医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


No Reflow現象に焦点を当てた本格的な研究書

No Reflow現象を斬る
その病態と治療
 堀正二 編集

《書 評》杉本恒明(関東中央病院長)

 No Reflow現象を表題にした書はこれまでにはなかった。「○○を斬る」というのも医学書としては初めてではなかろうか。ちょっと手に取ってみたくなる表題である。しかし,実は本書は内容の濃い,本格的な研究書なのである。

No Reflow現象

 No Reflow現象とは血管閉塞が解除された後にも血流が再開しない現象である。血流が再開しなければ組織は確実に壊死に進む。すなわち血行再建術後のNo Reflow現象には心機能回復が望めないという大きな臨床的意義がある。
 本書においては,No Reflow現象には血球成分による微小血管の塞栓性閉塞,心筋細胞の膨化による毛細血管の圧排性閉塞,冠血管トーヌスの上昇の3つの機序があるとする。そして,基礎編は冠微小循環の解剖,神経性調節,血流の特性などの生理がこれらの虚血・再灌流障害の構成因子によってどのように修飾されるかについての最新の知見を紹介し,臨床編は臨床におけるこの現象の観察法と意義を心筋コントラストエコー法を用いてわかりやすく解説している。前編は冠微小循環の病態生理に関する著者らの積年の研究の中の関連する一部であり,後編は冠循環研究における心筋コントラストエコー法の現在の位置づけの解説でもある。

再灌流治療の成績向上に

 評者は臨床編に目を通してから基礎編を拝見したが,読者の方々にもこれをお勧めしたい。No Reflow現象の治療として,臨床編にはベラパミル,アデノシン,ニコランジル,抗血小板薬,マグネシウム,フルオソール,ジピリダモールなどについての成績があったが,基礎編には,他に一酸化窒素,カリウムチャネル薬,カルシウム拮抗薬,ラジカルスカベンジャー,β遮断薬など,多くのものの可能性が示されている。本書は虚血・再灌流障害をみるに当たっては,心筋障害の面ばかりでなく,冠血流障害の面からもみる必要があることを教えている。No Reflow現象に向けられた目が再灌流治療の成績向上につながることを願いながら,このような形での問題提起をされた著者の方々に敬意を表し,そしてそのためにも,本書が血行再建治療の実践の場で参考とされ,活用されることを期待したい。
B5・頁160 定価(本体4,000円+税) 医学書院


小児診療に従事するすべての医師に

今日の小児診断指針 第3版
前川喜平,白木和夫,安次嶺馨 編集

《書 評》柳澤正義(東大教授・小児科学)

 『今日の小児診断指針 第3版』が,8年9か月ぶりに改訂・発行された。編集者は前川,白木,土屋の3氏から前川,白木,安次嶺の3氏に代わり,各項目の執筆者も一新している。いずれも臨床の第一線で活躍している最適任の執筆者である。
 「正常発達のアセスメント」,「症候編」,「検査編-検査値をどう読むか」,「機能検査の選び方」の各章の構成は第2版と同様であるが,それぞれの項目は時代の変化に応じて整理され,いくつかの項目が追加されている。
 「心の発達」の項が「正常発達のアセスメント」に加えられ,小児期の情緒面の発達,自我の発達が詳細に記されているが,これなどは子どもの心の問題が近年の小児医療・保健の最大の課題の1つであることに対応したものであろう。本文の最後の章,「画像診断-適応と読影」は,第2版で削除されたものが復活されたのであるが,視点は第1版とは異なっており,「胎児・新生児」,「頭部」,「胸部」,「腹部」に分けられ,問題となるさまざまな疾患,病態に対してどのような画像診断法が有用かという観点から書かれている。いろいろな検査をただやってみるということではなく,最も適切な検査を正しく選択し,的確に診断するということが重要であろう。

