医学界新聞

 

災害看護学の黎明-体験から学ぶ

第1回日本災害看護学会が開催される


 さる7月20日,第1回日本災害看護学会が,南裕子会長(同学会理事長,兵庫県立看護大学長)のもと,「災害看護学の黎明-体験から学ぶ」をテーマに,兵庫県明石市の兵庫県立看護大学で開催された。

相互支援のネットワーク作りも視野に

 本学会は,1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに組織された日本看護科学学会災害看護研究特別委員会の,「今後は学会組織としての活動が不可欠」との提言を受け,「災害看護学の知識や実践の体系化を図り,災害看護学の発展を通して,人々の生活と健康に寄与すること」を目的に昨年12月に発足したもの。本年6月20日現在,個人会員281名,組織会員84組織(病院,県看護協会等)を有し,災害看護に関する情報提供を行なうとともに,ニューズレターや年3回の学会誌発行,相互支援の基盤を作るためのネットワーク作り,「1.17行動」などの事業を行なっている。
 南会長は開会挨拶の中で「阪神・淡路大震災,地下鉄サリン事件をきっかけとして,日本人の災害に対する意識も変わり,災害発生時に看護が果たす役割も注目されるようになった。災害看護は看護という1つの分野にとどまらず,すべての分野に関係するが,まさに黎明期にある災害看護学のこれからの方向性を,地方自治体レベル,日本レベル,地球全体レベルで見つめていきたい」と語った。
 また,挨拶に引き続き,午前中にはシンポジウム「体験を踏まえた災害看護学発展のへの提言」を開催。午後からは,総会に続いて一般演題28題の発表が行なわれた。

体験から学ぶ重要性

 新道幸恵氏(青森県立保健大学長)を座長に開かれたシンポジウムには,災害時の救援活動や復旧活動に関与した経験者の実践報告から,災害看護学発展のための提言を目的に4名が登壇した。
 黒田裕子氏(三重県立看護大)は,阪神・淡路大震災の発生時より,避難所・仮設住宅での高齢者,障害者を中心に援助活動を4年間実践してきた経験から,「孤独死をなくそう,寝たきりをなくそうとコミュニティ作りをしたが,仮設住宅に足りなかったのは福祉だった」として,「今後は,地域,家庭内のアセスメントの重要性や,社会資源,福祉資源の活用を熟知するとともに実践すべき。また,これらを教育へ体系づけていくことが課題」と述べた。
 一方,近田敬子氏(兵庫県立看護大)は,阪神・淡路大震災後1年目と3年目の看護職の意識調査の結果を報告。災害の渦中にあって,見逃されがちな看護職の,被災者であるともに援助者であった生活の実態を浮き彫りにし,援助者の生活の健全性を回復・維持するために,「ゆとり,心の安定,人のつきあいなど,安寧に焦点を合わせた援助が必要」と強調した。
 国際災害活動,難民救済活動を実践してしてきた山崎達枝氏(都立広尾病院)は,その経験から「いつ起きるかわからない災害のために,シナリオのない訓練を繰り返し行なうべきである」と提言した。
 また,似田貝香門氏(東大)は,ボランティアの視点から,阪神・淡路大震災における時系列的諸相を考察し,「災害発生時には,従属的でなく,職能者としての専門職ボランティアが必要」と訴えた。
 なお,総合討論の場では,挫折感からの自立が話題になる一方,看護大学生から,海外で飛行機事故に遭い父親を亡くした後の母子関係についての体験談が語られた。