医学界新聞

 

「現代社会と産業精神保健」をテーマに

第6回日本産業精神保健学会開催


 第6回日本産業精神保健学会が,さる7月2-3日の両日,大森健一会長(獨協医大教授)のもと,宇都宮市の栃木県総合文化センターで開催された。
 昨今の不況の波は,産業界ばかりでなく社会全体を巻き込み,いわゆる「リストラ」に代表される人員整理や組織改変を引き起こしている。このような状況を背景に開かれた今学会は,メインテーマに「現代社会と産業精神保健」を据えた。
 今学会では,このメインテーマにそって,会長講演「働く人々の自殺について」をはじめ,特別講演「現代社会と企業人の心性」(国際医療福祉大 小田晋氏)や,ワークショップ(1)「出社困難症」,(2)「職場復帰」,シンポジウム「不況と産業精神保健」などが企画された。

急増する中・高年齢男性の自殺の予防と治療の視点

 先頃発表された厚生省の統計によると,男性の平均寿命がマイナス成長となったが,その大きな要因として「中・高年齢男性の自殺の急増」が指摘されていた。
 大森氏は,1998年の人口動態調査から,日本人の死因の6位を占め,前年比35%増(3万1734人)と,初の3万人を超えた自殺に焦点をあてて会長講演を行なった。氏は,特に中・高年齢男性の自殺者が急増し,40代4033名(前年比33%増),50代5967名(同54%),60代4018名(同49%)と,それぞれが悪性新生物に次いで死因の2-3位(30代では1位)を占めていると報告。なお,これまでの最高は1983年(円高不況)の2万4985人であったが,「自殺者の急増は経済不況と完全失業率に比例している」と指摘した。また氏は,その原因として会社倒産,リストラ,過労,孤立,孤独をあげ,不況による企業崩壊が最も大きなポイントとした。
 また,その予防と治療の視点からは,(1)自殺サインを読む,(2)開かれた上下関係,(3)自殺は自殺を呼ぶ,(4)アルコール依存予備軍に注意,(5)利用しやすい相談室,(6)プライバシーの保護と秘密主義の違い,(7)チーム医療の重要性,(8)職場の精神障害に対する偏見の除去,(9)職場を休むことの決断,(10)治療の糸の切断,(11)家族との連携,(12)役に立つ存在という認識の12項目について解説。うつ病の傾向にありながら「老年性痴呆」「過労」と診断する内科医が少なくないことや,「自殺をしない」という約束を取りつけることの有用性を述べるとともに,自殺が多い消耗性うつ病患者を例にあげ,その治療法を紹介した。