医学界新聞

 

連載 クリニカル・クラークシップ
-新しい医学教育への挑戦 第7回

医学教育ワークショップ


お互いに高め合う

 「幼少期から現在に至るまでを振りかえり,印象に残った『学習・教授体験』を絵またはイラストで描きなさい」
 1/4サイズの模造紙を渡された参加者たちは,初めは少々戸惑い気味だったが,じきに熱心にペンを踊らせはじめた。本年1月,東海大学医学部卒前医学教育ワークショップでのことだ。
 すでに多くの大学で実施されている「医学教育ワークショップ」では,冒頭にこのような作業をよく行なう。絵を描くことによって『望ましい学習活動』を考えさせる狙いもあるが,最大の狙いはアイスブレーキング(参加者同士で打ち解けること)だ。
 これらのワークショップは,Faculty Development(FD)を目的としている。「FDとは効果的な教育をめざして,教育者がお互いに教え合い,学び合い,高め合っていくこと」(黒川清東海大医学部長)であるが,そのためには忌憚なく意見の交換ができるような雰囲気作りも大切だ。日本の大学医学部は各医局間の垣根が高く,それを越えた率直な意見交換がしづらいと言われる。だが,垣根を取り払った積極的な討議を行ない,共通理解を作り上げることができなければ,FDは推進できない。

問題点の洗い出しと克服

 アイスブレーキングの後に,本題に入った。東海大における医学教育上の(特にクリニカル・クラークシップの)問題点の洗い出しだ。
 「教育スタッフには目標が見えていない」
 「仕事が上から降ってくるような進め方では,教員の参加意識も高まらない」
 「積極的にこの方策を支持するようなスタッフの理解が必要だ」
 「個々の教員間で指導内容のばらつきが大きい」
 グループによる問題点の整理→発表→全体討議の作業の中では,教員側の問題点も厳しく指摘される。一方,「学生は国家試験合格のことばかり考えている」,「積極性のない学生が取り残される」,「教育スタッフの数が足りない」など,簡単には解決するのが困難な問題も浮き彫りになる。
 本ワークショップでは,さらにこれら具体的な課題を克服すべく,学習目標,方略,教育評価の検討などの作業,さらに本年度からクリニカル・クラークシップの評価として導入が予定されているOSCEの演習なども行なわれている。
 2泊3日の本ワークショップでは,教員たちは連日遅くなるまで作業に取り組んだ。医学部長の黒川氏も全日程に参加。「作業で得られた成果を可能なものから教育現場へフィードバックしていく。必要ならば制度も改変する」とFDの推進に意欲を隠さなかった。

 
テーマごとに学習目標・方略を検討
設定した学習目標に到達するために必要な,教育の順序,方法,行動目標,場所,対象者数,人的資源,物的資源,時間などについて詳細な検討を行なった
 導入が検討されているOSCEの演習
写真は外科基本手技。教員自らが受験生役も務めた