医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


介護保険下における臨床医の役割を明解に

介護保険ハンドブック
かかりつけ医のために
 橋本信也,前沢政次 編集

《書 評》徳永力雄(関西医大教授・衛生学)

 2000年4月からの介護保険のスタートは,単に福祉行政の改革というに留まらず,わが国の保健医療のあり方や経済の仕組みにも影響する,画期的でかつきわめて重要な社会政策の施行を意味している。医療界では,一部の関係者を除いて,「お年寄りの介護が保険で行なわれるようになる…」といった程度の軽い気持ちで受けとめられている気配があるが,この制度が動き出すと38年前に国民皆保険が達成された時以上に,広範囲にしかも長期的にいろいろな変化が現れるのは必至であろう。
 このような時期に,橋本信也先生と前沢政次先生の編集で,「かかりつけ医のために」と銘打った本書が出版されたことは,誠に時宜を得ている。かかりつけ医ばかりでなく,病院や大学の勤務医,医学生にとっても大いに有益な本と思われる。

介護保険を短時間で把握する

 本書は,9人の著者の分担で8章と資料編から構成されている。200頁に満たないにもかかわらず,よく練られた章立てで,取っつきやすく,わかりやすく,要領よく記述されており,介護保険制度の概要が短時間で把握できるように工夫されていると感服した。
 第1章は,高齢者ケアに求められる理念と題して,症例,ケアの概念,ケアのあり方について説明している。第2章は,介護保険制度の概要を行政の立場から解説しているが,形式的でなく要点がよくわかる。第3章は要介護認定と医師の役割について述べ,要介護認定という,文字どおり医師が果たす最も重要で責任を伴う任務について簡明に示されている。第4章は,チームで行なう介護の柱となるケアプランの作成の実際について,また第5章ではケアマネジャーの課題について的確簡潔に説明している。第6章は,介護保険にかかわる職種とその役割について,各職種の専門性と職種間の協調と連携の重要性が,読み手にすーっと伝わってくる記述となっている。第7章は介護保険施設とその機能について,福祉と医療の統合のための今の時点における各施設の機能が紹介されている。最終章の第8章は,要介護高齢者に対する医学的管理と題し,高齢者の生理,症候,頻度の高い疾患,薬物治療,リハビリテーション,インフォームド・コンセントに分けて要点が記されている。

一流の専門家による実効的な入門書

 言うまでもなく,介護にかかわる知識と技術は年々蓄積されており,また介護保険制度に限っても審議中の事項も含めて医師が知っていなければならないことは多い。それらを,総括的に紹介している成書も多いが,制度がスタートせんとしている現時点においては,まずは制度の形と内容を知り,それを支えるマンパワーとその役割を知ることが大切である。とりわけ臨床医は,これまであまり馴染みのない福祉に意識を向け,自らのこととして受けとめながら実践に入っていくことが求められる。そのような意味で,本書は,この道の一流の専門家が分担記述した身近で実効的な入門書となっている。好書として推薦したい。
A5・頁200 定価(本体2,400円+税) 医学書院


炎症性腸疾患の百科事典

炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎とCrohn病のすべて
武藤徹一郎,他 編集

《書 評》多田正大(京都がん協会副所長)

日本のIBD診療のスタンダード

 最近,炎症性腸疾患(IBD)が目立って増加している。しかし早期発見・治療で完了する大腸腫瘍と異なり,IBDは鑑別診断も治療も一筋縄ではいかない。免疫異常が発症と治癒遷延に関与していることは明らかであるが,どう治療に結びつけるかが難しく,臨床医を悩ますところである。系統的にまとめた指導書も少ない。
 このような折,武藤徹一郎,八尾恒良教授ら,わが国のIBD診療をリードする第一人者らによって編纂された『炎症性腸疾患』が刊行された。IBDに関するすばらしい書籍が編集されているとの噂は耳にしていたが,久しく待たれていた大著である。
 本書は厚生省特定疾患炎症性腸管障害調査研究班によって永年にわたって積み重ねられた研究成果を1冊の書籍にまとめたものである。お上の主導する単行本,と言えば編者から叱られるかもしれないが,善かれ悪しかれ,本書はわが国のIBD診療のスタンダードである。実際,本書に記載された内容は,現時点で望みうるIBDに関するすべてが網羅されている。疫学から病因,病理,臨床像,治療がバランスよく配分され,まさに「平成のIBD百科事典」である。

