医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護とは何かを考えさせる納得の1冊

看護学イントロダクション
ジャニス B. リンドバーグ,他 著/内海滉 監訳

《書 評》網野寛子(都立公衆衛生看護専門学校副校長)

 毎年4月になると,また“看護学概論”の授業を担当する季節が巡ってきたかと少々憂うつな気分になる。2年課程のわが校の学生は准看時代の印象から「概論なんて臨床で直接役立つわけではないし,つまらないもの……」と最初から決めてかかっている者が多いのには驚く。看護の概念は,職業生活に少なからず影響するので,進学コースを選択してよかったと思えるような授業にしなければと思う。書物から知識を得ようと努めたが,いまひとつ納得できる本に巡り合わず,思想が一貫したものがないかと探し続けていた。しかし,本書『看護学イントロダクション』を一読して,長年の胸のつかえが消えていくのを感じた。
 本書は米国・ミシガン大学看護学部の3人の助教授とその仲間たちによって執筆された看護学の入門書である。素直な翻訳で,訳者らは現在の日本の医療や看護教育に精通されている面々らしく,読者にイメージしやすい平易な表現を心がけてくれている。また,どこから読み始めても理解しやすいから嬉しい。

著者たちの熱い気持ちが溢れる

 内容の構成は3部から成り立っている。
 第1部は序論「看護実践と専門職としての看護」である。後に続く各論の導入部分で,看護婦の視点と看護界のリーダーたちの著作の両面から看護の全体像を示し,科学としての看護に必須な概念と医療供給システムの中で実践に関係のある概念について概説している。
 第2部は各論のパート1で,看護のパラダイムである人間,環境,健康,看護が5章に分かれ,看護が“歴史”と“今日の看護”とに別々の章になっている。歴史をみると事実の列挙ではなく,看護の発達を哲学的視点で禁欲主義,ロマン主義,実用主義,実存主義と区分し,「18世紀末頃から始まったロマン主義時代に看護婦は医学の忠実な補佐的存在になった」とその理由もあわせて言及している。ナイチンゲールがアメリカの看護に及ぼした影響,医学と看護の発達の比較,アートの意味とその看護,近代看護すなわち専門職の定義,基準,仕事とキャリアの違い,過去からの教訓など,学生が歴史から本質を把握し,未来の看護婦のあり様を見通すことができる内容と組み立てになっている。著者たちの後輩に託す熱い気持ちが随所に溢れている。
 第3部は各論のパート2で,看護を実践する上で必要な思考過程,コミュニケーション,指導方法,看護倫理と法的側面について章立てになっている。いずれも他分野の理論や要素も織り込みながら分析し,現状,原因,長所と欠点,事例,心得ておくべき事柄,課題等々に説得力がある。
 私はこの本から,米国が世界の看護界のリーダーである由縁を知ることができた。教育の厚みがまったく違うのである。看護に必要な人材の資質が明確で,そのうえ育てる戦略がある。その具体策として本書のような良質なテキストも存在している。看護教員,看護婦の仕事にいまだ悩んでいる仲間たちにぜひ読んでほしいと思っている。
B5・頁284 定価(本体3,500円+税) 医学書院


ラディカルな問いに満ちた衝撃の書

縛らない看護 吉岡充,田中とも江 編著

《書 評》広井良典(千葉大助教授・総合政策学科)

 「縛らない看護」……何というインパクトのあるタイトルだろうか。しかしこれは単なるタイトルの問題ではない。この本に書かれていることは,文字どおり「縛らない看護」を着実に実現させていった,その過程の記録であり,またそこから一気に開かれる新しいケアの地平である。

「抑制」について多面的に論じる

 舞台の中心は東京・八王子にある上川病院。読者の多くはすでにご存じのことと思うが,「抑制」のない看護つまり縛らない看護に先駆的に取り組み,それをまず自らの病院において実現させ,さらには「抑制廃止福岡宣言」(98年10月)や厚生省による身体的拘束の禁止令を導くまでのパイオニア的な役割を果たしてきた病院である。
 内容的に見ると,本書の「思想」の核ともいうべきものは,「縛られているのはだれか」と象徴的に題された序章に,ほぼ集約されていると思われる。この表題(とこの章の内容)は読者をたじろがせるほどの衝撃力を持っている。同時にこの本の魅力は,それを単なる理念に終わらせることなく,続く章において「縛らない看護」を現実に実践していくための具体的な方法論をわかりやすく提示していること,またそれが老人医療に180度の発想の転換ともいえる変革をもたらすほどの広がりを持つものであることを,多面的な角度から論じていることである。

