医学界新聞

 

 ミシガン発最新看護便「いまアメリカで」

 複数の研究を効果的かつ経済的に進めていくために
 [第12回]

 余 善愛 (Associate Professor, Univ. of Michigan School of Nursing)


 看護研究の意義が問われ続けた揺籃期を過ぎた現在,看護分野の大学,大学院,および研究所では,研究者がその生産性を高めることが強く要求され始めています。現在までの各機関での研究者の一般的な姿は,4-5年をかけて1つの研究を終え,3か月から1年後に次の研究企画を実施するというものでした。
 もちろん,これに当てはまらない人はたくさんいますが,あえて中堅研究者の活動を時間表的に表すとこうなると思います。講義のかたわら,各研究者が自分の研究室で数人の学生やスタッフをかかえて,自分なりのスピードでやってきたわけです。

研究者も生産性を問われる時代に

 しかし,近年,企業的なアプローチで各研究者の生産性をあげようとする動きがそこここに出てきました。1つの現象(健康増進や,癌の治療・対症療法に伴う患者および家族の支援等)を,人生の違った段階から観察するという複数の企画があった場合,他の研究者と同時進行で研究をさせることができるのではないかというものです。これには,複数の企画を同時進行もしくは適当にずらすことによって,スタッフのトレーニング〔被験者のリクルート,各行程の進行の管理ならびに調整,手順(プロトコールやマニュアル)の管理維持,会計管理およびデータ管理等〕を1企画ごとに繰り返すという経済的なむだを省けるのではないかという内容を含んでいます。
 また,こちらでは企画ごとに臨時のスタッフを雇い入れる習慣になっていますので,複数の企画をうまくずらして進行することによって,これらの臨時雇いのスタッフの生活の安定を図れるのではないか,ということがあげられます。とはいうものの,このような利点が予測される一方で,現段階では検討がつかない,まったくわからないという要素もかなりあります。
 例えば,研究者が各企画にかけなければならない時間を考慮すると,複数の企画を進行させることが可能に思えない。言い換えれば,どこで時間を節約できるのかがまだ検討がつかない。下手をすると,研究者が今以上に忙しくなるだけで(なりようがないような気がしますが),自己破滅に導かれるだけではないか,といった危惧がまず出てきます。

核となるのは経験のある研究者

 大学の組織構造が,日本のような講座制になっていると,この点は少し楽なように思えますが,アメリカの大学制度は1人ひとりの研究者が「一国一城の主」ですので,博士号を有している研究者間の組織的な共同作業はなかなか難しいものがあります。つまり,共同研究者として研究を分担するなら現在でも数多く実施されていますが,1人が主任研究者となり,他の研究者(博士号を有した)を雇うという形は,看護の世界ではまだなじみのない状況なのです。
 さらに,大学または学部レベルでどのような援助を研究者にすればよいのかということもわかりにくいものの1つです。こういった状況の中で,多くの場合は研究行程を分割して,各部分を外注または,一括化するという方向に動いているようです。具体的な例としては,研究金申請書の下書きを専門にする人を雇うとか,統計処理や研究手順/企画を外部に依頼する。または,各企画の管理をコンピュータ化する,などがあげられます。
 また,このような複数の研究企画を同時に具体化していくために,研究援助金に関する種々の公的および私的情報を,一括して研究者に常時配布するようなシステムを作る等々,まさに企業的アプローチが検討されています。しかしながら,社会的,また科学的に本当に価値のある研究(群)を進めていくには,研究の各行程でかなり精通した経験を積んだ研究者が核にならなければいけないのは明らかです。さもなければ,どのような企画も実を結びません。そういう意味では,幸いなことにアメリカは,厳しいながらもどの企画も確実に実を結ぶような仕組みになっていると思います。