医学界新聞

 

〔連載〕看護診断へのゲートウェイ

【第2回】看護診断分類の持つ意味

 中木高夫(名古屋大学医学部保健学科・教授)


分類するということの意味

 分類の最初は名前をつけることです。例えば,新しい彗星が見つかった場合,発見者の名前をつけて「○○彗星」となることによって,その彗星が特定され,一般に認知可能になるのです。
 ところで,その彗星はなぜ「○○」だけではいけなかったのでしょうか?
 星には恒星や惑星,星雲など,いろいろな特性によって分けることのできる種類があって,それを名称に含むとその特性が付与され,新しく発見された星をより正確に認識できるようになるからだと思います。
 つまり,分類は単に名前をつけることだけでなく,その対象に共通する特性を,さらに詳細に系統づけた体系の中に位置づけることによって,より一層確実に存在を主張できるようになるのです。
 一般に,名前をつけることを「分類;classification」,系統だった体系の中に位置づけたものを「系統分類法;taxonomy」と言います。

看護診断分類の歴史的意義

 看護で歴史というと,いつもナイチンゲールからですが,看護診断とナイチンゲールは何の関係もありません。しかし,アセスメントの最終段階を表現するものである看護診断と同じ機能を持つものは,ナイチンゲールの著作からうかがえます。例えば,「栄養不良に陥っている兵士」(いかにもありそうな表現ですが,私の創作です)は,看護診断と同じ機能を果たしています。でも,無理してナイチンゲールに結びつけることはないでしょう。
 20世紀に入って,米国で看護の学問化が進みました。1950年代の初頭から発表されはじめた看護理論は,その大きな成果です。1960年にヘンダーソンが『看護の基本となるもの』を発表しました。14の基本的看護の構成要素は,患者さんを看護の視点でみるための枠組みを与えてくれたと言えるでしょう。
 枠組みが与えられると,ナースは患者さんをその枠組みで分析的に理解し,その理解に基づいて看護ケアを提供します。これをシステマティックに行なう方法として,1967年にユラとウォルシュが『看護過程:アセスメント・計画立案・実施・評価』を発表しました。そしてその翌年,1968年にウィードがPOSを公にし,看護過程の中で明らかになった看護プロブレムが蓄積されるようになりました。
 この時の看護プロブレムは,個々のナースに任されていました。そのため,同じ看護を必要とする現象であっても,ナースによって表現が異なるということが起こってきました。
 人ならば,少々の表現の違いがあっても,そこそこ同じイメージを抱くことが可能かもしれませんが,厳密に学問化していくにはあいまいさをできるかぎり排除すべきでしょう。まして,時代はコンピュータ時代です。全米看護診断分類会議は1973年10月に開催されましたが,これは病院情報システムに看護プロブレムを実装しようとして,その表現のあいまいさを問題視したセントルイス大学が百数十人のナースたちを招待したのです。参加者たちは,それまで臨床で取り扱ってきた看護プロブレムを持ち寄り,その意味を分析し,同じ意味を表しているものを統合して,今後はこう呼ぼうと名前を決めました。
 それまで自分たちが看護を提供してきた対象である患者さんの状態を表現し直したのですから,米国のナースにとっては歴史的必然であった,と言えるでしょう。

看護診断ラベルの表現ルール

 看護診断の名称部分を診断ラベルと呼びます。診断ラベルは,例外はありますが,基本的には一定のルールに基づいて作成されています。そのルールは〔状態を示す用語〕プラス〔修飾語〕です。
 例えば「ボディイメージ」。これは自分の身体に関する自己概念です。これ自体は,よいも悪いもないニュートラルな存在です。しかしながら,担当する患者さんのボディイメージはどうかとアセスメントすると,結果は2つ。「看護を必要としない,よい状態である」と「看護を必要とする,悪い状態である」となりました。看護を必要とするのは悪いほうですから,看護の対象がこのような状態であるということを表現する必要があります。で,修飾語の「……の混乱;disturbed」をつけて,〈ボディイメージの混乱〉となるわけです。
 〔状態を示す用語〕は,生理学的な看護診断を除いて,多くは心理学や社会学,あるいは社会心理学の用語です。ですから,これを手がかりとして,看護に必要な学問を学べばよいということになります。

看護診断分類体系から見えてくること

 看護診断ラベルに心理学や社会学などの用語が含まれているということは,その学問のくくりによって診断ラベルを体系化することができます。北米看護診断協会(NANDA)には,1986年に発表された「分類法I」と呼ぶ看護診断分類体系があります。この分類体系は不均一な深さの階層構造をとっていますが,第2レベルに注目すると共通する知識や学問で説明できます。
 2年前に提案された新しい分類法は,現行の分類体系の不均一な階層の深さを是正しようとしています。「急性」や「慢性」といった時間軸や「個人・家族・地域社会」といった対象軸,「変調」や「混乱」といった修飾軸をはじめとする6つの軸に沿って,〔状態を示す用語〕の状態を移動させて診断概念を整理するわけです。
 いずれにしても,演繹的に作られた看護診断分類体系は,わが国のナースたちが今までよくケアしてきた領域だけでなく,あまりケアしてこなかった領域をもはっきりと示してくれます。
 看護はこれまで「患者さんを全体としてとらえる」とか,「全人的にケアする」というようなことを言ってきましたが,残念ながらかなり虫食い状態で,やりやすいところだけをケアしてきたと言わざるを得ないようです。
 看護診断は,米国のナースにとっては,やってきたことに共通用語がついただけかもしれませんが,わが国のナースにとっては行なわなければならない看護の領域を示してくれるよきガイドと言えるでしょう。