医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 近ごろ,めっきり薄くなったもの

 栗原知女


 近ごろ,めっきり薄くなったもの……と聞いて,即座に「求人情報誌」を思い浮かべる看護職はほとんどいないだろうが,世は絶望的なまでの就職難である。
 先日,「私たちにも平等にチャンスを与えて!」と企業に訴える女子大生グループの姿がテレビに映し出された。女子にだけ会社案内が届かない,会社説明会に入れてもらえない,面接でセクハラまがいの嫌がらせの質問をされるなど,あからさまな差別があるというのである。しかし彼女たちは,怒りの半分以上を先輩の女性たちに向けるべきであった。
 「女性は育ててもすぐに辞めるから当てにならない。採用するだけムダだ」
 私は就職情報誌やビジネス誌などで,もう10年以上,採用や教育をテーマに記事を書いてきた。しかし,相も変わらず取材先の企業の人事担当者からは,この種のボヤキを聞く。なんという進歩のなさだろう。
 「女性といってもいろいろだ。十把一からげに見るのはやめてほしい」と企業に対して訴える一方で,女性には,「1つの会社に腰を据えて,ある程度の期間働かなければ,本当の意味での仕事のおもしろさはわからないし,成長もない」と,私はさまざまな場を借り主張してきた。その会社を選んだのは自分自身の責任である。辞めるにしても,後継者を育て,責任を全うしてからにすべきだ。自分の可能性を活かしきれない会社を選んだことを反省し,その上で必要があれば資格や職業技能を身につけて,次の就職先を選ぶべき……とも訴えてきた。だが,最近,どうにも虚しい。
 自分の都合でいとも簡単に会社を辞める女性たちは,恐ろしいほどワンパターンである。クリエイティビティのかけらもなく,仕事は常に誰かが与えてくれるものだと思っている。「やりさえすればいい」と思っている。「よりよく」という工夫がなく,心がこもっていない。あるのは不満ばかりで,「仕事がおもしろくないのは会社のせい」と考える。
 不況のせいかどうか,人の心も最近,ずいぶん薄っぺらになってきたなあ。
 あなたたちは仕事を創造しているか!
 価値を創造しているか!

 声を大にして問いかけたい。女も男も,自ら新たな価値を創造することなしに,組織に言われるまま,なされるがまま,べったり依存する人があまりにも多い。
 先の女子大生のデモにしても,「企業にチャンスをよこせ」と叫ぶ前に,「自分に何ができるのか」を示すべきではなかったか。会社に対して,また,社会全体に対して,将来どのような価値をもたらすことができるのかを……。
 せめて,看護職の仕事はクリエイティブであってほしい。人は1人ひとりが皆異なるのだから,その違いにキメ細かく対応したケアを創造していってほしいと願うばかりだ。「仕事はワンパターンでつまらない」ではなく,いかにクリエイティブなものにするかはあなた次第なのだ。新しい発見と出会いを感じ,そこから何かを学びとろうとする姿勢を,どうか失わないでほしい。

〔プロフィール〕
1959年東京生まれ。労働省認定中級産業カウンセラーの資格を持つフリーライター。執筆活動のかたわら,ハローワークなどで再就職セミナーの講師も務める。主著に,『女は好きな仕事で輝きたい』(女性文庫),『受かる履歴書・経歴書の書き方』(日本法令),『トクする資格の選び方』(大和出版)など。趣味で社会人ロックバンドにも参加,なお担当はヴォーカルである