なぜこのような医療が行なわれてきたのか

 この本を読んで,読者が持つ読後感はさしあたって次の2つであろうと思われる。1つは,ともかくもこうした先駆的な取り組みや努力により「抑制」廃止に向けた大きな一歩が踏み出され,かつそれが現在急速に進行中であることについての喜びや期待,希望等々である。しかし同時に他方で,なぜ今の今までこうした姿の医療が,大手を振って,とまではいかないにしてもある種の権威を伴って行なわれ続けてきたのか,という基本的な疑問が浮かんでくる。
 筆者自身の関心にやや引きつけた読み方になってしまうが,そのように考えていくと,この本が提起しているのは,「ケア(ないし看護)とは何か」という問いであるだけでなく,そもそも医療技術とは何か,医学が「科学」であるとはどういう意味においてなのか,治療とは何をもってそう言えるのかといった,医学や(近代)科学の意味についての根源的な問いであるように思えてくる。
 ここで医療技術史や科学史的な議論に深入りする余裕はないが,医学,というより科学全体が現代という時代において大きな転換点に立っていることは言うまでもない。なぜなら,科学の体系(や学問の分類)は,基本的に19世紀という産業化の時代にほぼ現在のような形に作られたものであり,逆に言えば,現行の科学や学問分類の姿は,現代という時代のニーズ(医療の場合でいえば疾病構造)に対して構造的に対応し切れていない部分が大きいからである。ということは,本書は老人医療における「抑制」をテーマとするものであるけれども,この「抑制」に類することは,実は探していけば現在の医療において他にも多々あるのではないか,ということである(例えば,がんの治療においてそうしたことはないだろうか)。本書を踏まえてさらに考えていくべきは,こうした方向のことなのではなかろうか。

新しい「ケアの科学」を

 ニードの変化に対応できていない科学・医学を,もう一度本来の姿に戻す途はどこにあるのだろうか。おそらくそれは2つだろうと思われる。1つは徹底して「生活者の視点」に立ち返り,抑制ってどう考えてもやっぱり変だ,と思える“ふつうの感覚”にしっかりと立脚し,そこから医療の全体を再点検していくことである(編者の1人である田中とも江氏の強みはここにある)。もう1つの可能性は,「学」としての看護学が,それ自体近代科学の枠組みを乗り越えるポテンシャルを持つ分野であることを自覚して,新しい「ケアの科学」を生み出していくことである。いずれにしても,本書から見えてくるのは,看護,ケア,そして科学というもののそうしたラディカルな=根底的な可能性なのではなかろうか。
A5・頁276 定価(本体2,000円+税) 医学書院


複雑な医療のしくみをわかりやすく解説

病院早わかり読本 飯田修平 編集

《書 評》山崎 絆(済生会中央病院副院長・看護部長)

 医療は,医療制度・医療保険制度・診療報酬制度など,実にさまざまな法制度の上に成り立っているため,その仕組みは複雑でわかりにくい。私たち長年医療の現場で働き続けてきた者でさえも,その全容を正確に理解することはなかなか困難だ。ましてや,医療の現場に入ったばかりの人たち,あるいは医療職をめざして勉強中の学生が,医療の仕組みを理解するのは大変なことだろう。
 しかし,病院は,患者さんを中心に多くの職種の専門技術を集約(いわゆるチーム医療)することによって成り立っている職場である。それぞれ専門的であるがゆえに,ややもすれば芽生えがちな他部門への無関心や対立意識を排除し,チーム一丸となって治療の目的を完成させなければならない。そのためには,医療という1つの大きな流れの中で,それぞれがどのような関わり方をしているのかをしっかりと把握しておく必要がある。お互いの専門性や職務を理解し,尊重しながら協調・連携することで,チーム医療がより効果的・効率的に促進されるからだ。

医療のガイドブック

 本書は,そのような目的を持って医療関係者を対象に作られた,いわば医療のガイドブックであるが,同時に読者対象を医療の受け手である一般の方にまで広げていることに大きな特長がある。ともすれば利害関係が相対立しかねない2者へのアプローチは,少なからず困難があったと思うが,執筆陣に弁護士を加えて患者サイドの視点からも内容を検討しているほか,イラストを多用したり,医療の流れやシステムを図式化して,医療の素人である一般の方が視覚的にも全体像をつかめるように工夫することで難題を乗り切っている。
 むしろ,医療現場の内部や経済的な仕組みをオープンにすることによって透明性を高め,医療や病院の営みに関して一般の方の正確な理解を得,21世紀の医療をともに創造しようという積極的な姿勢がうかがえる。例えば,編者を務められた飯田修平氏は“はじめに”の中で次のように述べている。
 「(患者が医療の)選択権や決定権を主張し,権利を執行するためには,病院や医療に関して正確な理解をしていただきたいと考えます。病院や医療を考える基盤を共有し,よりよい医療をともに創造し,実践していきたいと考えるからです。病院は特別であるとお考えの方が大部分だと思いますが,医療は社会経済活動の一部であり,病院が組織として機能している以上,一般企業と同じ部分が多いのです」と。この種の本の大半が,アプローチの対象を明確に分けて制作されている中で,勇気のある新しい試みとして私たち医療従事者はしっかりと受け止めたい。
 新人の時に,このような書に出会っていれば,精神的にもっとスムーズに仕事に入っていけたのではないかと思う。その意味で,本書は新人時代に病院を理解するバイブルともなるであろう。また,昨今のトピックスである医薬分業,療養型病床群,介護保険,ケアマネジャー,包括化,DRG/PPSなどについて索引から調べることも可能で,1冊の辞書としても有用だ。
 さらに,本書を一読し,長期にわたって病院の仕事に従事してきた私にも,新たな課題とともに目標が見えてくる。すでに経験を積んだ医療従事者の方々には,今後医療人として自己をどのように実現していくかを考えるための手引き書となると信じる。
 最後に,本書はこれまでよりよい病院づくりに努力されてきた著者1人ひとりの英知の集大成であることも,付け加えておきたい。
B5・頁132 定価(本体1,800円+税) 医学書院