医学界新聞

 

褥瘡・創傷治療に携わる医療関係者が一堂に会す

第1回日本褥瘡学会が開催される


 日本は急速な高齢社会となり,明年からは介護保険も開始されるが,“寝たきり”高齢者の数は本年度で120万人,2025年には230万人に達すると推定されている。“寝たきり”高齢者の褥瘡の発症増加も必須とみられ,その予防と治療が社会問題となっている中,日本褥瘡学会(理事長=医療法人渓人会会長 大浦武彦氏)が,「このような現状と問題を解決するためには,褥瘡治療や研究に携わる者が一堂に会し,討論・評価をする必要がある」とのことから設立。さる9月3-4日の両日,第1回学術集会(会長=青葉会青葉病院長 中條俊夫氏)が,東京・品川区の「きゅりあん」で開催された。
 同学会は,これまで「褥瘡の分野における研究・開発,治療結果などの討論や評価」が医師,看護職,医療工学研究者を含めた医療福祉機器の3つのグループでそれぞれ個々に行なわれてきたが,今後は互いの連携のもと,「褥瘡や創傷管理に関する教育,研究,専門知識の増進普及を図り,褥瘡の予防と治療の向上促進と充実に貢献する」ことを目的に掲げた。


 今学会では,開会式に続いての理事長講演「わが国の褥瘡治療の現況」をはじめ,招待講演「Best Practices for Pressure Ulcer Care in the United State : 1999」(米・ボルチモアメディカルセンター Diane Krasner氏)や,教育講演「創傷治癒の理念」(高知医大 倉本秋氏),パネルディスカッション「褥瘡のトータルマネジメント」(司会=京大 宮地良樹氏,金沢大真田弘美氏)が企画された。また,一般演題は手術,症例研究,予防,在宅医療,医療材料,有効なケアなどの分野から約150題の発表が行なわれた他,国際セッションではアメリカから2題の報告がなされた。

褥瘡に関する医療費改定が話題に

 大浦氏は理事長講演の中で,褥瘡患者に関して全国467施設の調査回答をもとに報告。その有病率は,入院患者総数の約5.8%であったが,今後は「老人保健施設や在宅における調査・分析が必要」とした。また,全国205施設のアンケート調査からは,各施設における治療方針や治療方針の変更に関して,「医師が決める」40%,「看護職が…」15%,「合同で…」40%であったこと。褥瘡治療・予防チームがある施設は26%,褥瘡の清潔については,「入浴している」61%,「シャワー浴」29%,「していない」が6%であり,「入浴している」のうち54%が「褥瘡部開放入浴」であり,「入浴・シャワー浴の褥瘡部開放は治療効果の有効性が示されている」として,積極的な褥瘡予防の必要性を説いた。その上で大浦氏は,「褥瘡は一般潰瘍と違い,難治性であり,治療に長期間要することなどから,褥瘡に対する意識改革は医療者間や社会的にも必要であり,診療報酬上の“熱傷”と同等以上の医療費算定と認知させる必要がある」と指摘。「行政への緊急提案が必要。そのために学会としての“褥瘡予防・ガイドライン”の作成が急務である」と述べた。
 また,パネルディスカッションでは,看護,外科,内科,リハビリ部門から5名の演者が登壇したが,その中で美濃良夫氏(阪和泉北病院)は,内科医の立場から「褥瘡の全身管理と医療制度」を口演。美濃氏は,褥瘡の発生しやすい内科系疾患として,(1)パーキンソン症候群(脳血管障害),(2)糖尿病(循環障害),(3)熱性疾患,(4)慢性呼吸器疾患,(5)慢性疾患・悪性腫瘍をあげた他,その他の疾患に脊髄損傷と泌尿器系疾患をあげ,前者では受傷直後に褥瘡が発生しやすいこと,弛緩性麻痺に褥瘡形成が多い(特に車椅子常用者)こと,不十分な排尿管理が発生を助長することを指摘した。
 さらに医療保険制度に関して,「1年を超える加療を必要とする褥瘡の医療費は“老人処置料”や包括された“入院医学管理料”では不十分」と,大浦理事長と同様の指摘を行なうとともに,治療効果よりも「安価な薬剤・被覆材」の選択が余儀なくされている褥瘡医療の現状など,さまざまな問題を伝え,今後の「診療報酬や補助制度の改定の必要性」を示唆した。
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