医学界新聞

 

医療制度の変化と看護の質を論議

第38回全国自治体病院学会看護分科会開催


 第38回全国自治体病院学会が,さる10月21-22日の両日,下川泰会長(公立八女病院長)のもと,「21世紀にはばたく自治体病院-変革と創造の医療をめざして」をメインテーマに,福岡市の福岡サンプラザ,他で開催された(2363号にて既報)。
 臨床医学,リハビリテーション,管理,栄養など9つの分科会を擁する本学会では,今回初めて一般演題をすべてポスター発表としたが,発表演題数は過去最大の721題。そのうち看護および看護教育分科会の演題は361題と約半数を占めた。
 また,全体行事としては特別鼎談「21世紀の医療を語る」(座長=下川会長,演者=医事評論家 行天良雄氏,阪大副学長本間正明氏,日医大常任理事 岩崎榮氏)の他,特別講演 I「私が取材したアジアの福祉」(ノンフィクション作家 上坂冬子氏),同 II「儒者,貝原益軒を語る」(鳥取大教授 貝原信明氏),および特別鼎談を踏まえた上で「元気の出る自治体病院を語り合う」ことを目的に開かれた,総会シンポジウム「21世紀の自治体病院のあり方」を企画。なお同シンポジウムでは大規模,中規模,へき地の各病院から院長が登壇し,医療法を含めた現時点での問題点や地方自治体病院の役割,今後のあり方などが論じ合われた。
 一方,看護分科会のプログラムとしては,「医療制度の変化と看護の質」をテーマとしたシンポジウム(座長=福岡県立柳川病院総看護婦長 荒木弘子氏)が,また看護教育分科会では特別講演「看護教育がめざすもの」(長野県看護大学長 見藤隆子氏)が企画された。今号では,2363号に引き続き特別鼎談の続報,および看護分科会シンポジウムの模様を報告する。

バラ色の医療世界は望めるか

 「21世紀の医療をバラ色の世界にするために」(下川氏)を目的に開かれた特別鼎談では,演者の3氏から「21世紀を間近に控えた今は,自治体病院の長が力量を試される時代」「組織に従事する職員は無論のこと,住民も医療費の問題や医療へ参加するなどの意識改革が必要であり,医療保険制度は根本的は見直しが必要」など,やや辛口の意見が出された。
 さらに,「ヨーロッパの介護の現状は,多くの難民,移民によって支えられている。日本も2006年には高齢化率が最高になると言われているが,介護は外国人に頼るようになることは必至。少子高齢化の日本では,医療においても外国人労働者の力を受け入れざるを得なくなろう」(行天氏)。「医療費を青天井で求めてよいのかということを,患者保護を建前とするのではなく,社会保険・医療保険制度の視点から話し合う場が必要」(本間氏)。「日本は民族移動の少ない単一国家としての歴史が長く,医療100年の歴史の中でも医療提供者側のパターナリズムを変える必要がなかった。しかし21世紀を迎える現在,医療費の見直しは必要。国民にとって,価格に見合うサービスを考えなければ反発を受ける。今世紀中に解決策を見出し,21世紀に向けたソフトランディングを」(岩崎氏)とそれぞれ発言した。
 また,「自治体病院は自らをどう変えたらよいのか」との下川会長の問いに,行天氏は「これからは医療も自治体主導で行なうことになる。自治体の長が,『こうしたい』と表明し,選挙で問う医療提供のあり方。職員も,企業のようにつぶれることはないとの甘えの意識は変えなくてはならない。中央都市部では病院間競争から,土・日・休日の開院を職員から提案する病院も出ている」と発言。本間氏は,「住民が地域の特性により棲み分ける時代になるため,武器となる地域力をつけることが重要になる。住民ニーズに対応するサービスの提供を今から考えておくこと。また,日本では大学の組織改革が進んでいるが,医療界もビックバンに向けた組織改革が必要」と示唆した。さらに岩崎氏は,「住民が本当に必要としている病院なのかを考えなければいけない。自治体長の公約は本当に守られているのか,本庁に目を向けるのではなく,住民の声を聞いているのかを常に問うことが必要」と述べた。

看護に何が求められているのかを論議

 看護分科会のシンポジウム「医療制度の変化と看護の質」では,重松節美氏(済生会熊本病院総婦長)が「クリティカルパスから見た看護の質の変化」を,また有松富子氏(田川市立病院地域医療室)は在宅ケアの立場から「病院からの在宅ケアを通して」を,波多江伸子氏(作家・倫理学者)は家族の立場で「これからの在宅ターミナルケア-両親を家で看取って」を,さらに看護管理者の立場からは石垣靖子氏(東札幌病院副院長)が「医療制度の変化と看護の役割-中小病院の現場から」を口演した。
 その中で,早期からクリティカルパス(以下CP)の導入を病院全体で取り組み,平均在院日数が14.4日(1998年度)となった済生会熊本病院の重松氏は,医療の質向上,利用者のニーズ,医療財政の逼迫の視点からCPの必要性を解説。また,「インフォームドコンセントの充実とチーム治療を目的に,現在89種類のCPを実践しており,CPの実例集を作成中」と述べるとともに,患者に患者用のCPを渡すことによって,「明日は何をするのかが事前にわかってよい」との安心感が生まれ,不眠の解消にも役立ったことを報告した。
 また有松氏は,「介護保険の実施は,在宅医療(ケア)の実施を重視した政策」と評価。「在宅へ移行した人の生活援助が目的」と自らの実践の現状を報告。波多江氏は,両親,義母を在宅で見送った経験から,医師や看護職が後方に控えている「在宅ホスピス」のあり方を語るとともに,「これまではヘルパーの派遣を必要な時に依頼できたが,介護保険が施行された場合,これまでのような在宅ホスピスは可能なのか」と危惧する発言を行なった。
 中小病院のトップマネジメントを務める石垣氏は,医療の指向が病院中心のケアが在宅中心へ,また入院から外来へと移行していること現状を踏まえ,状況と看護の対応をめぐる医療モデルについて概説。また,東札幌病院が実践している「ワークフロー改革」の内容と成果などの取り組みを紹介する中で,ホスピスセンター構想があることを明らかにした。

医学教育と看護教育の違い

 一方,看護教育分科会の特別講演には,「看護教育がめざすもの」と題して見藤隆子氏が登壇。医学教育と看護教育の違いに関して,医学モデルによる教育は,自然科学を基礎にしており,原因を探究するプロセスなどを学ぶという特長があると解説。看護モデルによる教育は,人間の不確定性からスタート,人々の健康問題への反応を知ることなどの特長を示した。また,医療おける共通性に関しては,経験,個別性,人間性・人権の重要性を指摘し,「患者中心」が主であることを述べた。
 なお,一般演題はCP,心理援助,透析,業務改善,外来など17ゾーンに分かれて発表が行なわれた。その中でCPの作成,導入に関する報告は10題あったが,看護先導型のCPであることは否めないものの,看護計画と同一視,混同している発表があり,「CP」の言葉だけが先行している実態が垣間見られ,導入に向けてはまだ難しさがあることを感じさせられた。
 なお,次回は明年9月21-22日の両日,中西昌美会長(市立札幌病院長)のもと,札幌市で開催される。