医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児脳神経外科医療の現場で役立つ1冊

小児脳神経の外科
Standard and Modified Techniques
 山浦晶,森竹浩三 編集

《書 評》吉田 純(名大教授・脳神経外科学)

 小児脳神経外科学は,成人の脳神経外科学の小児版ではなく,小児科学,小児神経学の延長線にある小児脳神経外科学である。本書は,この小児脳神経外科学を外科治療法の観点よりまとめたものであり,医学書院よりシリーズで出版されている「Standard and Modified Techniques」の第4冊目として書かれたものである。

修得すべき知識と手術手法を1冊にまとめ

 目次を見ると,「総論」,「Standard Techniques」,「Modified Techniques」,「今後の課題と将来展望」の4つの章から構成されているが,中心は第2章のStandard Techniquesである。専門医試験前の脳神経外科医が修得すべき知識と手術手技が網羅されている。まず,術前の検査から始まり,患者,家族へのインフォームド・コンセント,手術の麻酔,ポジショニング,そして術後の管理と合併症対策がまとめられている。次に,代表的な小児脳神経外科疾患について,先天奇形の他,脳血管障害,頭部外傷,脳腫瘍,感染症,てんかんまで含め,小児の病態生理の特徴に加え,疾患の説明,そして手術適応と手術手技について随所に図を入れ,わかりやすく概説してある。この中には術式の基本の他,こつ,工夫も書き加えられており,これらをすべて理解すれば,あとは実際の症例で経験を積み重ねることにより小児脳神経外科医として自立できる内容である。
 第3章は小児脳神経外科医の第一人者たちにより,第2章の各疾患に対する新しい手術法や神経内視鏡,ガンマナイフ等の新しい治療器機の紹介や操作方法,そしてそれらの工夫が述べられている。また,超音波画像をはじめとするニューロイメージングや術中モニタリングの他,小児脳腫瘍やてんかんについて,第2章と異なった観点よりまとめられており,シニアも臨床の現場で大いに参考になる。

分子生物学,神経科学など新しい概念をとり入れて

 さらに本書の特徴は,第1章と第4章である。総論としての小児脳神経の特殊性と小児神経学の他,脳の発達と形成について,ニューロサイエンスとして現在もトピックスになっている出生前後の神経細胞の生成過程や可塑性について述べられている。さらに中枢神経系の奇形についても,分子生物学,遺伝子解析の結果,明らかにされつつある新しい概念が述べられている。こうした新しい学問は,今後脳神経外科医も十分勉強しなければならない。21世紀に向けた新しい医療の中で,小児脳神経外科領域においてはますます必要となり,これらの先進分野を中心とする分子脳神経外科の開発が望まれることを本書は示している。
 本書は小児脳神経外科医療の現場で大いに参考になるものであり,脳神経外科医全員の必読書として推薦したい。
B5・頁408 定価(本体23,000円+税) 医学書院


乳腺疾患に携わるすべての医療関係者に

マンモグラフィガイドライン
日本医学放射線学会,日本放射線技術学会 編集

《書 評》山口昂一(山形大教授・放射線科学)

乳腺疾患の診療や検診にかかわる医療チームの合作

 『マンモグラフィガイドライン』の書評を求められて,丁寧に頁をめくって通読した。そう時間がかかったわけでない。通算して約1日をかけたことになるだろうか。読みやすいと思った。私はマンモグラフィに精通しているわけでないので,内容を自分が利用できる知識に加えたいと欲張った気持ちで読みながら点検していった。
 このガイドラインは,放射線科医,診療放射線技師,医学物理士などが連携し,外科医や病理学者の協力も得てできあがったという。乳腺疾患の診療や検診にかかわる人たちの合作である。この合作は分担作業を感じさせないほどよくまとまっている。また,各章ごとの記載は簡潔で無駄がない。以下に,章を追って内容に触れてみたいと思う。
 撮影機器と撮影法に関する記載(第1,2章)は,医師が読んでも,よい画像,診断に適する画像を確保するための基本事項が,なるほどと思わせるように整理してある。そして終わりのほう(第9,10章)に精度管理のための事項や被爆の問題がまとめてあり,必要に応じて参照することができる。
 読影に取りかかる前提として必要な「解剖と正常像」と「乳腺疾患の病理」についての解説(第3,4章)は,必要最小限にまとめられている。「マンモグラム読影の基本」(第5章)では,実際の読影に際して,フィルムのシャウカステンにかける時の並べ方や目の走らせ方にも注意を喚起している。経験者が身につけた見落としのない素早い方法なのであろう。

