼす影響を酸分泌能の点から明らかにするために,REのH.p感染率,H.p陽性例のCagA陽性率および酸分泌能をコントロール群と比較検討。「REではH.p感染が低率かつ酸分泌能が高値で,H.p感染があってもCagA陽性率が比較的低値で酸分泌能が保たれていた。このことから,CagA陽性H.p感染が酸分泌能の低下を介して,RE発症に抑制的な役割を果していることが示される。わが国のRE感染率が低い要因の1つとして,H.p感染率が高いことに加えて,CagA陽性率が高いことが考えられる」と指摘した。

GERDとBarrett食道

 REとその重大な合併症であるBarrett食道(BE)に関して杉浦敏昭氏(日医大)は,REの発生頻度と両者の食道運動機能を検討。
 杉浦氏によれば,REの発症頻度は15.5%で,背景胃粘膜はCタイプであることが多いが,RE(-)の若年齢の胃粘膜背景はさらにこのタイプであることが多く,RE症例は必ずしも酸分泌能が亢進しているとは言えず,「食道排出能の遅延がREの重症化に深く関与していると考えられた。また食道運動機能から見ると,BEはREの終末像であると思われる」と指摘した。
 一方,河野辰幸氏(東医歯大)はGERDとshort-segment Barrett食道(SSB)との関連を考察。円柱上皮食道の存否と程度,REの有無,腸上皮化生の頻度などを検討し,「(1)多くの円柱上皮食道例を認めたが,GERDとの直接的な関連性は見られなかった。(2)円柱上皮食道内には高頻度に腸上皮化生を認めたが,食道胃接合部下でもしばしば見られる。(3)したがって,腸上皮化生の存在のみではSSBの診断的根拠にはならず,また円柱上皮食道が食道腺癌発生母地としてのSSBと同義であるとは言えない。(4)典型的Barrett食道と同義に,SSBの臨床診断においてGERDとの関連を重視すべきである」とまとめた。

治療:PPI first strategyと腹腔鏡下噴門形成術

 治療に関しては2席が発表された。まず羽生泰樹氏(大阪府済生会野江病院)は,GERDの初期治療として最も強力な酸分泌抑制剤であるPPIを最初から用いる「PPI first strategy」と,より作用の弱いH2RAなどを第一選択とし,効果の得られない時にPPIを用いる「“step up”strategy」を費用効果の面から比較検討。それぞれ患者1人当たり累積治癒日数は292日と277日,1治癒日当たりの直接費用は350円と370円,服薬日数は128日と134日,内視鏡施行回数は2.5回と3.0回,という結果から,「PPI first strategyは“step up”strategyより費用効果に優れ,QOLに関する指標についても同様であった。このことから,REの初期治療においては前者が合理的と考えられる」と報告した。
 一方,GERDに対する外科的治療に関しては,近年,minimally invasive surgeryとして行なわれるようになった腹腔鏡下噴門形成術について柏木秀幸氏(慈恵医大)が,「GERDに対する腹腔鏡下噴門形成術は治療効果も高く,後遺症も少ないが,初期症例の手術時間の延長や再手術例など手技に関連した術後障害があり,手技の習熟が重要な課題である」と報告した。