医学界新聞

 

看護はサービス業として成り立つか

第3回日本看護管理学会が開催される


 第3回日本看護管理学会が,さる8月27-28日の両日,井部俊子会長(聖路加国際病院副院長)のもと,東京の中央区立中央会館で開催された。なお本学会では,DRG/PPS(疾患群別包括支払い方式)の導入や看護必要度が厚生省から提言される一方,明年の介護保険導入など,保健・医療・福祉の体制が変革する中,看護管理の課題の本質を見据えようと,「看護の価値を創造する-看護サービスマネジメント」をメインテーマに掲げた。
 本学会では,会長講演「キャリア開発ラダーのめざすもの」をはじめ,メインテーマに沿って他領域から演者を招き,教育講演 I「サービスマネジメントについて」(多摩大 近藤隆雄氏),II「人事賃金制度の変革と方向性について」(社会経済生産性本部雇用システム研究センター 楠田丘氏)を企画。また恒例となったディベートは,「看護はサービス業として成り立つか」(司会=東女医大 金井Pak雅子氏,日赤医療センター 村上睦子氏)をテーマに行なわれた。なお,一般演題は5群20題が発表された。


サービス業としての看護は成り立つ

 本学会の最終プログラムとして企画されたディベートには,肯定(成り立つ)派に勝原裕美子氏(兵庫県立看護大),リボウィッツよし子氏(大分医大),押川真喜子氏(聖路加国際病院)の3氏,否定派には加納佳代子氏(心和会八千代病院),岡部純子氏(神奈川県立教育大学校),大島敏子氏(横須賀北部共済病院)の3氏が登壇した。
 最初に,勝原氏が肯定派の第1立論として,(1)看護の社会的ニーズが高い,(2)看護に対する価格評価が年々高まっている,(3)看護をコンピタンス(能力,資産)にして業を起こせると考える人たちが増えてきている,の3点を「成り立つ」根拠にあげた。
 (1)については,介護保険が実施される明年4月には約200万人の看護サービス利用者が見込まれており,社会的なニーズに応えるという視点から,基本的条件があること。(2)に関しては,これまで診療報酬の入院料の中に位置づけられてきた「看護料」が「看護必要度を加味した看護料」に,また診療報酬改正ごとに看護に対する価格評価が高まってきている事実や,訪問看護事業で看護実践の対価として料金を徴収できるなどの基盤が整いつつあること。(3)としては,在宅看護の普及とともに地域の中で看護行為が評価されはじめたことや,看護経済や医療経済に関心を寄せ,将来的に起業を考える学生が育ちつつあること,また民間企業が看護に強い関心を示している事実をあげ,「知恵とアイデアがあれば顧客の要求を満足させつつ採算のとれる経営を成り立たせることは可能」と立証した。

「業」として成り立たない看護サービス

 これに対して否定派は,加納氏が「看護サービスと介護サービスはまったく違う内容と認識する必要がある」とした上で,看護職が質のよい看護を提供すればするほど,利用者は評価しないという事実があることを指摘。すなわち,看護職が力を使わなかったように見せかけ,利用者が「自分の力で回復した」と思わせる援助が最も質の高い看護であり,看護本来のあり方で,「私がしてあげた,これをしなさい」という看護サービスのあり方は質の高い看護とは言えない。受益者にとっては,「してもらった」サービスが目に見えなければ評価の対象とはならず,価格として反映されない。それゆえに,「看護サービスは業として成り立たない」と立証した。
 加えて岡部氏は,「介護保険の実施に伴い,対象からはずされた高齢者のヘルスケアにも注目すべき」と発言。要介護予備軍に対して,広く保健指導や健康教育をしていくことが看護職の役割であり,保健予防活動には,公的な費用を惜しみなく投入していかなくてはならないとし,「看護をサービスとしてはいけない」と主張した。

参加者に問うた賛否

 その後,第2立論を肯定側から押川氏が,否定側からは大島氏が述べた。
 押川氏は,聖路加国際病院の訪問看護科の動向を紹介。スタッフの意識改革を行ない,医療経営感覚を身につけることで病院内外からの評価を得ることができ,訪問看護がサービス業として成り立つことが実証できたと報告。その上で,介護保険の実施に伴い訪問看護サービスに対してはさらなる需要が見込まれること,民間の訪問看護サービス事業が成功している例をあげ,「看護はビジネスとして成り立つ」と述べた。
 一方大島氏は,現行の国民皆保険制度による平等性の利点をあげ,国民の権利としての医療の保証を強調。サービスを「売り物」とした場合,一部の金持ちが優遇される市場原理を危惧する発言を行なった。ホテルや飲食店などの一般サービス業は,買い手と支払い者が同一で,満足・不満足の評価は明確だが,看護の場合は買い手とサービスの受け手が違うという矛盾がある。看護は本来の救済事業としての要素を重視して,患者中心のニーズ充足を第一義に考えなければならない。専門職として,国民の平等性を保証する上でも,「看護をサービス業としてはならない」と主張した。
 その後,反論・最終弁論が行なわれ,否定側は「看護サービスを否定するのではないが,強者が勝つという競争原理のもとのサービス業となれば,看護のアイデンティティが損なわれることを危惧する。介護サービスの上をいく看護が業としていくためには付加価値,目玉商品を用意しなければならず,専門性,独自性を出した看護がサービスとして成り立つのは,一部の金持ちの間だけ。援助行為や自助回復能力をめざすのが看護本来のあり方であり,看護はサービス業としては成り立たない」と結んだ。
 一方の肯定派は,「社会は看護を重要だと思っていることに,ビジネスとして可能性,将来性の保証がある。可能性,将来性がある産業は必ず成功するという土台がある。企業が看護職を迎え入れることは看護の質が高く評価されたことであり,サービス業としての看護が認められたと認識すべき」主張。「今が,看護がサービス業として成り立つ絶好の機会であり,看護独自の発展をする時代である。まずは行動を起こすことが重要」とまとめた。
 なお,30グループに大別された会場の参加者は,本ディベート終了後に肯定・否定の意見をグループ代表(判定者)に伝え,評決。その結果,ディベートの応酬では否定派側に理があったように思われたが,26対4で肯定派側に軍配が上がった。