病因と免疫学的側面を明解に解説

 特に第II章「病因・免疫」は圧巻である。これほど簡潔明快にIBDの病因や免疫学的側面をまとめた書籍は見あたらないであろう。執筆者もこの方面の研究のパイオニアたちであり,多くの研究成果を公平に判定して記述している態度に好感が持てる。研修医にも理解できるように,心憎いばかりのイラストが駆使されているし,引用文献も豊富で,進歩の速いこの方面の最近の知見を検索するうえにも好都合である。すばらしい内容に感服しながら読破したが,この称讃の言葉は決して「褒め殺し」ではない。
 第VI章「内科的治療」もスタンダードな治療から先進的なアラカルト治療まで,この方面のすべてが網羅されており,本書の核心を形成する。惜しむらくはより具体的な薬物投与法を記載してほしかったが,本書の刊行の経緯から,厚生省で承認されていない治療法を記述することができなかったためであろうか?食事療法についても,さらに具体的な記述があれば臨床医は助かる。
 私はIBDの治療は全人的に行なう必要があると痛感している。経過が長く再発頻度も高いだけに,患者は精神的にもまいっていることが多い。それだけに薬物療法や栄養療法だけでは内科的治療がうまくいくはずがいない。IBDを心身症的立場から捉えた研究は散見されるが,多くの臨床医に理解されるまでには至っていない。本書でも柴田らによって数頁にわたって記載されているが,とてもこれだけのスペースではIBD患者の精神的サポートの重要性を語り尽くすことはできない。
 本書はIBD百科事典を目標とした企画であるだけに,研究の進歩とともに次々と改訂,増補を加えて,息の長い指導書として後世まで語りついでほしい。医学研究にはひときわ厳しい編者であるから,本書の記述が劣っている個所,内容が陳腐になっている所は既に気づいておられることであろう。いつの日にか改訂版を出版してほしいし,その際には,地味な臨床研究にも頁を割いてもらいたいと希望する。
 いつまでもIBDの指導書として君臨するであろう大作,それだけに辛口の書評となったが,本書はIBD診療にはなくてはならない書籍であるから,1人でも多くの臨床医,研究者に熟読を希望する。
A5・頁320 定価(本体13,000円+税) 医学書院


スポーツ医学に携わる人のための手引書

ヒューストンクリニック スポーツ現場の医療マニュアル
チャンプ・L・ベイカー,Jr. 編著/桜庭景植 訳

《書 評》高澤晴夫(横浜市スポーツ医科学センター長)

スポーツ医学の先駆者による記述

 『ヒューストンクリニック スポーツ現場の医療マニュアル』(チャンプ・L・ベイカー,Jr.編著/桜庭景植 訳)を手にした時,これはすばらしい本であるとの第一印象を受けた。
 まず,本書が,世界的にもスポーツ医学の領域で有名なヒューストンクリニックにおける研究と経験に基づいて書かれていることである。ジャック・ヒューストン博士は整形外科医であるが,スポーツ医学ではアメリカにおける先駆者であり,そのスタッフいずれもこの方面での数々の業績をあげている上に,フットボールをはじめ,スポーツの現場で活躍している人たちである。
 それに加えて訳者の桜庭助教授は,所属する順天堂大学のスポーツ健康科学部の学生をはじめ,明治大学ラグビー部,トヨタ自動車バスケットボール部などのチームドクターをしておられ,スポーツ現場の医療に携わり,多くの経験をされている。そのため邦訳も明解でわかりやすく,さらに訳者の柱が挿入されているのも有難い。

スポーツ傷害からリハビリテーションまで

 本書に記されている項目は,最初は試合などにおける救援体制で,ドクター,トレーナーなどの医療チームの具体的な役割などについてである。メディカルチェックでは,競技への参加を禁止すべき身体状況を種目ごとに,また,フィットネステストの結果についても種目,ポジション別に評価するとともに,技術と体力評価は,現場では必ずしも一致しないことを認識する必要があると述べている。脊椎,肩関節,膝関節をはじめとするスポーツ傷害については,損傷機転,現場での処置,その後の臨床所見,検査,治療,リハビリテーションなどについて具体的に書かれているのみならず,スポーツ復帰についても詳細に述べられている。
 このようなことから,本書を誰よりも一番読んでもらいたいのは整形外科学会認定スポーツ医であり,さらに理学療法士やスポーツトレーナー,体育学部学生にも有用な書である。
A5変・頁424 定価(本体6,500円+税) MEDSi


