医学界新聞

 

第2回朝日看護セミナー開催


 さる10月2日,第2回朝日看護セミナー「情報開示時代の看護記録」(朝日新聞社,医学書院共催)が,神戸市の神戸朝日ホールにおいて開催された。今回は,岩井郁子氏(聖路加看護大),阿部俊子氏(東医歯大),押田茂實氏(日大・法医学)の3氏を講師にむかえ,当日は500人を越える参加者があった。
 最初に,「情報開示(Patient Access to Medical Recoreds)と看護記録」と題して岩井氏が口演。氏は,ここ最近急速に動き始めた医療情報提供および開示への取り組みについて概説。今年7月に提出された医療審議会中間報告から,当面の取り組みとして診療録の標準化,教育の充実,記録の管理体制の充実,などが進められること を説明。また日本看護協会における記録の標準化への取り組みや,日本医師会が進める2000年1月からの情報開示など,医療界の最新の動向を紹介した。
 その一方で,看護記録の問題点として,「時間がかかる」,「病棟ごとにばらばらで院内基準を守らない」,「客観的記載が困難」などをあげ,今後の課題として(1)公的記録として看護記録を位置づけること,(2)ガイドラインや標準化の必要性,(3)診療録との統合,(4)構成要素の標準化などの基盤整備などを提示した。氏はこのような情報開示を看護の顧客へのサービスととらえ,「患者を中心にした医療の提供を考えて,まず看護が主体となって病院内の改革をリードすべき」とした。

看護におけるリスクマネジメント

 続いて阿部氏は「危機管理と看護記録」と題して,医療現場におけるリスクマネジメント(RM)の基本的な考え方と実践へのプロセスを,アメリカにおける経験を中心に概説。
 氏は,まず医療における危機管理を,「医療ケアの結果としての患者ケアの質の向上と,患者の被害・損害を予防していくこと」と定義。またRMには情報収集が重要であるとの観点から,医療行為中思いがけずに生じた出来事を細かに記入する「インシデントレポート」の重要性を述べ,「インシデント(偶発事象)に気づかなかったり,適切な処置が行なわれない場合,事故発生につながる」と指摘した。氏は,医療事故防止のポイントとして,(1)組織としての取組み,(2)情報の共有化,(3)事故防止のための教育システム整備と実践,の3点をあげた。また最後に,「(1)RMは医療ケアの質保証の概念と大きく関わる,(2)リスクと特定し予防することは,質保証として第1になすべきこと,(3)RMなしに質の保証はありえない」と,口演を結んだ。
 最後は,「医療裁判にみる看護記録」について,医師の立場から押田氏が口演。医療事故が発生した場合,医事裁判においては「100%の因果関係でなくとも,相当因果関係が立証された場合,刑事事件には及ばないが,民事事件として損害を賠償することになる」と,医療事故から裁判への基本的な筋道を説明。また,医療事故の予防には「医療のすべてのプロセスに事故の可能性があることに留意し,ニアミス例が発生した時に予防対策を見直すことが重要」と述べた。さらに,事故で1人死亡すれば同様な事故で負傷者約30人,ニアミス例は300人いるという「ハインリッヒの法則」を紹介し,医療事故にこれを当てはめ,小さなニアミス例にも慎重な対応が必要なことを促した。
 さらに医療訴訟に際して,医療記録が重視されるが,患者の経過を記した看護記録も重視されるとし,今後は経時記録を残した状態で,(1)いつ,(2)どこで,(3)誰が,(4)何をしたか,(5)記録者名などがきちんと記録される新しい看護記録法を創造する必要性を強調。氏は「医療記録は患者の医療経過を証明する文書であると同じに,医療関係者の正当性を証明する重要な文書」と述べ,口演を締めくくった。
 なお,次回第3回セミナーは,明年4月1日に,東京都・有楽町の朝日ホールにおいて,「リスクマネジメントと看護記録」をテーマに開催される(詳細を本紙8面に掲載しているので参照されたい)。