159の「診断基準」

 さらに付録として「診断基準」が掲載されている。合計159にも及ぶ症候群や病態について診断基準が表示されているが,これだけ多くの基準がまとめられているのは,他にみた記憶がない。担当者は苦労されたことであろうと思われる。さまざまな疾患について,診断基準を確認しようと思うときに非常に便利なものであろう。このような改訂,追補がなされ,「画像診断」と「診断基準」の部分に115頁が費やされているにもかかわらず,全体では第2版より25頁しか増加していないということは,全体として簡潔な読みやすい本になったということであろう。
 ところで,病気の診断は問診による病歴の聴取,身体的診察,検査という3本柱によって行なわれる。近年は,さまざまな検査法の進歩により,診断に際して検査偏重となり,問診と身体的診察が多少ないがしろにされる傾向がないではない。病院における研修医の研修においても,自分の耳で聞き,眼で見,手で触れたことから診断,鑑別診断を考え,検査法を選択するという手順の大切さを改めて強調したい。本書は,「症候編」に最も多くの頁数を割いており,このような観点から小児診断学を学ぶうえでも有用である。

診療内容の向上に

 病気の診断と治療は臨床医学の中核をなしているが,小児疾患について,この『今日の小児診断指針』と『今日の小児治療指針』(医学書院)は姉妹編をなすものである。この両書を座右に置いて,診療に際していつも参照するという習慣は,診療内容の向上に非常に有効なものであろう。全国の小児科医,小児科研修医をはじめ,小児の診療に従事するすべての医師に心からお薦めしたい良書である。
B5・頁608 定価(本体14,000円+税) 医学書院


「臨床疫学」の正しい理解とその応用のために

臨床疫学 EBM実践のための必須知識
ロバート・H・フレッチャー,他 著/福井次矢 監訳

《書 評》日野原重明(聖路加国際病院理事長)

臨床疫学の第一人者が記す解説テキスト

 『臨床疫学-EBM実践のための必須知識』は,この方面の研究と教育の第一人者であるハーバード大学のRobert H. Fletcher夫妻とワシントン大学のE. H. ワグナー共著の臨床医学の解説テキストである。初版は1982年に,第2版は1988年に刊行されたが,1996年版の最新版は,斬新な内容に満ちたものである。それが,このたび,京都大学大学院医学研究科臨床疫学教授の福井次矢博士の監訳で出版された。
 20世紀後半の半ばから,米国とカナダで研究された臨床疫学の日本への導入は非常に遅かった。日本では,聖路加国際病院で研修医の教育を私とともに行なってきた福井次矢先生が,1983年にはハーバード大学のSchool of Public Healthに留学し,臨床疫学を日本に導入する先駆的働きをされた。
 私は,福井先生(当時は佐賀医科大学総合診療部教授)とともに,1986年に「臨床決断方法」のワークショップをA. Elstein教授などを迎えて行ない,さらに1990年には,本著“Clinical Epidemiology”の著者のFletcher教授夫妻を招いてワークショップを行なったが,当時これに関心を持つ医師は少なかった。
 その後,マクマスター大学のG. Guyatt教授がEBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医学)の名称で,臨床疫学の実地応用の論文や教科書を書いて以来,EBMが,急速に米国,カナダを中心に全世界の医学界に広まった。しかし,日本では,EBMという言葉が曖昧な内容のまま,言葉遊びがされている観がある。
 私は,福井教授とともに昨年Guyatt教授を日本に招き,若手の臨床医学の教育者,研究者のためにEBMのワークショップを開いたが,これには反響が大きかった。
 本書は,EBMを臨床医学や予防医学や看護学に生かすための必須の知識を提供する「臨床疫学」の正しい理解とその応用のために書かれた本である。
 臨床医が,疾患の診断をし,治療行動を実行する上で,患者に最も有利な結果をもたらし,また,よい結果が得られなくても,患者のQOLを高く保つように医師を導く手段を提供するのが,臨床疫学というツールと言えよう。
 本書は,まず非常に魅力的な序論(第1章)で始まり,次いで2章:異常の読み方,3章:診断的検査結果の解釈の原則,4章;曖昧な頻度の定量的な表現,5章:リスクの分析,6章:予後の判定や記載法,7章:治療の有効性の判定,8章:定期健康検査の内容の有意義な選択と評価,9章:臨床観察における偶然の評価,10章:症例報告の活用法,11章:疾病の原因の分析,12章:総括-EBM実践のために読むに値する評価の仕方,という構成になっている。

