医学界新聞

 

連載 クリニカル・クラークシップ
-新しい医学教育への挑戦 第6回

Faculty Development


FDの推進は「待ったなし」

 「Faculty Development(FD)とは,メンバーを構成する一員として効果的な教育者になるために,お互いに啓蒙し合い,教え合い,学び合い,高め合っていくことではないでしょうか」
 さる2月に東京で開催された「環太平洋医学教育シンポジウム」で,黒川清氏(東海大医学部長)はこのように語り,FDの推進に意欲を示した。
 「われわれ(医学部の)大学人は,十分な知識・技能・心を身につけた医師を育成するという,社会に対する責任がある」との黒川氏の持論のもと,東海大が1997年10月にクリニカル・クラークシップ(以下,クラークシップ)を導入してからまもなく2年が経つ。「ゴールが10なら現在は2か3のレベル」と,黒川氏らは自らの到達点を評価する。しかし,これは教員たちがレベルを下げたり,手を抜いて教えているということを意味しない。
 昨年から学内に設置されたFD委員会(委員長=狩野力八郎精神科講師)の委員を務める阿部好文氏(内科講師)はこう語る。
 「教員たちは100%の力を注いで教えています。ただ,クラークシップという教育法そのものが,指導医はチーフ・レジデントや研修医を教え,チーフ・レジデントは研修医を教え,研修医は学生を教えるとともに,お互いに教え合うという階層構造とパートナーシップに立脚したものであるだけに,現時点ではどうしても未完成なものにならざるを得ません。いまの学生たちが研修医を終え,教育に携わるようになった時に,東海大のクラークシップは大きく成長するでしょう。もちろん,私たちはそれを待ってはいられないのですが……」
 現在,そこで学ぶ学生がいる以上,彼らを一人前の医師として社会へ送り出す責任は,すでに存在する。現時点で,クラークシップを有効に機能させるためのFDは東海大にとって「待ったなし」のテーマといえる。

マクロの改革からミクロの改革へ

 「これまで東海大は主にマクロ的なシステムの改革に力を入れてきた。この手法にはそれなりの利点もあったが,クラークシップを含む改革の進行とともにその限界も明らかになってきた。さらなる改善を図るためには個々の教育レベルでの整備が不可欠である。これは,多数の教員の共同作業の積み上げで達成されるものであり,その基礎としてのFDが不可欠と考える」
 さる1月14-16日,第1回東海大学医学部卒前医学教育ワークショップが開催された際,参加者に配られた趣意書にはこのように記されている。
 WHOが医療・医学の発展のためにTeacher Training(TT)構想を打ち出して以降,日本でも1974年より「医学教育者のためのワークショップ」が富士教育研修所(静岡県裾野市)において開かれ,多くの大学関係者がこれに参加してきた。その参加者が中心となって,各施設単位で行なう1泊2日から2泊3日のミニ・ワークショップは,すでに,すべての私立大学と6割の国立大学で行なわれているが,実はこれまで,東海大はワークショップを実施していなかった唯一の私立大学だった。
 一方で,東海大はこれまでに多くの教員を米国へ送り,本場のクラークシップを視察,実体験させてきた。はじめに「クラークシップとはどういうものか」を身をもって知る人材を蓄積する必要があったからだ。今日,さらにその人材を軸に,教育への考え方や手法を共有化するための努力を推し進める段階に入った。マクロの改革が進んでいる分,その目標はより具体的だ。
 「充実したクリニカル・クラークシップ授業を遂行するために,教育への関心を深め,導入コースの望ましいカリキュラムを開発する能力を習得する」
 これが,第1回ワークショップで掲げられた一般目標である。
 クラークシップ導入によって明らかになった教育上の課題を乗り越えるために,ミクロの取り組みが始まった。