マンモグラフィを身近に感じられる1冊

 私がもっとも高い評価を与えるのは,第6章「マンモグラム所見用語」である。解説は簡潔であり適切と思う。ここで登場する説明用の模式図は具体的でわかりやすく,対比して掲載されているマンモグラムの質も優れて適切だし,付された語句表現は短く無駄がない。この章を読み,模式図や写真を自分のメモリーコアに収集できると,次の第7,8章の「所見の記載」と「読影の実際」を読み進むのはきわめて容易である。私は,通読して,マンモグラフィを急にとても身近に感じるようになった。
 解剖,病理,読影に関する記載は,撮影を担当する診療放射線技師が読んでも理解しやすいであろう。撮影された画像がどのように役立てられるかを理解することは,この本の序文にも述べられているように,よい画像を提供するための原動力になる。
 全体で76頁の冊子で,文章,模式図,実際の画像と3者の量のバランスがよく,読みやすく,通読も容易,読影で所見記載の折り,手元において参照するのも手軽で便利と思う。乳腺疾患の診療に携わる医療関係者の誰にでも,また私のようにこれまでマンモグラムの読影に疎遠であった放射線科医にも,ぜひ手にとって一読させたいと思った。
A4・頁76 定価(本体2,800円+税) 医学書院


日常臨床に必要な検査項目の臨床的意義や病態を解説

一目でわかる臨床検査 新倉春男,松野一彦 著

《書 評》寺田秀夫(聖路加国際病院内科顧問・昭和大学内科客員教授)

 本書は書名『一目でわかる臨床検査』のように,日常の臨床に必要な基本的検査項目について,できる限り多くの図表を用いて,検査の持つ臨床的意義や病態についてわかりやすく解説している。しかもその内容は実に精細で,最新の知識も洩れなく記述されているのに驚嘆した。こんな親切なしかも高度な内容の臨床検査解説書は初めてではなかろうか?
 これは2人の著者が持っている内科医としての十分な知識と経験をもとに書かれたからであろう。

ベッドサイドで必要な検査を見開き2頁で解説

 本書はA4判で96頁の手軽なスマートな本で,はじめに,血液・凝固検査,生化学検査,免疫・血清検査,腫瘍マーカー,尿・便検査の6項目に大別され,各項目に日常ベッドサイドでもっとも必要な検査が,その概念,意義,異常値の解釈など見開き2頁のレイアウトで解説されている。
 まず従来の臨床病理学会(1989年)が決めた基本的検査法が必ずしも完全なものでなく,患者の問診・視診・触診・聴診などから得られる情報をもとに,これら項目を適切に選ぶ必要のあること,すなわち私の好む言葉「experience based medicine」の大切な点に触れ,また人間ドックの諸検査がすべて正常範囲内でも,隠れた病気が潜んでいないとは保証できない点についても,正常値と異常値の考え方やROC曲線も示しながら注意を促している。血液・凝固検査の項は著者らの専門領域であるゆえ,素晴らしい解説で,また尿酸,血糖,血清,タンパク,酸ホスファターゼに関しても,わかりやすいイラストを用いて記述され,医療現場の忙しさにまぎれて忘れがちな身体の代謝の原理を,読者に再び呼び戻してくれる。また急性心筋梗塞における血清マーカーの変化やCRP産生の図やそれらの臨床的意義,HBV関連マーカーの変化,特異的腫瘍マーカーの項など斬新な内容を洩れなく記述し,また巻末の6頁にわたる和文・欧文索引なども含めて,著者らの本書作成までの労苦と読者に対する暖かい心の配慮が感じられる。

臨床現場ですぐに役立つ

 いずれにしても本書は今まで出版されてきた多くの臨床検査に関する書とは明らかに異なり,臨床検査の知識の整理はもちろん,臨床の現場で直ぐ役立つ解説書である。約50年の内科医として,また臨床検査の現場で多くの研修医やナース,臨床検査技師の方々と一緒に仕事をしてきた者として,これら医療に携わるすべての人々の座右の書として自信を持ってお奨めしたい好著である。
A4変・頁96 定価(本体2,800円+税) MEDSi


医療制度を平易な言葉で網羅的に解説した入門書

病院早わかり読本 飯田修平 編集

《書 評》川渕孝一(日本福祉大教授・経済学)

