医学界新聞

 

第49回日本病院学会の話題から


シンポジウム「医学と医療のはざま」

 シンポジウム「医学と医療のはざま」(座長=東海大医学部長 黒川清氏)では,医療に対する医学の関わり方について,黒川氏を含む5名のシンポジストが口演。20世紀を振り返りつつ,21世紀への展望と課題が話し合われた。
 座長を務める黒川氏は,これまでの医療の世界を“共産主義的"と評し,「医師の能力の差が報酬に反映せず(技術料抑制),自己負担もほとんどないようなシステムには限界がある」ことを指摘。「情報化が進み,高学歴社会になった今,誰もがインフォームド・コンセントを求めるようになり,Evidence-based Medicine(EBM)の必要性が高まっている」と語った。
 また,1996年に行なわれた第93回日本内科学会(横浜市)の会頭講演で,黒川氏が述べた“5つのM”-Market(社会経済),Management(運営),Molecular Biology(分子生物学),Microchip/Media(コンピュータの普及と情報社会),Moral(医師の倫理)-にも言及。「経済成長とともに医療技術は発達したが,医師自体はほとんど変わっていない。将来の医療を規定する要素である“5つのM”をどう時代に対応させていくかが課題」とし,医療システムの変革を強く訴えた。
 続いて登壇した井口潔氏(九大)は,日本の医学研究の歴史から医療の発達を展望。日本は,近代医学が入ってきた時からドイツで主流の『研究室医学』を学び続け,アメリカで主流となっている『病院医学』(実地面と理論面の調和がとれた医学)を長年学んでこなかった経緯を説明。「1970年頃から,大学と関連病院が『病院医学』を具体化させてきている。病院医学を教育に組み込むための施設が必要」と,日本における『病院医学』の発達に期待を寄せた。
 POR(Patient-Oriented Research:患者立脚型医学研究)をテーマに発表を行なった福原俊一氏(東大)は,「DOR(Disease-Oriented Research:動物実験や,組織・細胞・遺伝子レベルの基礎的研究)が発達する一方,その成果がPORに反映されていない。医学と患者の間にギャップがあるから,PORが発達しない」と指摘。「PORこそEBMのevidenceを生み出す」とし,日本におけるPOR教育の必要性を訴えた。

法律,政策の面からも

 医師免許と弁護士免許の両方を持つ児玉安司氏(三宅坂総合法律事務所)は,医療事故の話題から,その防止に向けた医療・医学のあり方を口演。事故の背景には病院職員の連携の悪さがあるとした上で,病院における,(1)組織的なリスクマネジメント,(2)医学的および法律的評価による紛争回避能力,の欠如を指摘し,また「訴訟の準備をスムーズに進めるためにも,インフォームド・コンセントやEBMをきちんと実践することが必要」であることも説明した。
 最後に登壇した川渕孝一氏(日本福祉大)は,現在議論が進んでいる医療構造改革について,その見直しを主張した。川渕氏は,まず「市場原理主義は果たして人間を幸せにするのか」,「効率と公正は両立するか」,「大きな政府と小さな政府とでは」といった問題を提起し,バブル崩壊後の不況の中で,複雑な利害関係が政策を左右することを憂慮。「問題の本質を認識し,(1)少子高齢化政策,(2)健康投資政策,(3)医療産業政策,を原点から見なおすべき」と語った。

シンポジウム「医を測る」

 シンポジウム「医を測る」(座長=日医大常任理事 岩崎榮氏)では,医療の質の評価についてさまざまな角度から口演がなされた。以下,各演者の発表テーマと主な内容を列挙する。
1)岩崎氏「医療評価研究のパースペクティブ」:評価方法や基準の標準化が必要。患者による評価尺度も重要
2)福田敬氏(東大)「パス法(クリティカル・パス)の医療評価」:パス法は医療のプロセスの評価。資源の節約,医療の質の向上,患者満足度の向上,職務満足度の向上が目的
3)橋本廸生氏(国際医療福祉大)「クリニカル・インディケーター(CI)と医療評価」:医療情報を集約できる体制(データベースと研究者)の整備が必要。診療機能を表す指標としてのCIの有効活用と,その限界認識も重要
4)今中雄一氏(亀田総合病院)「顧客由来情報と医療評価」:管理者と現場職員の意識のギャップを指摘。患者に聞いて初めてわかる情報(不満など)をフィードバックする必要がある
5)池田俊也氏(慶大)「医療技術評価」:技術評価は,診療ガイドライン作成やEBM実施に利用できるだけでなく,(1)技術の安全性・効能の上昇,(2)経済効果の向上,(3)社会的評価の向上,にも役立つ
6)伊藤弘人氏(病管研)「アメリカにおける医療評価研究の試み」:(1)政府機関による評価,(2)医療提供者・専門化による評価,(3)消費者団体による評価,の統合が最近の米国の流れ。悪用も可能なため,倫理・道徳面にも注意が必要
 まとめとして岩崎氏は,「数字では表せない態度などの評価も含めて,方法論の確立が今後の課題。医療への信頼の回復に向けて進めていきたい」と語った。