優れた臨床医によるテキスト

 EBMという流行語が無責任に医学界に使われないようにし,患者のいのちを尊重して患者にケアを与える上で,また,今後の臨床医学の堅実な発展のためには,癒やしの倫理をわきまえた優れた臨床医によって見事に書かれたこの『臨床疫学』のテキストが,医学・看護学生にも,また卒後研修医や生涯教育をめざすすべての医療者にとって必読書であることを信じてこれを推薦したい。
A5変・頁304 定価(本体5,700円+税) MEDSi


肺血栓塞栓の理解に最適の1冊

肺血栓塞栓症の臨床
国枝武義,由谷親夫 編集

《書 評》吉良枝郎(順大・自治医大名誉教授)

 国枝慶應義塾大学教授,由谷国立循環器病センター臨床検査部長お2人の編集で,このたび『肺血栓塞栓症の臨床』が刊行された。国枝教授が国立循環器病センターから伊勢の慶大附属病院に赴任されるに当たって,同氏らが1977年の国立循環器病センター開設以来20年余の間に集積してこられた肺血栓塞栓症例を基礎としてまとめられた本症のモノグラフである。9人からなる執筆者は,国枝先生と共同してこれらの症例を検討してこられた同センターの内科,外科,臨床検査科,放射線科のスタッフの方々である。本書評を書く機会をいただいた筆者も,かつて一緒に仕事をした医局の諸君と自験例をまとめて呼吸器疾患症例集を刊行したことがあるが,編集者はもちろん,執筆者の方々にもひとしお感慨深いお仕事でないかと推察する。
 振り返ると,150施設のアンケート調査による1964年の東大上田教授らの先駆的な報告(Jap. Heart J.5:445.),1965年の時点で日本人と米国人での本症の発症頻度の違いを指摘した九大田中教授の報告(Hirst & Tanaka. Arch Pathol. 80:365.),1969年北大村尾教授らの報告(朝日生命成人病研究所年報),そして筆者が班長を務めさせていただき1985年から3年間続いた13施設17研究者で組織した「厚生省循環器病研究委託費による研究(60公-6)“血栓塞栓肺血管疾患の診断と治療に関する研究班”」と,日本での本症症例の実態把握の努力が繰り返されてきた。当初は,診断法の侵襲性などから診断精度に検討の余地があり,適切な疫学的検討が難しく,剖検例,剖検輯報による分析が主体となってきた。しかし,これらの研究成果は一致してわが国での本症の増加を予測し,ほぼこの40年の歳月の間に,わが国での本症への関心は一段と深まっていった。

拡大しつづける本領域への関心

 これを裏づける1つの事実としてあげられると思うが,1965年以来のMEDLINEに採択されている日本語での本症についての報告を見てみると,69年までの5年間は18論文,1970-79年の10年間は64論文,1980-89年のそれは134論文,1990-99年では,99年分を収載し終わっていない5月の末において,242論文である。国枝,由谷両編者がまさに指摘しておられるように,従来海外諸国に比べ発生頻度が少ないとされたわが国においても,内科全般,整形外科,婦人科は言うまでもないが,むしろ医療全般の分野で関心が持たれ,その内容も,新しいCT,超音波,MRI,MRAなどの画像診断,血栓摘出のための新しい外科手術,免疫学的機序まで包含する凝固異常の機序の分析,DNA解析による本症の遺伝学的解析と,ますます広範な領域へと拡大し続けている。

