医学界新聞

 

第9回日本看護教育学学会開催

職業的自律に向けて,研究や学位取得の意義を検討


 さる8月23日,千葉市のOVTA(海外職業訓練協力センター)において,第9回日本看護教育学学会が開催された。舟島なをみ会長(千葉大看護学部教授)のもと,「看護教育学研究を基盤とした職業的自律と発展」をメインテーマに行なわれた今学会は,学会長講演,シンポジウムの他,4題の演題が発表された。


研究者の自立を支える

 学会長講演「看護職者としての自立を支える研究継続」(座長=三育学院短大 本郷久美子氏)では,舟島会長が,自身の修士論文となった『排泄障害を持つ子どもの新しい排泄行動獲得に関わる要因の分析』を紹介。実際の臨床経験から生まれた疑問を研究することで,「自分の経験が間違っていなかったという価値づけができ,新たな研究興味を発見した」と語った。
 また,教える立場になってから,自分の専攻(看護教育学教育・研究分野)に対して疑問を抱いた時のことを述べ,「その後,研究のための測定用具の開発方法を文字にしたい。文献研究の方法論を確立したいという考えから,自分に与えられた役割を『研究や研究者を支えることだ』と思えるようになった」と振り返った。
 そして,“自立”を「経済的,精神的支配を受けることなく,自分の力でものごとを進めていくこと」と定義し,看護職者として自立した研究の必要性を訴えた。

学位取得の意義

 シンポジウム「看護婦・士にとっての学位取得の意義と課題」(司会=群馬県立医療短大 杉森みど里氏)では,4名の演者の学位取得に向けたさまざまなアプローチのしかたをもとに,学位取得の実態とその意義が模索された。
 看護専門学校を卒業し,10年の臨床経験を持つ福永智美氏(東京逓信病院)は,同じ看護婦・士にも学歴があることを知り,本学会への参加を契機に学位取得を決意。看護系大学への入学には,制度的,時間的に無理があるため,通信教育の法学部法律学科に入学。まずそこで学士を取得し,その後,看護系大学の大学院へと考えている。氏は,臨床看護婦,本学会員,法学部学生の3つをこなすというハードスケジュールの中,「“看護婦と学生の両立の困難さ”と“体系化された看護学に関する学習の不足”に気づかされた」と語った。
 学位授与機構を活用して学位取得をめざす成瀬浩子氏(北大附属病院)は,「臨床看護婦として7―8年働いた頃,看護の面白さを見失いかけ,看護職を価値づけるために学位取得をめざすようになった」と学位取得をめざした動機を説明。「仕事との両立の困難さもあるが,看護の独自性や面白みを言語を用いて伝え,解明するという目標のもと頑張っている」と発表した。
 一方,看護教員になることをめざしてきた松田安弘氏(千葉大大学院博士後期課程)は,病院で臨床経験を積んだ後,看護教員養成研修への参加という目標を見つけ,その条件である学士を取得。看護教員養成研修への参加を果たし,その後,短大助手という職につくが,自分の授業を持ちたいという考えから,修士の取得をめざした。しかし,修士を取得した時,研究活動の重要性に気づき,現在博士課程に進んでいる。このように,『看護教員になるための学士』→『授業を持つための修士』→『研究能力を身につけるための博士』と,自分の目標が変わっていくたびに学位の取得の意味づけが変わっていったことを説明した。
 看護系大学を卒業した貞廣和香子氏(千葉大)は,4年間の臨床経験の後,修士・博士の学位を取得。2年間基礎看護学の教育に携わり,現在千葉大看護学部に在職している。貞廣氏は,「臨床の中で起こる多くの問題に疑問を抱き,その解決に向けての研究をめざした。しかし,その前提として,“日常的に看護の効果を価値づけること”が必要だと考え,修士論文『臨床場面における看護実践の効果に関する研究』に着手。さらに博士論文『看護場面における看護婦・士行動に関する研究』を作成した」と,看護実践に関する知識習得や,看護の専門性に対する価値づけを実現した経緯を説明。今後の目標として(1)専門的知識・能力の向上,(2)大学院生に研究の焦点を与える,の2点をあげ,看護職として職業を継続していく意思を明らかにした。

学位取得の位置づけ

 最後に司会の杉森氏が,「学位は専門職業人として次世代を養うためのものであるが,すべての看護職に必要というものではない。自分のありたい形で,看護の自立と発展に貢献してほしい」と,学位取得を位置づけ,幕を閉じた。