関係者と一般市民を対象に

 最近,「医療制度に関する簡単な解説本がないか」と多くの人からよく聞かれる。確かに,少子・高齢化が影響してからか,医療・福祉関係の出版物は増えている。しかし,どれも専門書や各論書のたぐいで,医療制度を平易な言葉で網羅的に解説した本は皆無に等しい。
 そうした意味で本書は,「はじめに」にもある通り,(1)医療関係の学生や病院の職員と,(2)一般の市民を対象としているので,医療制度の入門書として,最適な書物と考える。
 特に,わが国の病院は,職員の入れ替わりが激しい職場なので,職場間で一定のレベルの医療制度に関する知識を共有する上で職員研修に必携の参考書となるだろう。
 具体的には本書は2部からなり,第1部「医療の仕組み」では,(1)時代背景,(2)医療とは,(3)病院とは,(4)医療保険制度,(5)老人保健法,(6)診療報酬制度,(7)(公的)介護保険制度といったマクロ的なテーマのみならず,(8)病院業務の流れ,(9)病院の組織,(10)人事,(11)病院管理と財務,(12)医療廃棄物といったミクロ的なテーマも取り扱っている。他方,第2部「医療の質向上を目指して」では,第1部を受けて,どうすればわが国で,質の高い医療を実践できるか,(1)医療の質の向上,(2)質の向上活動,(3)医療機能評価,(4)医療の標準化,(5)職業人としての心得,(6)苦情処理,(7)患者の権利,(8)信頼の創造の8章に分けて解説している。
 ここで留意すべきは,医療の標準化のツールとして,DRG(Diagnosis Related Groups)の有用性が言及されている点である。とかく,DRGと言うと,定額制というイメージが強いが,それはPPSという言葉がついた時のみであって,DRGはあくまでQC(品質管理)活動の一道具なのである。両者を混同している方が多いので,ぜひ,この違いを理解していただきたいものである。
 これまで,医療は一種の「浪費財」のように扱われてきたが,1996年の時点で総売上高(総医療費)が30.3兆円で,雇用者数が320.3万人であることを考慮に入れると「一大産業」になっているとも言える。
 にもかかわらず,「入門書1つない」というのは恥ずべきことであり,そうした意義からも本書の存在意義は大きいと考える。
 なお,少し「押し売り」になるかもしれないが,本書と拙著『これからの病院マネジメント』(医学書院)をセットで読んでいただければ,より一層医療全般に関する理解が増すと考えるがいかがだろう。
B5・頁132 定価(本体1,800円+税) 医学書院


心不全と神経体液因子の関連を明解に解説

心不全と神経体液因子 泰江弘文 編集

《書 評》河村慧四郎(大阪医大名誉教授)

 最近,心不全の概念と治療は新たなパラダイムに移行し,その焦点の1つに神経体液因子がある。心不全は患者の生活の質(QOL),さらに生命を脅かす進行性の病態であり,生体ではさまざまな代償機構が動員される。
 その中には交感神経系やレニン・アンジオテンシン(RA)系の活性化や心肥大があるが,長期の過剰適応はかえって心筋傷害を助長する。逆にこれを抑制するアンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンAT1受容体拮抗薬またβ遮断薬は患者のQOLや長期の生命予後を改善することがランダム化比較試験で立証され,臨床家にも大きなインパクトを与えた。なお不全心からはANPのほかにBNPのNa利尿ペプチドの産生・分泌が亢進し,心不全の重症度の指標としても利用される。さらに心不全ではエンドセリンやアルギニン・バゾプレッシンの産生亢進,諸種インターロイキン,腫瘍壊死因子(TNF-α),インターフェロンγなどのサイトカイン,誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の活性亢進がみられ,これらが患者の末梢血管収縮や体液貯留,心肥大,細胞外マトリックスの増生,またアポトーシスなどを含めた心筋リモデリングに関与すると言われている。さらにアドレノメデュリンやアデニンなども心不全の発現・進展に関与することも注目される。これらの多種多様な神経体液因子の特性と動態,また相互作用の解明が心不全の病態のより深い洞察に役立ち,適切な制御法の開発が心不全の治療に新たな進展をもたらす可能性も考えられる。

心不全に関与する神経体液因子のすべてを網羅

 新書『心不全と神経体液因子』〔編集:泰江弘文(熊本大教授・循環器内科)〕では,上述の諸事項に関する最新の情報がわかりやすく解説されている他,将来の展望も散見される。本書は1997年日本循環器学会総会において書名と同じタイトルのシンポジウムで取りあげられたテーマに,司会者の泰江教授がさらに若干のテーマを追加し,最新の参考文献と索引を付して編集されたもので,この領域で日本を代表する計11施設の専門家が執筆している。
 本書はB5判160頁の小冊子であるが,内容は豊富で計14章よりなる。第1章は編集者渾身の総説,第2章は交感神経系の諸種反射を中心とした解説で,第3章は組織RA系とアンジオテンシンAN1とAT2受容体を介する病態や薬理作用を取りあげ,第4章から第10章の各章はそれぞれエンドセリン,サイトカイン,一酸化窒素,Na利尿ペプチド,アドレノメデュリン,アデノシン,バゾプレッシンと心不全との関連,第11章は不全心における情報伝達系,第12章は心不全の治療と神経体液因子制御に関連した多くの臨床治験の成績をまとめ,将来の示唆に富む展望にも言及している。第13章は心不全の予後との関連を解説し,第14章は新しい心筋肥大因子カルディオトロフィン-Iを紹介する。
 このように本書は心不全に関与する神経体液因子のすべてを網羅しており,循環器専門医をはじめ心不全に関心を持つ臨床家や研究者にもひろく推奨される。
B5・頁160 定価(本体7,000円+税) 医学書院