自験例を詳細にまとめたモノグラフ

 当時の北大村尾誠教授,長谷川助教授が北大の症例をまとめられて刊行された名著『肺血栓・塞栓・梗塞症』(克誠堂出版)が出てからすでに10年余の歳月が経った。このような時点で,国立循環器病センターで苦労を分かち合った仲間が,注意深く検討した自験症例を詳細にまとめ,本症のモノグラフとして刊行されるのはきわめて意義深いことである。最新の知見まで含めた新しいモノグラフの刊行は,症例の増えた臨床の現場で活躍中の医師諸君に間違いなく歓迎されるであろう。
 本書の刊行にあたって注文するというわけではないが,非侵襲的な本症の診断法が進歩した現在,長年の懸案である,わが国での本症発生頻度に関する詳細な疫学的調査がなされ,どの程度わが国と欧米諸国との間で差があるかが明確化されることが望まれる。
B5・頁272 定価(本体8,000円+税) 医学書院


内科の基礎知識から最近のトピックスまで網羅した問題集

認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題とその解説 第2集
日本内科学会認定内科専門医会 編集

《書 評》山根清美(太田熱海病院副院長・脳神経センター神経内科)

 このたび,医学書院より『認定内科医・認定内科専門医受験のための演習問題とその解説 第2集』が発刊された。本書は,1994年に発刊された第1集,1997年の改訂第2版に続くものである。編集は日本内科学会認定内科専門医会による。この本の著者は,すべて日本内科学会認定内科専門医である。問題は総合問題,消化器,循環器,内分泌・代謝,腎臓,呼吸器,血液,神経,アレルギー・膠原病,感染症の10科目より構成されている。総合問題は内科医として必要な素養に関する問題が主体である。それ以外の科目はsubspeciality問題であるが,認定内科専門医の作成した問題なので,広い内科の知識に基づく問題の多いことが本書の特徴の1つである。

認定内科医,認定内科専門医資格取得の重要性

 日本内科学会認定内科専門医制度は,1973年に発足し,現在認定内科医3万7665名,認定内科専門医5078名が登録されている。
 現在,内科系のsubspeciality各学会は,まず認定内科医の資格を取得することをsubspeciality専門医の受験資格とする方向で進んでいる。これは認定医制度協議会による各学会の専門医の認定基準を統一化しようという方針に呼応するものであると同時に,内科系のsubspeciality専門医は幅広い内科の知識を有することが求められていることが背景にある。このことは内科系が高度に専門化したことに対する反省に基づくものである。すなわち自分の専門とする臓器の疾患について治療を成功させても,他の内科的合併症で患者の容態が悪化すれば本末転倒である。
 プライマリ・ケア医,一般内科医,総合診療医をめざす人にとっては言うまでもないが,内科系のsubspecialityを目標とする人にとって内科系の幅広い学習は重要である。そのためには,まず認定内科医の資格取得を,さらに,認定内科専門医の資格取得を目標としていただきたい。

認定内科医,認定内科専門医資格取得を志す人には必読の書

 認定内科医,認定内科専門医資格を得ることの重要性は述べた。研修病院でしっかり研鑚していれば試験に合格することは,それほど難しくはないと思われる。しかし内科系は範囲が広く,しかも急速に進歩している。いくら臨床の能力が高い人でも,試験問題では思わぬ落とし穴で失敗することがある。
 本書の著者は認定内科医および認定内科専門医の資格をすでに持ち,第一線の医療機関で現在大活躍をしている人たちである。そのため本書の問題は資格試験に合格するために必要な内科の各分野の基礎知識はもとより,最近のトピックスまで網羅されており,解説も優れている。認定内科医,認定内科専門医を志している人たちへ,本書を実際の試験のための傾向と対策を学べる最適な書として推薦したい。なお,本書の第1集はまったく別の問題で構成されており,合わせて勉強すれば,鬼に金棒といっても過言ではない。
B5・頁240 定価(本体5,900円+税) 医学書院