医学界新聞

 

糖尿病性腎症の治療ガイドラインを検討

第42回日本糖尿病学会より


 日本における糖尿病患者は推定690万人ともいわれ,食生活の変容などに伴い患者はさらに増加すると見られている。また糖尿病による合併症も増加,糖尿病性網膜症は38.3%と成人失明率の第1位を占めており,次いで糖尿病性神経障害(36.3%),糖尿病性腎症(20.1%)である。合併症によるQOLの低下や経済的負担の増大も深刻化し,社会的問題にも発展してきている。
 その中でも,特に難治性で人工透析療法を余儀なくされていた糖尿病性腎症については,患者数が急増の一途をたどる現状(1980年には年間790人,1990年には年間4326人まで増えており,この傾向はさらに続いている)を憂慮した日本糖尿病学会と日本腎臓学会の両学会は,「糖尿病性腎症に関する合同委員会」(委員長=滋賀医大 吉川隆一氏)を1996年に設立し,その対応策などを検討してきた。一方で,最近では糖尿病性腎症に関する数多くの有効治療例が報告されるようにもなってきた。
 このような中,さる5月13-15日に,横浜市のパシフィコ横浜で開催された第42回日本糖尿病学会(会長=東京都済生会糖尿病臨床研究センター所長 松岡健平氏,本紙2341号にて既報)では,パネルディスカッション「糖尿病性腎症の病態と最新の治療ガイドライン」(座長=吉川隆一氏,東海大 堺秀人氏)が企画された。

エビデンスに則った治療指針に向けて

 本パネルでは,現在の合同委員会で議題となっている診断上の問題点や最適治療のあり方について,最新の知見が報告されるとともに,討論を深めることを目的に開催。同委員会では,この議論から問題点を整理し,一般医家に役立つ「糖尿病性腎症治療のガイドライン」を作成したいとした。
 糖尿病性腎症で最も早期に現れる病態は「蛋白尿」であるが,特に微量アルブミン尿の出現が早期腎症の主要指標として注目されていることを背景に,槙野博史氏(岡山大)は,「微量アルブミン尿の定義と早期腎症の病態」について解説。「微量アルブミン尿の診断基準の見直し,尿中アルブミン測定値の標準化などを行なうことが必要」と示唆した。また守屋達美氏(北里大)は,1型糖尿病性腎症早期の糸球体組織病変にみられる糸球体過剰濾過および糸球体肥大に関し,2型糖尿病性腎症早期においても両者は存在するかを検討。「2型糖尿病性腎症早期の腎糸球体病変と腎組織機能の連関はいずれも不明」としながらも,両者の存在を確認し,「1型糖尿病性に比し,糸球体組織は多様性を示す」と述べた。
 一方,鈴木大輔氏(東海大)は「腎生検標本の評価と腎症の病態」と題し口演。腎生検所見から,ある程度の腎機能の予後が推測できることを示唆するとともに,予後や治療に関連する糖尿病性腎症の組織学的分類の確立の必要性を訴えた。さらに今西政仁氏(大阪市立総合医療センター)は,「腎症進展を抑制する薬剤として,アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)が唯一確立されてきている」と述べ,ACEIの治療効果を臨床的に明らかにした他,片山茂裕氏(埼玉医大)は糖尿病性腎症の進展が高血圧の降圧治療により予防できることに着目し,各種降圧薬の有用性を論じた。
 さらに羽田勝計氏(滋賀医大)は,「蛋白制限食の現状と有効性」を口演。食品交換表の普及拡大を促すとともに,「どの病期から蛋白制限食とするのかはエビデンスがなく現在不明」と述べ,今後の研究の必要性を指摘した。
 まとめにあたり座長の堺氏は,「日本でのエビデンスに則ったベースをもとに治療指針を示したい」としながらも,「糖尿病性の成人病は,メンタルな面での問題を持つ例も多い。今後はこの視点も重要となろう」と示唆し,幕を閉じた。