不整脈診療に携わるすべての医師に

心房細動・粗動・頻拍
早川弘一,笠貫宏 編集

《書 評》外山淳治(愛知県立尾張病院長)

心房細動に関する知識を1冊に

 心房細動に悩む人は全国で60-100万人いると推定される。しかもその発症は年齢とともに幾何級数的に増加することが疫学的に証明されているので,高齢化が急激に進んでいるわが国では,心房細動の管理・治療が循環器のトピックスとしてますます注目を浴びるようになった。
 本書は上記の社会医学的な背景を踏まえて企画され,心房細動の歴史,疫学,病理,機序,自然歴,合併症,診断,治療に関する最新知見が網羅されている。
 それぞれの章には,その内容に関するトピックスが新進気鋭の研究者の筆で解説・紹介されているところが興味深い。心房細動は,それが発症してから時間が経過すれば,それだけ除細動が難しくなるが,その機序は不明であった。最近の詳細な電気生理学および分子生物学的研究により,細動状態の心筋のイオンチャンネルの発現が修飾を受け,心筋電気的性質が変化することが細動維持に重要であるとの解説がわかりやすく書かれている。

治療と予後を病態別に解説

 心房細動の管理・治療は一般の内科医ばかりか,循環器専門医の頭を悩ますところである。自覚症状の強い発作性心房細動の治療として薬物,電気的除細動,電気的焼灼,ペーシングなどに分けて筆者が手がけた症例,証拠に基づいて手際よくまとめられている。
 心房細動は,他に認めるべき基礎心疾患を持たぬ孤立性心房細動と,虚血,弁膜症,心不全などに合併した心房細動に分けられるが,それを管理・治療する際に両者の間ではその方針は大きく異なるので注意が必要である。本書ではこれに十分に配慮して企画がなされ,心房細動の治療と予後を病態(基礎疾患)別に解説しており,ベッドサイドでの実用性を高めている。
 日本循環器学会は,重要な循環器病に関する治療ガイドラインを作成する学術研究活動を行なっており,1999年度からは「心房細動治療ガイドライン」作成のための研究班が発足したが,本書がその研究活動のバイブルとして活用されるものと期待する。
B5・頁432  定価(本体15,000円+税) 医学書院


外科臨床(practice)に必携の書

新臨床外科学 第3版
森岡恭彦 監修

《書 評》小川道雄(熊本大教授・外科学)

 新入局の研修医に対して,毎朝6時半から1時間早朝講義をしている。その中の1回のテーマは「運のいい医者は努力している-医師は死ぬまで勉強を続けなければならない」である。教材としては1980年発行の学生用の教科書から昨年発行の教科書までの「肝細胞癌」の頁を使う。1980年の教科書にはウィルス肝炎の記載はまったくないし,治療も外科的切除か,肝動脈結紮,門脈結紮,抗癌剤持続動注である。1989年にはB型肝炎がようやく出てくるが,しかしC型肝炎は1993年になるまで教科書には取りあげられていない。順を追って読ませるから,その進歩がよくわかる。「学生時代に習ったことはその時点で正しい。しかしその後の進歩を常に取り入れていかなければ,あっという間にその知識は時代遅れとなり,とり残されてしまう。医師は死ぬまで勉強を続けなければならない。そのために最新の,しかも充実した外科教科書を買って,常に参照するようにせねばならない」と締めくくっている。

臨床の場でその日から役立つ

 今回刊行された『新臨床外科学』第3版は,監修の森岡恭彦先生が「序」で述べておられるように,bed sideで役立つように作られた実用書である。第2版までとは異なり,総論のほとんどの項を省き,臨床の場で,実際にその日から役立つようにまとめられている。
 各章はまず臓器ごとに,「診療のコツとピットホール」,「検査のベストチョイス」,「手術術式」が冒頭にあり,ついでその臓器に発生する各疾患について,「病態理解のキーノート」,「診断へのアプローチ」,「治療のストラテジー」と続く。記載はきわめてコンパクトであるが,十分な情報があり,しかもわかりやすいシェーマや写真が豊富に掲載されている。そして最後には主要な文献が,その内容についてのコメントを付して集められている。より詳細な知識が必要となったらいつでも検索できるように,という監修者や編者の配慮が感じられる。
 欄外には“current topics”として,いま学会で取りあげられ討論されているような最新のトピックスが,数頁ごとに解説されている。この項だけ読んでも,今後の外科臨床の進む方向がわかるように思える。

