医学界新聞

 

 シドニー発 最新看護便
 オーストラリア高齢者ケア対策[最終回]

 高齢者と糖尿病

 瀬間あずさ(Nichigo Health Resources)


 オーストラリアにおける糖尿病の罹患率は,他の先進国と同じように上昇の一途をたどっている。そのため最近では,優先される医療の分野として,より多くの予算がつぎ込まれている。
 そこで今回は,オーストラリアの糖尿病ケアの現状と高齢者における糖尿病について述べてみたい。

糖尿病患者の組織団体

 オーストラリア全体の糖尿病ケアレベルは決して低くない。その理由の1つとして「Diabetes Australia」という,糖尿病者とその介護者に実践的なアシスタントを提供する団体が各地で早くから設立され,全国的にサービスを展開していることがあげられる。その中の1つであるニューサウスウエールズ州の糖尿病協会は1937年に設立された。1昨年に創立60周年を迎えたが,多くの糖尿病者の声を反映するまでに拡大してきた。
 ここでは,年に4回のニュースレター発行,全国糖尿病週間,全国糖尿病会議,世界糖尿病の日など,年間を通して多くのイベントを企画し,メンバーの教育だけでなく,糖尿病者の家族へのサポートや一般市民に対しての糖尿病についての啓蒙を図っている。その中には,「患者または家族,友人のためのアラビア語におけるIDDM(I型糖尿病;インスリン依存型)の1日教育プログラム」とか,「フィリピン人の教育サポートグループ」というように,オーストラリアの多民族主義を反映している内容も含まれている。
 各州の糖尿病協会は,互いに連携しあい,糖尿病者の教育パンフレットなども統一している。どこで暮らしていても同じレベルの教育が提供されることは,オーストラリアにおける糖尿病ケアの利点といえる。

専門職とのかかわり

 糖尿病者がかかわる医療従事者としては,まず一般開業医(GP)があげられる。
 1997年の資料によると,オーストラリア全土で約1万7000人のGPが登録されている。GPは各区域に「Division of general practice(日本の医師会のようなもの)」という組織を形成している。開業医のみを対象にしているこの組織は,政府保健省から提唱されている「糖尿病マネジメント」の臨床ガイドラインについての定期的セミナーを開催し,臨床知識の向上を図っている。全国に118の支部があり,一般開業医の78%がこの組織に加入している。
 彼等は,糖尿病人口の約85-90%を占めるNIDDM(Ⅱ型糖尿病;非インスリン型)のケアに直接かかわる。こうしたGPのレベルアップの試みは,糖尿病ケアの向上に欠かせないものとなっている。また,糖尿病人口の約10-15%を占めるIDDMは,必ず糖尿病専門医,すなわち内分泌専門医の診察を仰ぐが,その数はオーストラリア全体で約300人。
 一方,糖尿病教育に欠かせない糖尿病教育者は,全国で約1000人が登録されているが,そのほとんどを看護婦が占めている。さらに,推定で1660人の足治療士(本紙2339号,連載(11)参照)が登録されており,彼らは糖尿病のフットケア,特に足の創治療と足の潰瘍,足の切断の予防においてとても重要な役割を果たしている。

糖尿病高齢者への援助

 政府は,1998年に全国糖尿病戦略とその実践計画を発表したが,計画には特別なニーズを伴うグループとして「高齢者」に焦点が当てられている。
 オーストラリアの65歳以上の高齢者人口は11.9%(1995年)であり,そのうちの10%が糖尿病に罹患している。65歳時点における残された余命は,平均で男性15年,女性19年とされているが,糖尿病の合併症の罹患率は年齢とともに上昇しており,高齢者でも継続的なよりよい糖尿病ケアの管理が必要とされる。高齢者の糖尿病と若年や成人の糖尿病との治療に原則的な違いはないが,高齢者は多くの既往歴を抱え,また多種類の服薬,社会的な孤立,うつがあるなど,これらのことを考慮しなければならず,特定の問題があると言えよう。
 しかしながら,高齢者にとって糖尿病が在宅で暮らしていくことの大きな障害となることはほとんどない。地域の中規模から大規模の公立病院には糖尿病教育センターが置かれ,そこでの指導を受けることができるし,前記したオーストラリア糖尿病協会の会員になることで,必要な情報が獲得できる。たとえインスリンの注射が必要となったとしても,訪問看護サービスが充実しているために,インスリン注射の依頼もできる。また施設に入所しても,施設内のケアスタッフは,公立病院の糖尿病専門看護婦から指導を受けており,一定のレベルのケアは保たれている。
 オーストラリアでの,ペンタイプのインスリン自己注射普及率は約50%で,北欧などに比べるとだいぶ遅れをとっているが,80歳ぐらいのお年寄りが病棟でスムーズに注射をしているのをみると,やはり感心せざるを得ない。このように糖尿病高齢者を支える援助サービスの多様性は,オーストラリアにおける糖尿病ケアの強みであるといってよいだろう。

 2年にわたる連載で,問合せをいただいたり,また,これをきっかけに友好関係を築くこともできた。今回が最終回となったが,またいずれオーストラリアの看護を報告する機会もあるだろう。これまでつたない文章を読んでくださった同僚たちに感謝し,日豪の看護の発展を祈りつつ,本連載を終えたい。ありがとうございました。