現代米国の画像診断の傾向を知る不可欠の情報源

Neoplasms of the Digestive Tract
Imaging,Staging and Management
 Morton A. Meyers 編集

《書 評》丸山雅一(癌研究会附属病院部長・内科)

 Morton A. Meyers教授とは旧知の間柄である。Meyers教授は,その肩書きにある通り,放射線科の教授であると同時に内科学の教授でもあり,消化器病学については深い経験と洞察力を持つ,米国では異色の人と言ってもよい存在である。わが国では,その名著『Dynamic Radiology of the Abdomen,Normal and Pathologic Anatomy』(Springer-Verlag)の著者として,特に放射線科領域の人たちには周知である。この本は,1976年に初版が発行されて以来,版を重ね,消化器放射線の画像診断のバイブルのごとき役割を果たしてきた。

編集者渾身のoverview

 さて,今度世に出た『Neoplasms of the Digestive Tract』であるが,Meyers教授は,単に本の編集者としてではなく,第1章「General Considerations」に加えて,以下11章のすべてにわたってoverviewを執筆している。この事実からして,筆者は,本書は教授が渾身の力を込めて世に問う畢生の大作であると思う。消化管から肝・胆・膵に至る総合的な画像診断についてのoverviewを1人で執筆する仕事は,教授がいかに人並みはずれた能力の持ち主であろうと,そう簡単になせる業ではない。秀でた能力の持ち主が長い時間の苦闘の末にようやく可能になることではないか。引用されている文献の数をみるだけでも,あの多忙な教授の努力のあとは歴然としている。また,このoverviewには新旧の知見を含めて必要なことが網羅されており,これを読むだけでも啓発されること大である。そして,本の編集者とはこうあらねばならないという理想に近い状態を Meyers教授は具現していると思う。そのことを本書を手にしたすべての読者に感じてもらいたいものだ。
 そしてMeyers教授のそのような思想性と心意気を肌に感じている筆者としては,腑甲斐ない執筆者がいることにある種の空虚さを感じるとともに,なぜなのだろうかとの疑問を持たざるを得ない。
 例えば,第20章「Diagnosis of Colorectal Cancer by Conventional Radiology」の中で,Early carcinomaの項目はわずか4行,しかも,引用文献は1982年の「Radiology」に発表されたものを拠り所にしている。前章のoverviewではMeyers教授が日本人の文献を引用して平坦・陥凹型の病変に言及しているのである。また,平坦・陥凹型に限らず,X線診断の進歩については教科書的に書き残しておかなければならないことは,日本人の業績に限らずとも少なからずあるのである。しかも,大腸早期癌の診断については日本の仕事は英文で少なからず発表させているはずであるから,なぜと思うのである。
 大腸癌は,米国では日本の胃癌に匹敵するか,それ以上の罹患率,死亡率を呈する疾患であることを考慮すれば,早期癌の診断についてもう少し詳細な記載を期待するのは筆者だけではあるまい。
 また,せっかく日本の早期胃癌例を載せているのに,その説明が不十分なものがある(Fig.11-3)。この例は,III 型早期癌と解説されているが,日本では IIc 型,それも胃底腺領域の IIc 型である。したがって,その深達度はsmであろう。もし,これが III 型であるならば,間違いなく早期癌類似進行癌である。
 いくら上部消化管のconventional radiologyが米国では衰微の一途にあるとは言え,このような一知半解のごとき記載は寂しい限りである。そして,CT,US,MRIなどについての記載がしっかりとしており,さらに,EUSによるstagingなど新しい領域のことについては十分に配慮ある書き方がなされているだけに,そのことが対照的に映る。

日本の消化管早期癌診断の仕事をあらためて問う

 以上,少し辛口の批判も書いたが,総じて見れば,筆者はこの本は,現代米国の画像診断の高い水準を認識するとともに,その傾向を知るには不可欠の情報源であると思う。そして,同時に,消化管の早期癌の診断に関する日本の仕事が,なぜ,米国の教科書的な記載の中に引用されることが少ないのか,ということを改めて考えてみることが必要ではないかと思った次第である。
頁588 定価¥36,050 日本総代理店 LWW医学書院