医学界新聞

 

自立・変革・連携から次代へ向けて

第25回日本看護研究学会開催


 第25回日本看護研究学会が,さる7月30日-8月1日の3日間,田島桂子会長(聖隷クリストファー看護大)のもと,「次代を拓く看護の力-自立・変革・連携」をメインテーマに,浜松市のアクトシティ浜松で開催された。なお,今学会では地域看護,看護教育,看護管理,小児・母性・老人・精神看護などの領域から,328題に達する一般演題発表が行なわれたのをはじめ,多彩なプログラムが企画された。

アメリカが抱える看護の課題

 初日には,Ada Sue Hinshaw氏(ミシガン大)による招聘講演「次代の看護教育のあり方-米国の医療・看護環境の変化をふまえて」が行なわれた。Hinshaw氏は,21世紀の看護教育の課題を提示するとともに,アメリカが直面している看護に与える医療改革の影響から,ヘルスケアの新時代が起こっていることなどを解説した。
 また,大学院教育レベルである上級看護実践看護職(APN:Advanced Practice Nurses)の役割を紹介し,大学院生との競争が激化していることや,CNSとの相違点などにも触れるとともに,APNに求められる知識として,上級ヘルスフィジカルアセスメント,上級生理学と病態生理,上級薬理学を指摘した。アメリカにおける博士課程の課題としては,(1)博士課程の質,(2)将来の研究,教育,サービスが果たす役割を考慮し,バランスの取れた準備ができるようにする,(3)研究や保健医療政策のための博士課程における早い段階での準備などをあげた。さらに,博士課程修了後の教育(Post Doctoral Education)の重要性を述べるとともに,「看護教育者には,特に実践の場での経験が重要」と示唆し,「21世紀に向けて,日米がともに手を携えて研究を押し進めて行こう」とエールを送った。
 その後には,教育講演「医療保健の改革とこれからの医療」(日本福祉大川渕孝一氏)も行なわれた。

不可欠な教員教育を指摘

 2日目には,会長講演「次代を拓く看護職者の教育」とシンポジウム1「看護教育の改革-自国の特色を生かした教育課程の構築と国際交流」が行なわれた。
 会長講演で田島氏は,これからの看護職者に求められるものとして,「あらゆる場での看護実践能力,事象の観察力と推測を基盤とした問題意識と改善のための意欲,変化・変革に対応するための創造性,看護独自の理論構築と看護方法の開発能力,関連職者との円滑な連携,地球環境を視野に入れた連携の必要性を認識すること」をあげた。その上で,「少子化時代における学習者の確保,通信技術の開発に伴うインターネットによる授業」などの看護専門教育上の課題や,「基礎技術の確実な学習と看護実践能力を高めるための学習,人とのかかわりを地球規模で考える学習」などの学習課程で求められる内容を提示。さらに,教育者に意識改革が必要との視点から,(1)教育内容の選定にかかわる発想の転換,(2)教育方法にかかわる発想の転換,(3)教育対象の自己教育力の有効活用,(4)教育者の有効活用,(5)教育の場の拡大,(6)各段階における教育の接続の必要性を指摘。また,「教員教育は不可欠である」とした上で,「21世紀の看護は,人々の健康で豊かな生活を護り,かつ地域に根ざしたケアを行なうこと」とまとめた。
 シンポジウム1(座長=三重県立大 前原澄子氏,新潟大医療短大 尾崎フサ子氏)では,アメリカ,韓国,日本(名大 小玉香津子氏)から3者が登壇。さらに吉武香代子氏(千葉大)が特別発言を行なった。

医療・看護の変革に向けて

 なお3日目には,特別講演「経済学者が見た日本の医療-中央医療審議会委員での経験から」(京大名誉教授 伊東光晴氏)やロビーでの自由参加の「外国講演者との交流」,「研究メンバーを募る会」が企画された他,最終プログラムとしてシンポジウム2「医療・看護の変革に向けて問われるもの」(座長=千葉大 草刈淳子氏,名大 中木高夫氏)が開催された。
 シンポジウム2は,(1)病院が急性期(短期)医療と慢性期(長期)療養の2分化に再編されつつある,(2)在院日数短縮のための在宅ケアへの円滑な移行,(3)介護保険の実施,(4)DRG/PPS(疾患群別包括支払い方式),(5)医学・医療の進歩に伴う倫理的な問題など,看護をとりまく環境が変化しつつあり,医療は「患者主体の医療」をめざして理念から実質のレベルへ向けての転換が求められているとの視点に立ち,医療経済,生命倫理,看護行政,在宅看護,病院管理の5側面からの方向性を見出そうと企画された。
 まず,医療経済の立場から池上直己氏(慶大)が登壇。「日本における医療政策決定には,前年度の実績が基本となっており,その調整は中医協などで行なわれる」と述べ,医療保険制度,医療費支払い方式の現状や基本改革構想から,これからの包括料金改定の指標,高次機能病院に対する新しい支払い方式の予測を行なった。
 生命倫理の視点からは加藤尚武氏(京大文学部)が,遺伝子治療における倫理性,クローン人間,臓器移植の問題などを解説。「医療の中での観察と観測が,医師・看護職と患者との直接対話から,器械・コンピュータを用いた診断に変わってきている」ことを憂慮するとともに,「看護職にホームドクターの資格を与える」との提言を行ない,その取得の可能性について語った。
 看護行政から田村やよひ氏(厚生省看護課)が「医療への主体的参加など患者意識が転換しつつある」と発言。「看護には総合的なサービスニーズによるケアシステムの構築が求められている」と指摘した。また,日本看護協会の認定・専門看護師制度の成果や厚生省の実際的な取り組みを紹介するとともに,「研究結果を行政に反映すべく,政策研究の実証を」と述べた。
 在宅看護の立場からは,開業ナースの村松静子氏(在宅看護研究センター)が,「自立していない看護職,自身を評価する必要がないと考えている看護職が増えている」と辛口発言。その上で「看護職のリストラはすでにアメリカや国立病院で始まっており,規制緩和・介護保険実施によりさらに助長されることを看護職は自覚しなければならない」と示唆した。また,在宅看護は「1対1」で行なうことが基本であるとし,アメリカのナースプラクティショナーやフランスの「自由開業看護婦制度」を紹介した上で,日本での1人開業の可能性を論じた。
 病院管理の立場から西村昭男氏(日鋼記念病院)が,「医学と医療における“はざま”と“いびつ”は,医師のパターナリズムによる裁量権の強化・拡大,厚生行政の時代的変革の遅滞による不整合,国民の医療サービス消費者意識の未成熟性などが遠因」と指摘し,「それに対処すべく医師の意識改革が必要」と強調した。また,「新しいパラダイムである“医療科学”」についての解説を加えた。
 さらに,特別発言者としてPhyllis R. Easterling氏(聖隷クリストファー看護大)も登壇。フロアと演者とのディスカッションも盛り上がりをみせ,熱い討論が交わされた。
 なお,次回は明年草刈淳子会長のもと,千葉市で開催される。