最新の外科治療をcatch up

 本書の内容は外科の専門医試験を受けるクラスを対象としているようだが,ローテーション研修医や賢明な高学年の医学生でも十分理解しうるものである。外科研修の間,本書を常に座右に置いて,ボロボロになるまで読むなら,専門医試験に必要な項目はすべて学ぶことができよう。さらに実地医家にあっても,一生の間,本書の最新版を机上に置き,診療の際にはその時,その時に該当する項目を読むことによって,常に外科の最新の治療をcatch upすることが可能である。
 このようなコンパクトでしかも実地診療に役立つ充実した書物をまとめられた編集の諸先生に感謝し,外科臨床(practice)に必携の書として,本書をすべての外科医,研修医にお勧めするものである。
B5・頁900  定価(本体18,000円+税) 医学書院


日常診療の中で女性ホルモン補充療法を活用する

臨床医のための女性ホルモン補充療法マニュアル
閉経前後のCareとCure 第2版
 青野敏博 編集

《書 評》大濱紘三(広島大教授・産婦人科学)

 わが国の高齢化社会は今後ますます進むと思われるが,中でも女性の高齢者数の増加は著しく,それに対する産婦人科からの取り組みが注目されている。従来から「産婦人科は女性の一生を通しての健康管理に当たる」ことを目的にしてきたが,実際の医療内容をみる限りでは高齢者に対する医療を積極的に展開してきたとは言い難い。更年期女性ですら,「産婦人科は妊婦検診を中心にしている」と理解して産婦人科を敬遠し,他科での診療を受けているのが実態である。

中高年女性の健康増進とQOLの維持に

 女性ホルモン補充療法は更年期障害の軽減に止まらず,中高年女性全般の健康増進とQOLの維持にとってきわめて有効であると考えられており,欧米各国のみならずアジア諸国でも急速に普及しつつある。しかしわが国では,日本更年期医学会や日本産科婦人科学会の努力にもかかわらず,閉経女性の1.5%程度が本治療を受けているに過ぎない現状にある。
 青野教授はわが国を代表する世界的な内分泌学専門の産婦人科医であり,早くから女性ホルモン補充療法の有用性と必要性を認識され,1994年に教室員の分担執筆として本書の第1版を発行され,啓発・教育活動を展開された。その後も教室の更年期外来で臨床実績をあげられるとともに,関連学会の動向をくまなく把握され,わが国での女性ホルモン補充療法はいかにあるべきか,どのような取り組みが健全な形での定着を促進するかについて熟慮してこられた。第51回日本産科婦人科学会総会でのランチョンセミナーにおいて,女性ホルモン補充療法に関する先生の考えの一端を公表され,それに対して出席者から多くの賛同的意見が述べられた。

関連科と協力した診療体制の確立

 今回,本書の第2版を出版されたが,その内容を読んでみると,女性ホルモン補充療法に対する青野教授の真摯かつ情熱的な考え方を理解することができる。この治療法は中高年女性に共通した健康の問題を考える端緒であり,それを突破口にして,産婦人科と関連科が協力した診療体制の確立が望ましいとする青野教授の考えも示されている。例えば,骨粗鬆症や高脂血症あるいは鬱や痴呆などの各項目について,産婦人科はどこまで担当し,どこから他の専門科の診療を受けるのがよいかが示されているのもその現れである。第1版発行から5年の間に変更されたり新たに制定された骨粗鬆症の診断基準や高脂血症の治療基準なども加えられ,内容の一層の充実が図られており,マニュアルを超えて教科書としての役割も果たしている。もちろん臨床医にとっても痒いところに手が届くような具体的な形で処方,出血対策,検査項目,注意すべき点なども記されており,この分野に多くの経験を持たない医師にとっても理解しやすいものになっている。
 ぜひ1人でも多くの人に読んでいただき,日常診療の中で女性ホルモン補充療法を活用していただきたい。そして本書により,多くの女性が女性ホルモン補充療法の恩恵に浴することを心から期待したい。
A5・頁236 定価(本体4,200円+税) 医学書院