医学界新聞

 

日本の癌遺伝子治療の現況と今後の展開

第37回日本癌治療学会特別ワークショップ


 さる10月12-14日に開催された第37回日本癌治療学会(参照)で開かれた特別ワークショップ「本邦におけるヒトがん遺伝子治療の現況とその成績」(司会=東北大 橋本嘉幸氏,東大 浅野茂隆氏)は,日本でも動き始めた癌遺伝子治療の現況から,その方向性を論ずる場となった。
 最初に基調講演として,米・ピッツバーグ大で遺伝子治療に携ってきた田原秀晃氏(東大医科研)は,米国における遺伝子治療の現状と展開を概説。現在米国で施行される癌遺伝子治療167プロトコルのうち,66%が免疫遺伝子治療,13%がHSV-tk応用,9%が癌抑制遺伝子応用と続くことから,「現在は多岐にわたる手法を模索している段階」と指摘。さらに氏は,米国でのIL-12による免疫遺伝子治療とその経過を述べ,同時に現在,樹状細胞を用いた方法を検討中であることを明らかにした。

日本における実践からの報告

 続いて谷憲三朗氏(東大医科研)は,効果的な治療法がないとされるステージⅣの腎細胞癌に対するGM-CSFを用いた遺伝子治療について概説。また江里口正純氏(東大医科研)は,現在増加傾向にある原発性肝癌を対象に,正常p53遺伝子導入アデノウイルスベクター(SCH5800)を投与する臨床研究を作成し,現在各省庁に申請中なことを明らかにした。氏は米国の成績から「遺伝子治療には予想外の副作用が起こることを考慮すべき」とした。
 田中紀章氏(岡山大)は非小細胞肺癌に対して,正常p53遺伝子発現アデノウイルスベクター(Adcmvp53)とシスプラチンを用いた遺伝子治療臨床研究を実施。さらに2001年から他大学とともに本療法の多施設共同研究を開始することを明らかにした。一方,食道癌(扁平上皮癌)を対象とした遺伝子治療として松原久裕氏(千葉大)は,ステージⅣで非切除例を対象に,内視鏡を用いて癌局所に,p53を導入したアデノウイルスベクターを,2段階で局注する方法を作成。さらに新しい手法として,ベクターにnaked DNAを用いた電気穿孔法の応用についても紹介した。
 進行・再発乳癌への自己造血幹細胞移植を併用した大量化学療法(HD-CF)後に,再生骨髄が脆弱になり再開が困難となる問題に対して,相羽恵介氏(癌研病院)は,多剤耐性遺伝子MDR1を用いた遺伝子治療を開発。この治療法により「骨髄抑制に伴う感染症やQOL低下の防止し,強化・維持療法が可能になる」と述べた。一方,脳腫瘍の遺伝子治療について吉田純氏(名大)は,「正電荷リポソーム包埋ヒトβ型インターフェロン遺伝子による悪性グリオーマの遺伝子治療臨床試験」について概説。氏はベクターにDNAリポソームを使用し,プラスミドpDRSV-IFNβを用いてDNA製剤を開発したことを述べ,この製剤は名大内に設置された「遺伝子治療製剤調整室」で調剤されることを明らかにした。
 追加発現として登壇した公文裕己氏(岡山大)は,前立腺癌に対するアデノウイルスベクター(AdHSV-t)投与後に2週間のガンシクロビル点滴を行なう自殺遺伝子治療の臨床研究について概説。本方法は米・ベイラー大の成績を受けてモディファイしたもので,「このようなブリッジングスタディは遺伝子治療を展開する上で有効では」と提言した。
 演題終了後に行なわれた議論では,具体的な治療法,各省庁の承認システムなど日本の遺伝子治療をとりまく問題が指摘された。最後に司会の橋本氏は「癌遺伝子治療は始まったばかりで,今後が大変な時期。これはすべての治療法開発がたどる道であり,今後も基礎を固めて研究を進めることが重要」と述べ,シンポジウムを結んだ。