医学界新聞

 

バラ色の医療世界を構築するために

第38回全国自治体病院学会開催


 さる10月21-22日の両日,第38回全国自治体病院学会が,下川泰会長(公立八女総合病院長)のもと,「21世紀へはばたく自治体病院―変革と創造の医療をめざして」をメインテーマに,福岡市の福岡サンプラザ・福岡国際センターで開催された。
 今学会では,臨床医学分科会,看護分科会など,各分科会でシンポジウムや特別講演が企画された他,全体行事としての総会鼎談「21世紀の医療を語る」(司会=下川会長)をはじめ,総会シンポジウム「21世紀の自治体病院のあり方を探る」,特別講演2題が行なわれた。なお,今回初めて一般演題を全題ポスター発表としたが,応募演題は721題に達した。

意識改革が必要な自治体病院

 「日本の人口の25%が高齢者となる21世紀の医療をバラ色の世界にするために」(下川会長)と開かれた総会鼎談「21世紀の医療を語る」には,行天良雄氏(医事評論家),本間正明氏(阪大副学長),岩崎榮氏(日医大常任理事)の3氏が登壇した。
 行天氏は,医療供給側が,技術評価される医療提供ではなく保険による「タダ」の医療として考えていること,一方で住民の側にも権利としての甘えが見られることを危惧し,「保険行政の見直しが迫られるのは必至。国民皆保険,“医療はタダ”の意識をどこまで変えられるかが自治体病院の抱える問題」と指摘。
 また,「これからの医療は国主導の一律ではなく,地方自治体に任されることになる。その時につぶれる病院も出てくるだろう。自治体の長の力量が試されることにもなる」と説いた。さらに,「長寿化するのは先進国だけでなく世界的傾向。21世紀まで待てない政治変動の影響で病院・医療のあり方も変わる。幸せな老後は,地域の中で死ぬ時と場所を選ぶ権利を持つこと。ホスピスよりさらにレベルの高いところの医療を望みたい」との考えを示した。
 本間氏は,「日本は“構造改革”が言われているが,国民のニーズが多様化する中,供給側の高価格,低技術が指摘されており,医療も改革が必要」と説いた。
 その上で,「21世紀には,医療マーケットではなくヒューマンマーケットとして,またQOLサポートとしての医療が位置づけられる」として,その要因に,(1)市場化の波が保険制度にも影響を与える,(2)地域化=個別ニーズの多様化,高度化が進むことから,住む場所によって異なる医療の提供が考えられる,(3)情報化=患者の医療者へ対する評価が可能になったことをあげた。また,人権問題など科せられた課題に制度としてどのように整備していくかが問われるとともに,どのように保険制度を変えるのかを危惧し,「医療保険制度は抜本的な改正が必要」と指摘した。
 岩崎氏は,良質で効率的な医療の提供のためには,(1)医療提供体制の改革,(2)医学教育の改革,(3)医療提供者の意識の改革が必要との視点から発言。
 クリティカルパス(以下CP)の活用,EBM(EBN)による診療ガイドラインの活用が良質な医療につながるが,CPは医師の間ではまだまだ活用されていない。また,良質な診療録,DRGの導入が必要と指摘した。その上で情報開示に触れ,「開示にふさわしいカルテになっているか,医師のメモにすぎないカルテになっていないか」と投げかけ,「1患者1カルテ。わかる言葉での記載」の推進と,ICD10分類記載による診療録の整備を示唆した。さらに,「病院は24時間365日機能していることを自治体病院の職員は意識しなければいけない」と,内部からの構造的な大変革の必要性を訴えるとともに,「自治体病院は住民に支持(信頼)されている病院なのか,公共性・経済性・地域住民のニーズに応えているかを自ら問い質す時期」と述べた。
 その後,「自治体病院は自らをどう変えたらよいのか」との下川会長の問いに3氏が答えているが,続報は次号2364号(看護号)にて伝える。なお,次回は明年9月21-22日の両日,中西昌美会長(市立札幌病院長)のもと,札幌市で開催される。