医学界新聞

 

“暖かいこころで満たす医学教育”を基調テーマに

第31回日本医学教育学会開催


 第31回日本医学教育学会が堺隆弘大会長(武蔵野赤十字病院院長)のもと,さる7月29-30日,東京・中野区の「なかのZERO」において開催された。15年振りに病院長,しかも臨床研修病院の病院長が大会長を務めた今大会は「暖かいこころで満たす医学教育」を基調テーマに掲げ,加賀乙彦氏(作家・医師)の特別講演「医師の倫理」,体験コーナー「mini-OSCE」の他,特色のあるパネルディスカッション,ワークショップ,および90題におよぶ要望演題と一般演題が企画された。
 特に,看護教育の向上に長らく携わってきた川島みどり氏(健和会臨床看護学研究所)と小山眞理子氏(聖路加看護大)をパネリストに迎えたパネルディスカッション「医学教育と看護教育-それぞれが大切にしているもの」はかつてないユニークな企画。これまでややもすれば意思疎通の不足が指摘されがちだった「医学教育と看護教育」が共に相携えて「それぞれが大切にしている“教育”」が熱心に討議され,両者の教育に深く関わってきた日野原重明聖路加国際病院理事長(同学会名誉会員)も聴衆として参加した学会場から大きな賛辞と期待が寄せられた。

 

パネル「医学教育と看護教育-それぞれが大切にしているもの」(左より川島みどり氏,小山眞理子氏,聖マリアンナ医大・村山正博氏,北大・大滝純司氏,明石市立市民病院・福間誠之氏)
 今大会のプログラムは,上記のパネルディスカッションの他,「医療人の育成-適性を選ぶ・暖かいこころを育む」「臨床教育における大学病院と一般病院の連携」,またワークショップは,「Evidence-based Medicineの臨床教育-事例による模擬授業」「チーム医療の実践教育ークリティカル・パス作成演習」が企画された。
 さらに要望演題は「テュートリアル教育」「態度教育」「教育の評価」「臨床技能教育」「クリニカル・クラークシップ」「プライマリ・ケア教育」「生涯教育」,一般演題は「ワークショップ・医学教育の現状」「卒後研修」「教育方法」「看護・コメディカル教育」など,例年にも増して医学教育全般にわたった広範なテーマが網羅された。
 本号では,その中からいくつかのトピックスを取り上げる。


「医療人の育成――適性を選ぶ・暖かいこころを育む」

「周辺領域からのアプローチ」

 大会の基調テーマである「暖かいこころで満たす医学教育」に沿ったパネルディスカッション「医療人の育成-適性を選ぶ・暖かいこころを育む」(司会=武蔵野赤十字病院 日下隼人氏,大妻女子大 小池妙子氏)では,齋藤宣彦氏(聖マリアンナ医大)が自身の医学教育の実践を踏まえて,医師の育成および適性に関する医学教育全般の課題と問題点を指摘した後に,それぞれ経験や専門および経歴を異にする4氏から,「周辺領域からのアプローチ」(司会の日下氏)が試みられた。
 まず,自ら大腸癌の手術を受け,その体験を基にした手記『医者が癌にかかったとき』などの著作で知られる元日赤医療センター外科部長の竹中文良氏(日赤看護大)が,“患者の立場”に立ってみて初めて知り得たさまざまな体験や死に直面した患者の心理を顧みて,医療人の育成はいかにあるべきか,いかにあって欲しいかを示した。
 次いで,35歳で新聞記者を辞めて医大を受験し,42歳で医師になり,『記者のち医者 ときどき患者』の著者として知られる九鬼伸夫氏(銀座内科診療所・元朝日新聞社)が“そのユニークな経歴と体験”から,現在の医学教育が抱えるさまざまな問題点と課題を報告した。
 医大受験(富山医薬大)に際して99%を数学の勉強に費やした九鬼氏は,数学と物理学に偏重している現在の入試制度に疑義を呈し,同学会の「選抜検討委員会」で討議されている「入学者選抜」に関する問題に一石を投じた。また,医学生としての実体験から,「おそらく18歳(高校卒業時)でそのまま入学していたら,必ずやドロップ・アウトしていたに違いない」と述懐し,はからずも昨今話題になっている「社会人入学」や「学士編入学」,「メディカルスクール構想」などへ言及する結果となった。
 また久保成子氏(元看護婦)が“看護の立場”から,国眼真理子(駒澤大)が“臨床心理学の立場”,特に“発達心理学”の観点から,「適性を育成する」ことの重要性を指摘した。


「チーム医療の実践教育――クリティカル・パス作成演習」

 市川幾重氏(昭和大病院)をコーディネータに迎えたワークショップ「チーム医療の実践教育-クリティカル・パス作成演習」では,現代医療の不可欠かつ重要なキーワードの1つとして,近年特に注目を浴びている「クリティカル・パス」(以下,CP)の作成方法の実際が演習された。
 まず市川氏は,「CPは一定の治療のガイドラインに基づく標準化されたケアを患者に提供するためのツール」であり,「各医療職種が行なうべきケア・サービスの項目について,“投入のタイミング”と“その成果”が標準化され,それを治療者,患者双方が認知することで,不必要かつ緩慢なケアが回避でき,医療費が節約されると同時に医療の質も保障される」とCPを概説。続いて,「心臓カテーテル検査用(3日コース)」を例題として,4グループに分かれてそれぞれCPを作成。休憩の後に,各グループの討議・情報提供が行なわれた。


「Evidence-based Medicineの臨床教育――事例による模擬授業」

 ワークショップ「Evidence-based Medicineの臨床教育-事例による模擬授業」では,「EBM(Evidence-based Medicine)」研究の第一人者である福井次矢氏(京大)をコーディネータに迎え,現代医療を説くもう1つのキーワード「EBM」が取り上げられた。
 それぞれテュータを配して全体を8グループに分け,「(1)疑問点の抽出,(2)文献の検索,(3)Evidenceの質の評価,(4)Evidenceの適用性判断」というEBMの手順に沿って,JAMAやN.Eng.J.Medに掲載された事例を基にした模擬授業が行なわれた。